第8話 ヘルンポス鉱山
凪沙と共に掲げたクエスト『鉱山で
目的であった
クエストが完了したとわかったとき、「こんなにあっさり終わって良いものなのか?」と逆に疑ってしまうくらいに。
「お前たち……自分たちがどれだけ異常なことを成し遂げたのかわかっているのか?」
「「???」」
「はぁ。まぁお前たちのことは最初に会ったときから何かしでかす奴らかと思っていたが……やっぱり無自覚なんだな」
クエストが終わり、凪沙とともにユニティに戻ったところ、偶然グランドヘブンへの出入口で遭遇したセイヤさん。
ことの経緯を彼に話したところ、なぜか心底疲れた様子でやれやれといった仕草を見せる。
「一体何がそんなに驚くようなことなのでしょうか?」
「そうよ。ただ未開拓地へ足を踏み入れて、鉱山までのルートを確保して、鉱石を採ってきただけじゃない」
ねぇ〜っといった感じで、お互い不思議な顔で向き合う。
「だ・か・ら! それが全部ここでは異常なんだよ。カァ〜! だから、俺のようなやつがいないと……」
「何か言いましたか? 最後の方が聞き取れませんでしたが」
「……大したことねぇよ。でだ、この話は他に誰かにしたのか?」
「いえ、ちょうど今帰ってきたところですし」
「なら話すなら人と、場所を、ちゃんと選べ。わかったな!」
セイヤさんは自分と凪沙に強く念を押すと、ドスドスと聞こえてきそうな足取りで管理塔の方へと戻っていく。
「「……」」
二人の間にヒュ〜っと風が通る。
「セイヤ、すごく興奮してたわね」
「興奮というよりも怒っていたような。私たちのために」
「そうね。とにかく今日のところは家に帰りましょう」
「わかりました」
本当はユニティに戻ったら、その足で余分な鉱石を売りに行こうと思っていた。
けれど、セイヤさんの忠告を聞き入れると、迂闊な行動は控えておいた方が良さそうと感じ、そのまま帰宅することにした。
*
「それじゃあ、初クエスト達成を祝して……乾杯!」
「乾杯!」
カーンっとお互いのジョッキをぶつけて、祝杯をあげる。
現実世界ではまったく楽しめなかった酒の席。
一緒に飲む人は、会社の関係者がほとんど。
ある時は、何かにつけて我が社を称賛してくれるが、それが建前であることはバレバレで。
またある時は、ライバル会社や相容れない誰かの陰口ばかり。
正直実りもないし、疲れるだけだと判断して、極力酒の席は避けてきた。
ところが、この世界に来てからと自主的に酒場に通ってみると、普段出会わないような人とも話す接点が生まれ、そこから意図せず欲しい情報が手に入ったことも少なくない。
無駄だと思ったことが、意識一つ変えるだけでこんなに変わるなんて。
「急に黙ってどうしたの、暁斗?」
「いやぁ、こんなに楽しく酒が飲めるなんて、ここに来るまで思ってもみなかった、と」
「そう言われてみれば、あたしもそうかも」
凪沙はジョッキの口部分を愛おしそうに撫でている。
「意外って顔してるわね?」
「え、えぇ。私と違ってあなたは、愛想がよく社交的な女性だと感じていますので」
「それは……あたしもここで見せた初めての一面よ」
寂しそうに笑う彼女を見て、今はこれ以上踏み込むのは楽しくないと感じた。
「それはそうと、今回はありがとうございました。凪沙のおかげで目的のものをリスクなく手に入れることができました」
「どういたしまして」
改めて感謝を伝えると、凪沙は快く受け取ってくれた。
「あなたの
時計からマップをウインドウ表示すると、エスティから鉱山までで通った箇所が明確に表示され、まだ未開拓の部分はモザイクがかかっている。
マップはエスティ以外の場所はモザイクになっているが、一度通ると鮮明に表示される仕組みになっているようだ。
さらに、マップには『危険生物生息エリア』『食料調達エリア』『採掘可能エリア』といった情報が書き込まれている。
このマップに任意の書き込むためには、<
当然自分は持っていないが、なぜ書き込んだ情報を見れているのか?
その答えは、凪沙とマップ共有をしているため、彼女が書き込んだ情報を見れているから。
ちなみに、
正直この凪沙のマップがなかったら、かなりクエストは困難を極めていただろうことは、容易に想像がつく。
「そうでしょ? だから、あたしはみんな同じことを当たり前に思いつき、すでにやっていると思ったの。<
「そういうことでしたか」
だとすると、別に情報が広まることに対して、あまり懸念することはないのでしょうか。
「あたしよりも、あなたの方が絶対に周りは異常だと感じるわよ」
「そう……ですかね」
「そうよ。
凪沙は呆れているような、感心しているような様子で見つめてくる。
確かに、新しい
<
<
どちらも高度な
そもそも、なぜ
原石から特定の鉱物を取り出すのに必要な工程は、<
どのステップもかなりの集中力と時間を使うので、一日で使うことのできる回数はかなり制限される。
そこで、最初は<
なぜエラーになる原因を模索していた時、ふと計算ソフトで図形と図形を一体化させるイメージが思い浮かんだのである。
つまり、異なるものをただ一つに合体させるのではなく、関連付けた上で一体化させればいいんじゃないか。
そう思って試してみたところ——
(結果は大成功。何事も試してみるものですね)
解消したいと思っていた労力や時間も、嬉しいことに半分カット。
<
「とにかく暁斗の新しい
「ですよね」
その後も、しばらく談笑が続いた。
そして、あまり深く考えずに鉱石を売りに行ったら、私たちにとっては想定外——セイヤさんにとっては予想通りに、根掘り葉掘り質問してくる有象無象の集団に囲まれ……。
不本意にも、私たちは仮想世界でも一躍有名人に。
当然、セイヤさんの耳にもすぐ伝わり、私と凪沙はセイヤさんにこっ酷く叱られることになったのである。
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