第61話 探偵裁判、開廷
ドラバイト卿とロー・カンはラトから剣を回収し、クリフに
その際に持ち物はすべてあらためられた。
クリフにいたっては短剣や、
しかし、クリフは抵抗せず、みずからすべての武器を
ラトがちらりとクリフに視線を
ドラバイト卿はアルタモント卿にクリフの剣を
「ついて来なさい」
ドラバイト卿とロー・カンはクリフとラトを間に
廊下の窓は細く、すべてに
館の内部は薄暗く、どこにいてもひどく
「あの二人が前と後ろにいるのに、こんな手錠に何の意味があるんだよ」
クリフは
先ほどの戦いはみっともないことこの上ない
しかもドラバイト卿はまだレガリアの力を残している。
「驚くべきことに、ドラバイトおじさまはあれでもお医者様なんだよ。王都の
ラトがそう話すと、それまで二人を無視していたドラバイト卿が
「もしかしてだが、ラト、お前がよく遺体を
「その通り。僕は解剖術をドラバイトおじさまから、
ドラバイト卿の
「君には治療技術も伝えたはずだぞ、ラト!」
いかにもたまりかねて、という雰囲気だ。
科学を与えたマラカイト博士も似たような反応をしていたことから、ラトは教師からいらないことばかり
おそるおそる
「だからね、クリフくん。君の取った行動は僕の理解を
クリフも積極的に武器を渡したかったわけではない。
だが、ラトほどではないとはいえパパ卿に
それにドラバイト卿はクリフたちに手錠を見せながら次のように言ったのだ。
「二度も私をがっかりさせるつもりかね、クリフ・アキシナイト君。私は君に会うまで
戦いの最中、クリフは自分の心に
ほんの一瞬のことではあったが、もしもドラバイト卿に打たれていなかったら、その考えを
ドラバイト卿は地下室への階段へと向かう。
階段に
階段の下には扉がひとつあり、小部屋に通じていた。
「ここが
部屋の中には使い込まれた
ラトはもうひとつの扉に手をかけたが、
「そちらの扉のむこうが法廷だ。時刻になれば自然と開くしかけだ。扉や手錠の鍵は私とロー・カンがひとつずつ持っているが、
「僕が以前、館に来た時は地下室にこんな
「君たちが来るまでにたっぷり三ヶ月は時間があったからな。久しぶりの
それを聞いて、クリフはやや
「おい、ラト。いい加減説明してくれ。いったいなんなんだよ、探偵裁判って」
「あぁ、探偵裁判というのは、探偵騎士団に伝わる伝統的な裁判のことだよ。探偵が
「
「まさか。探偵騎士が開く法廷だもの。証拠に
「ああそうかい。お前たちは探偵って頭につければなんでも許されると思ってる
「それについては僕も、
ラトは自信なさそうに首を
クリフもまた、ラトの顔をみると、言いようのない不安に
ラトの表情はどこか
これは、すべてジェイネルが残していったレガリアの効果である。
ラトとクリフの心のうちは、誰にも読めない。アルタモント卿をはじめとする探偵騎士たちがいかに探偵術を
そして、それはお互いに対してもそうなのだった。
だからこそ二人の会話にはかなり
もとよりラトの
もしもこれからまっとうな裁判が
だがパパ卿のレガリアとその効果について
「時刻だ」
ドラバイト卿が言う。
ほぼ同じタイミングで鍵のかかっていた扉から「カチリ」という音がした。
自然に開かれた扉のむこうには、控室よりもかなり広々とした空間が待っていた。
明かりは最低限で、一番大きなものが机の上に固定されたランプだった。
長時間、この部屋にこもっていたら、気が
クリフの正面、ラトの後ろの
黒いびろうどの上にレガリアが
アルタモント卿が使っていたものとは違い、
「これが
鍵そのものはあまり
しかし、今、クリフは
ラトとクリフは大人しく、向かい合わせに椅子に座った。
台座に置かれたレガリアから再びアルタモント卿の声が聞こえてきた。
「準備が
アルタモント卿が何か話す
「
「異議を
「アルタモント卿、あなたは正式な裁判をはじめると
「君の言う通りだ、ラト」
「そのうち一名はあなたでしょう。裁判官資格は国王陛下によって与えられる
「それほど
「しかしそういうことであれば、もう一名は誰です?」
「いましがた紹介しようと思っていたところだ。
指を軽く
それと同時に驚くべきことが起きた。
扉正面の壁が消え、法廷の奥に別の部屋が現れたのだ。
「おい、見ろ、ラト」
クリフが呼びかけると、ラトが振り返る。
そこにあるのはクリフたちがいる場所とは違い、
その中央には
拘束は
ラトたちが見ていることに気がついたのだろう。
パパ卿は大きく
だが、こんなにも近いところにいるのに
おそらくレガリアの力で空間を
「ジェイネル・ペリドットは昔、事件解決に必要だからという理由で国王陛下をそそのかして資格を
アルタモント卿がもう一度、指を鳴らすと、その空間は再び元の石壁に戻ってしまった。
「裁判長を
「裁判長を拘束してはいけないという法律はない」
「監禁は
「なるほど。では、証拠が
奥のほうからスティルバイト卿が「
「さて、まずは
「異議あり」
「異議は認めないよラト、最後まで聞きたまえ。ガンバテーザ
クリフは答えなかったが、アルタモント卿は全く気にせずに話し続ける。
「ガンバテーザ廃迷宮にはかつて
アルタモント卿がドラバイト卿とロー・カンを使って武器を回収した理由は、どうやらそのためだったようだ。
「何か
「俺は
「
クリフが答えようとすると、アルタモント卿はそれを
「わざわざ返事をする必要はない。かわりに別のものを」
杖で床を
すると、ラトとクリフの前にあるテーブルの真ん中に四角く
中には
「さきほどの質問に対し
「毒……?」
クリフは
「私はこれから、合計五回の
「何を言ってるんだ? 気でも
「安心したまえ、それを飲んだとしてもすぐに死ぬことはない。
「馬鹿言え。こんなの裁判じゃないだろう。理論に
「とんでもない、これは極めて合理的な裁判だよ。もしも君が本当にガンバテーザ要塞で三十名を殺した
「
「我々はこの事件に対し、
アルタモント卿はあくまでも
「そうだとしても、俺はすべての
クリフが言うと、アルタモント卿が
そんなことは
すかさず、ラトが訊ねた。
「アルタモント卿、僕はクリフ君の
「いや、違う。君にはクリフ君が飲まなかったほうの杯を飲み干してもらうという
アルタモント卿は
「もちろん、この条件を受け入れなかった場合、
「ふざけるな。俺にこんなばかげたことをさせるために、
「ペリドット卿はともかく、ラトがどうなるかは、君の答えしだいだ」
アルタモント卿はこれは
クリフが質問に対して正解を
しかし、みずからの死を恐れて
ラトは目の前にある二つの杯を
恐らくは
「
「ラト……。俺は答えを選ぶ。パパ卿のためだ」
「常に正しいものを選ぶ必要はないよクリフくん。これは
ラトはまだじっと杯を見つめて、そこに何らかの毒の気配がないかどうか
しかもアルタモント卿の
クリフは
「俺は、
ラトは少しぼんやりとした後、
「君がガンバテーザ要塞に? なぜ? それは……正しい答え? それとも嘘?」
クリフは何も言わずに、黙って杯の中身を飲み干した。
「これより一時間の
アルタモント卿が言った。
毒の効果は
強い
頭から真っ
それから間もなく、クリフは
「クリフくん、いますぐ飲んだものを
クリフは首を
もしもこの苦しみから
※探偵裁判のルール※
また、その回答の方法として、液体の入った二つの杯が用いられる。
そのどちらかには毒が入っており、5杯飲むと死にいたる。
正しい答えの杯には毒が入っており、飲まなかったほうの杯はラトが飲み干さなければならない。
脱走やルール違反の際はパパ卿が責任を負う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます