第63話 逃げない勇気
クリフは
兵士たちは数人の組をつくり、
レガリアが
要塞に残っている者たちは調理や
セヴェルギンとサヴィアス、
「
セヴェルギンが
二番目に退屈なのは、男たちが
セヴェルギン隊長はようやく顔の
訓練をするかたわらで大あくびをしているクリフを見つけると
「退屈なようだな。クリフ。どうだ、お前さんにもわしがひとつ
そう言って
部下に指導をしていたサヴィアスが遠くで青い顔をするのが見えた。
「セヴェルギン隊長、やめてください。
「黙っておれ! ワシは王国剣術の
クリフはそれを聞いてむっとする。
しかし感情を表には出さずに、
「やめておく。気が乗らないし、それに、両手が
右足と左足の
セヴェルギンはそれをみると
「なんじゃ。そういうことなら片方だけ
そうして座ったままのクリフに近づいた。
セヴェルギンが両ひざを地面に
それは完全にクリフの得意な
クリフは右手で剣の
そのまま左手で
そして、むき出しになった
「ぬわっ! なっ、なんだ!?」
セヴェルギン隊長はわけもわからぬまま
もちろんクリフのほうは本当に斬るつもりはない。
本気なら、セヴェルギン隊長は
まだ何をされたのかもわからないでいるセヴェルギンの
セヴェルギンが再び顔を上げると、クリフは
こうなってしまえば、セヴェルギン隊長にできることはない。
後は
「あんた、これで二回死んだぞ。部隊長っていうわりに弱すぎるんじゃないのか? そんなので
クリフが周囲を
クリフは手にした剣を
セヴェルギンもこれにこりてクリフのところには二度と
そう思っていると、それまでぼうっとしていたセヴェルギンが
「うわはははは! おもしろいやつだな!」
続けてセヴェルギンはとんでもないことを言いだした。
「しかし、わしはまだ負けてはおらんぞ、クリフよ。この勝負はお前の負けだ!」
「なんだと?」
「わしはお前に王国剣術の
「さっき、みっともなく尻もちをついてたのはどこの誰だよ!」
「うるさい! そんなもん知らんわ、
セヴェルギンはおどけながら両手を
クリフは
そして部下たちが
「殺すっ! 殺してやる!!」
背中が
――気がつくと彼の体は
クリフの上半身を押さえ込んでいるのはドラバイト卿で、両足はロー・カンが担当していた。
ドラバイト卿の左手にはさっきまで彼の
一時的に
錯乱状態から解放されたことを知らせるため、クリフはドラバイト卿の
ドラバイト卿は
「危機は
ドラバイト卿は怒り
ロー・カンは役目は終わったとばかりに向かいの長椅子に腰かけ、
「時間通りだ。いったん
「発作は何度起きる予定なんだ」
「これきりのはずだ。まだ二杯目だからな」
そう言うと、
よくもこの状況で
まさかクリフが立ち上がって取りに行くとでも思ったのだろうか。
助手であって探偵騎士ではないとはいえ、どうにも
「クリフ君、記憶ははっきりしているかい?」
ラトがそばにいることにクリフはようやく気がついた。
「いや、二杯目を飲んだところまでだ。何があった……?」
「君はずっとセヴェルギンを殺してやると騒いでいたんだ。
「正直に言うと裁判の間の出来事もあやふやだ」
「僕からはアルタモント卿の質問にいつも通り答えているようにみえたよ。どうやら強い幻覚症状が出て、時間の感覚が失われ、現実と
そのとき、急に心臓を
高熱のせいで周囲の風景は
無理に体を起こそうとすると、口の周りに
知らぬ間に鼻血がこぼれていた。
手の
ラトはハンカチでその血を
「
「それは……セヴェルギン隊長がそうしろと言ったからだ……」
クリフは過去から
ラトに説明するために取り出した言葉は、まるで
かわりに感じるのは
ガンバテーザ要塞は
その夜、クリフの食事の
セヴェルギンはまたもや顔を
彼は昼間の訓練でクリフに負けた後、真剣を木剣に持ち直し、再び王国剣術での試合を
その
「なんだ、
「いいや。お前は強い。それがようくわかった。わしは隊長失格だ。自分自身を
「
彼はクリフの隣にどかりと腰を下ろした。
「わしは弱いが、お前よりもずっと長く生き、そのぶん
「
アンダリュサイト砦で祖父イエルクから、とはとても口にすることができず、クリフは
それに、正直に答えたところでそれはどのみち嘘になっただろう。
イエルクはクリフに対して
あの男は幼い孫を剣で
打たれるのが
そのことをどう説明したらいいか自分でもわからなかった。
だが、セヴェルギンはその場しのぎの嘘をすぐ見抜いてしまった。
「それは口から出まかせというものだな」
「なぜだ。こんなめちゃくちゃな剣術が地上に存在するわけないだろ」
「存在するぞ。わしはこの目で見てきた。実際にな」
クリフは横目でセヴェルギンの顔をうかがう。
セヴェルギンは顔の
「お前さんの剣は炎の中から
「わかったように言われると
「……クリフ、悪いことは言わん。いまからでも
「いやだ。俺は強い。
「そのとおりだ、お前は強く、お前の剣も強い。だが……お前が
「ふざけるな。
「クリフよ。
「そんな目に
クリフが吐き捨てるように言うと、セヴェルギンの瞳に満ちた
彼は
「そうだろう。そう思うのは、お前さんの剣に正義がないからだ。
セヴェルギン隊長は
クリフはそれを
「王国剣術はそのひとつの
「……俺が何者なのか知ったら、あんたもそんな口はきけなくなるぜ」
「お前がどこの誰かなんぞ、何も気にすることはない。なんだったら、
「あんたの名前で悪さをするかもな」
「どうせ
セヴェルギン隊長は冗談めかして笑いながら、食器を
そして下級兵士のごとく隊舎の
それからクリフはしばらくの間、セヴェルギンが置いて行った木剣を見つめていた。
クリフは強かった。
殺し、
だからどこに行っても、どんな
クリフがひとりいれば、そのあたりに
悪さをする仲間は簡単に、どこででも見つかった。
だがその誰もがクリフのことを心から信頼することはなかった。
気を抜けば裏切られ、
その繰り返しだ。
そうなってしまう原因は
彼らにとって、クリフは
クリフはいつでも切り捨てられる部品でしかなかった。
誰もがクリフをぞんざいに
その夜、クリフは与えられた木剣で素振りをして夜を明かした。
その後も兵士たちの
数日して、そのことに気がついたサヴィアスが訓練に
セヴェルギンが
だが、
そのようなものが本当にあるのだとしたら、クリフもこれまでの人生を
そのうちに、サヴィアスたちもクリフのことを信用するようになった。
日中、監視の目があれば
セヴェルギン隊長の
やがて兵士たちにまじって、クリフが隊舎の
夜は納屋の中で寝る許可が下りた。
だが、雨が
まるで意味のわからない王国剣術の
人は希望を裏切らない、とジェイネル・ペリドットが言った通りだった。
人は人を裏切り、
だが希望だけは、自分の力では手放すことができないものなのだ。
「台所へ行って、君の体を冷やすための氷を取ってくるよ」とラトが言った。
「ありがとう、セヴェルギン隊長」とクリフは
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