chapter3. 所有ってなんだろう?
第12話 カーミアの気持ち
夢を見ていた。
学生時代仲良かった友人たちと
楽しく遊んでいた日々。
そこに、突如訪れた事態。
友人たちは悪いことはしていないのに連行される。
それをただ見ることしか出来なかった私は——
「マリアー!! はぁはぁはぁ、夢か」
周囲を見渡すと、いつも寝ているベッドにいることに気付く。
やけに昔の出来事を忠実に再現したような、リアルな夢だった。
思い出したくないけれど、忘れられない思い出。
「どうしようもないんだって……わかっているわよ。わかって——」
誰もいない空間であっても、私はぼやかずにはいられなかった。
私の名前は、カーミア・ノルン。
アメリカ生まれ、アメリカ育ちの生粋のアメリカ人。
アメリカはどの国よりも貧富の差が激しく、二極化されている。
その環境にあって、私はギリギリ富裕層の家庭で生まれ育ったから、恵まれていた。
しかし、ある出来事がきっかけで私は反逆者の烙印を押され、事情もわからないまま投獄。
刑の判決をただ怯えながら待っているとき、ある一つの提案を受ける。
『日本で開発中のVRゲームに3年間テスターとして参加すれば、無罪放免とする』
3年間といっても、それはあくまで仮想世界上ではということ。
実際は、現実世界では7日間しか経過しないらしい。
最大の懸念点は、仮想世界へのフルダイブは、まだ人体への影響は一切検証されていないということだった。
でも、そんなことはもうどうでもよかった。
早くこの場から解放されたい。
楽になりたい。
そう思って、提案を受け入れたのである。
仮想世界での生活は、思っていたのと違ってパラダイスだった。
誰に縛られることなく、仕事をしていなくても最初からお金は数え切れないほどある。
しかも、今回のゲームはある意味恋愛ゲームのようなもので、あらかじめ決められたパートナーと信頼関係を築くことが目的。
バトルロイヤルのような殺し合いをするわけでも、魔物との戦いがあるわけでもない、
楽して、楽しんで3年間過ごすことができれば、現実に戻っときに釈放されて、一からやり直すことができる。
さらに欲を言えば、信頼度がお互い高いパートナーにもらえる特別報酬があれば、それこそ遊んで暮らせるだけのお金が手に入れることができるのだ。
「カーミア、どうしたの!? 大声が聞こえてきたけど!」
「サンドレ……ううん、大丈夫。ちょっと怖い夢を見てね」
慌てた様子で私のいるところに飛び込んできた彼は、私のパートナーに選ばれたサンドレことサンドレス。
なぜか最後のスが言いにくいので、サンドレスではなくてサンドレ。
幸いなのは彼が優しく穏やかで、私がどれだけわがまま言っても「しょうがないなぁ」と言ってついてきてくれる。
ゲーム開始当初は、毎日二人で夜がふけるまでとにかくお金を使って遊び倒した。
仕事はもちろん無職だから、一切していない。
ところが、そんなことを続けていたら当然だが、一年後には二人のお金がもう半分以上使っていたのである。
(さすがに……これはやばいわ)
そう思い始めた頃、ちょうどあるパートナーたちの風の噂を耳にした。
なんでも未開拓地で未採掘の鉱山を見つけ、レアメタルの大量採取に成功したらしい。
(これだわ! 噂の人たちと仲良くなれば、お金の心配はなくなるはずよ!)
思い立ったらすぐにサンドレと一緒に噂のパートナーたちを探したが、すでに未開拓に行ってしまったらしい。そのことを、カシムとローラという別のパートナーたちから聞かされる。
そんな意気消沈しているわたしたちに彼らが提案してきたことが、「鉱山を見つけた人たちより先に鉱山入りして、レアメタルを手に入れよう」だった。
そんなの泥棒だ、という意見もあったけれど、なんと見つけた本人たちは所有権を一切主張していないらしい。
だから、私とサンドレは彼らについていくことに決めた——何も考えずに。
けれど——
「ならよかった。じゃあ、これから調査に行ってくるよ」
「今日は誰とだっけ?」
「先日新しく入ってきた四人と、ゲイルとマーサ。それに、ナギさんだよ。じゃあ、行ってきます!」
「いってらっしゃい!」
ナギさんと出会って、私の人生は大きく変わったのである。
あの出会いがあって、彼女に憧れて。
同じ
同じ環境で生きていくことを彼女に認めてもらって、新天地へ。
一言で言うと、刺激的な毎日。
けれど、それだけは言い表すことができないくらい、毎日が充実している。
あの一緒について行った日でさえ、ヘルンポス鉱山での自然の罠。
そこを抜けた先の森林地帯では度重なる天候の変化、緊張の抜けない環境に毎日ヘトヘト。
現在は開拓最前線に住居を構えているけれど、それまでは常に野営続き。
楽しみにしていたナギさんとの仕事も、楽しむよりも1日も早く彼女の役に立てるように励むのに精一杯。
ゲームが始まっていた当初に望んだ、生きていくのに十分なお金もなく、楽ではまったくない。
今日はともかく、明日はどうなっていくのか分からない日々。
それでも、現実世界以上に私は生き生きしているって断言できる。
仮想世界時間で2年が経過した頃、一緒に生活する仲間も増え、ようやく慌ただしい生活にも慣れてきた。
仲間たちとも順調に関係値を築けていると思う一方、ずっとモヤモヤしていることがある。
それは——
「カーミアさん、おはようございます」
「あ、おはようございます」
「ちょうどあなたとお話したいことがあるのですが、今よろしいでしょうか?」
「は、はい! もちろん!」
家を出たところで偶然出くわしてしまった青年——尊敬し、憧れているナギさんのパートナーであるアキトさんに対する私の認識である。
「実は……最近あなたとすれ違うことが多い気がしていまして。もし自分に対して、何かに思うところがあれば教えていただけないかと」
「!? (この鋭いところ、なんか苦手なのよね)」
アキトさんが懸念していた通り、私は彼のことを最近特に避けている。
決して嫌いで避けているわけではない。
むしろ、ナギさん以上に尊敬していることがあるくらい。
(はっきり言って、アキトさんは超人なのよ)
内心何度もそう呟きたくなる。
その超人さ故に、逆に近寄りがたいというのもある。
「……いえ、特にありません。ごめんなさい、最近慌ただしくしてしまいまして——」
「……そういうことでしたらよかったです。みなさんのサポートをするために、見えないわだかまりがあれば向き合いたかったものですから」
「そう、でしたか」
その想いの深さに、内心チクリと心が痛む。
「はい。では、一応私からあなたにお伝えしたいことがあります。よろしいでしょうか?」
「!? もちろんです」
「実は、あなたに私はずっと嫉妬しているんです」
「えっ!? それは、一体どういう——」
信じられない。
相手に嫉妬するような人じゃないと思っていた。
そもそも、誰かに嫉妬することがないくらい、何でもできる人だから。
「新しく加わってくれたメンバーともすぐ打ち解けていきますし、いつもカーミアさんはナギの役に一番立っています。そのことへの羨ましさから——だから、その想いがあなたに伝わってしまっているから、避けられているのかと」
(そんなことは——)
「もし何かありましたら、遠慮なく言ってかださいね。最大限善処します」
優しい微笑みを浮かべる彼は、心底ホッとして安心した様子だ。
私はアキトさんに嘘をついたことを、激しく後悔した。
「あ、あの——」
「暁斗! なんで起こしてくれなかったのー!?」
嘘をついたことを告げようとしたタイミングで、ナギさんが彼女の家から飛び出てきた。
「ナギ、おはようございます」
「おはよう——じゃなくって! 何で起こしてくれなかったの? 今日は朝から現場があるって伝えてたじゃない!」
「はい、覚えています」
「だったら——」
「けれど、あなたには『そろそろあたしはあなたから自立するわ! だから、もう朝起こすのはやめてね』と頼まれています」
「うっ!?」
「だから、はいどうぞ。朝ご飯食べる暇がなくてもいいように、朝昼二食分弁当を作っておきました」
「……ありがとう、暁斗。じゃあ、行ってくるわね!」
「はい。行ってらっしゃい、ナギ」
ナギさんは私たちの前では絶対に見せないような表情を見せ、私の存在に気付かず走り去っていく。
「ごめんなさいね、いつもナギが騒々しくて」
「い、いえ」
「それで、先ほど何かを言いかけていましたが——」
「何でもありません! また何かあったときはよろしくお願いします。それでは失礼します!」
アキトさんは何かを言いかけていたが、私はそれを張り切って逃げ去っていく。
そう、私がアキトさんを避ける理由は、彼と同じ理由で嫉妬である。
私たちが合流してからは、特にナギさんとの時間は私が一番多い。
それは、調査の関係で数日あけることが多いことと、アキトさんが別行動するからである。
しかし、ナギさんとアキトさんは、会っている時間が短くても、深いところで繋がっているのがよくわかる。
さっきだって、ほんの1分足らずのやりとりだったのにもかかわらず、ナギさんはとても幸せそうな笑みを浮かべていた。
そして、私の存在が気付かないくらいアキトさんに夢中になっていて……。
正直逆恨みのようなものだし、私がアキトさんを避けていることがナギさんに伝わったら、きっと嫌われてしまう。
「それだけは絶対にイヤッ!」
「急にどうしたんですか、カーミア?」
「えっ!? あ、エミリー?」
「あ、じゃないわよ、まったく! 約束していたのに、家に出向いたらあなたいないし。たまたまその近くにいたアキトに尋ねたら、こっちの方に走っていったって聞いて」
エミリーは私たちの次に加わったメンバーの一人で、ゲイルのパートナーでもある。
普段はダラダラしていてだらしなく見えるが、色々機転が効くことをあのアキトさんに認められ、よく頼りにされている。
「ごめんね……ちょっと考え事しててね。(はぁ。独り言を聞かれたのが、エミリーで本当に良かった〜)……よし、じゃあ今日は昨日よりも奥地に行ってみよっか」
「げげっ、まじかー。昨日まででもかなりしんどかったのに」
「ほらほら、ボヤがないの。さっ、いくよ!」
「はぁ〜い」
こういうとき、彼女のようなマイペースの人間がいてくれて本当に助かる。
アキトさんへのわだかまりは、今はどうすることもできなさそう。
だから、今は私のできることに専念しよう。
さて、これからエミリーをどうやって鍛えていきましょうか?
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