第15話 動き始める事態
(あの二つの情報が揃えば、何か策を練ることができるのですが……)
マクシムさんのいざこざに遭遇してから、早2ヶ月。
色々個人的に動いてみている。
まず一つ目は、エスティの情報。
<バンピィ>の中にいる限り、リアルタイムの情報はなかなか入手できない。
ということは——
マクシムさんのいざこざがあった翌日。
「自分でエスティに赴くのが一番早いのです」
「……一つだけ条件があるわ」
「なんでしょう?」
「あたしがアキトを<
凪沙からただならぬ決意を感じる。
「……わかりました。よろしくお願いします、凪沙」
それから、定期的にエスティに二人で行くようにした。
最初に出向いたのが、やはりセイヤさんのところ。
「お、アキトじゃないか!? いつの間に来たんだ?」
「つい先ほどです」
「いやぁ〜。最近めっきり来なくなったから、心配してたんだぞ」
「申し訳ございません。早速ですが、セイヤさんにお聞きしたいことが」
「……なんだ?」
「ここ最近、この<はじまりの場所>に訪れる人はいますか?」
「テスターの奴らか。あいつらはお前と同様で最近来なくなったぞ」
「……そうですか、わかりました。では、また来ます」
「お、おい!」
さ、ここにはもう用はないですね。
次に会う人のところへ行きましょう。
次に会う人はもう決まっている。
以前彼と会う術は聞いているから、あとは——
こうして情報を得るために、やるべきことは実行に移せた。
そして、もう一つ欲しかった情報は<バンピィ>周辺の詳細な情報。
有事の際に、必ず役に立つはずだから。
開拓をする上で、最低限必要な情報は収集済みだが、自分で調査したわけではない。
何か抜けている情報がないか、確かめてみる必要がある。
そう思って動いているが、今のところ進展は特にない——というよりも、むしろ悪化しているかもしれない。
その原因はもしかしたら、自分かもしれないが。
「アキトさん、ここはどうすればいいですか?」
「アキト!」
「アキト!」
「アキト!」
凪沙が彼らと直接接すると何か嫌な予感がしたので、新人への訓練は私が変わるようにした。
すると、彼らは志向を変えたのか、立ち上げメンバーへのやっかみを急にやめて、私を頼るようになる。
もちろん私だって、マクシムさんと同様で一方的な頼みを引き受けることはしない。
しかし、今までの経験のおかげなのか、せいなのか。
彼らが何を望んでいるのかがわかるようになってきたので、その話を起点にして各自で作業するように仕向ける毎日。
「はぁ」
今日何度目かわからない溜息をつく。
これまでだったら、状況把握して指示を出して、自分も動くことはとても楽しかった。
けれど、今は楽しいどころか、妙に疲れと苛立ちを感じる。
「暁斗、最近溜息が増えたよね」
「そんなことは——はい」
そんなことは『ない』、と言おうとした瞬間、凪沙にキッと睨まれたので、正直に頷く。
「そうだ! 明日は私が新人たちの面倒見るわ」
「えっ?」
「うんうん、それがいいわ! マクシムとゲイル、セルゲイにも声は掛けてあるから、明日は野郎どもだけで探索に行ってきて」
「け、けれど——」
「暁斗、あなた自分で息抜きする時間を作ったことないでしょ? なら、これはあたしからのご褒美と思ってもらっていいから。明日はゆっくりしてきて」
「……わかりました」
凪沙のことを考えると、自分が彼女のそばを離れることは避けたい。
しかし、彼女が私のためにお膳立てをしてくれ、ゆっくりする時間を作ってくれたのである。
そして、彼女が自分のことを本気で心配してくれていることが伝わってきたので、ここは受け入れることにした。
❇︎
「みなさん、今日は私のために集まっていただきありがとうございます」
「何水臭いこと言ってるんだ、アキト」
「いつもお前には世話になりっぱなしだからな」
「たまにのんびりするもの良いでしょう」
マクシムさん・ゲイルさん・セルゲイさんは快くOKしてくれる。
本当に有難い存在だ。
「それで、今日はどこにいくつもりだ?」
「実は、みなさんと一緒に行きたいところがあるんです。ついてきてください」
4人で出掛けるのは初めてだが、お互い気を使い合うことなく歩いていけることが、とても心地良く感じる。
2時間ほど歩くと、目的地にたどり着く。
「渓流、か」
「その荷物ってことは、やりたいことってのは釣りだな?」
「はい。一度釣りというのをしてみたかったのです」
背中に背負っていた荷物から、釣り竿を4本取り出す。
このために、実は昨夜徹夜して用意した手釣り用の竿。
竿は木製だけど、伸縮性があって、丈夫で軽量な素材を使用。
自分で言うのもなんだが、会心の出来だと思う。
「でしたら、みなさんが釣り上げたのは私が調理しましょう」
「お、いいねぇ!」
「では、のんびり始めますか」
釣り自体するのが初めてだったが、工夫が必要な娯楽だった。
餌を仕掛ければ釣れるという簡単なものではなく、釣りたい魚の特徴、川の流れ、深さなど色々な点を考慮する。
しかも、餌に食いついたからといって、すぐに上げては餌だけ食われて終わり。
つまり、タイミングもとても重要になる。
朝早くからお昼前までやって、全員の成果は合計23匹。
ほとんどはセルゲイさんの成果だったが、一人一匹釣れたし、釣れたときの歓声が最高に気持ち良かった。
セルゲイさんが魚を捌いてくれている間に、ゲイルさんが火起こしの準備。
マクシムさんと私で山菜採り。
こんなゆっくりと穏やかに流れていく時間は、これまで経験したことがない。
仮想世界に来てからも、毎日何かやりたいことがあって、ゆっくりする日はなかったと思う。
食事も終わって、4人で焚き火を囲む。
「いやぁ、やっぱりセルゲイが調理してくれるとなんでも美味しくなるな」
「ありがとうございます」
セルゲイさんはマクシムさんの褒め言葉を嬉しそうに受け入れる。
「……こんな日が現実世界に戻っても過ごせるといいな」
「あぁ」
「そうですね」
「きっと過ごせますよ。いえ、必ず」
「アキト……お前さんがそういうと本当にそうなる気がするよ」
ゲイルさんが嬉しそうに賛同してくれた。
その後、しばらく談笑が続いたが、気が付いたら夕暮れ時。
みんな名残惜しそうに帰り支度を始め、<バンピィ>に近づいた頃には完全に漆黒の闇に包まれていた。
「……なんかおかしくないか?」
「何がですか?」
「集落の方を視てみたんだが、この時間なのにまったく灯りが見えない」
(そんなはずは……1箇所だけ灯りがあるところ!?)
「お、おい! アキトー!」
3人が私を引き止めようとしたが、制止を振り切って夜道をがむしゃらに突き進む。
(凪沙に何かあったんじゃないか?)
そう思うと、何かを考える余裕なんてなかった。
とにかく彼女の下へ急ぐこと——それしか頭にはない。
家が見えてきた!
家の前に人影が数人見える。
「ナギー! ここを開けて!」
ドンドンドンッと、玄関のドアを叩く音が聞こえる。
「シュアさん! それに、エイミーさんとマーサさんも……一体どうしたんですか!? ナギは!?」
「アキト、落ち着いて」
「シュアさん……」
冷静なシュアさんの言葉で我に返る。
ふ〜っとゆっくりと息を吐き、呼吸を整える。
「それで何があったんですか?」
「実は……ナギと彼らが……揉めまして。先ほどみんなここを出て行きました」
「それだけなら——カーミアさんは?それに、サンドレスさんは?」
周囲を見渡すと、彼女らの姿もなかった。
「その揉めた彼らの先頭に立っていたのが、カーミアとサンドレスだったのよ」
「なんだって!?」
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