不思議な初恋
楠木 終
不思議な初恋
「好きですっ!」
昂ぶる心臓の音を必死に抑えてその言葉を告げる。
雪が降る中で、この言葉を言うにはとても時間がかかった。
目の前にいる彼女はそんな僕を見て柔らかに笑っていた。
そんな柔らかな笑顔に恋したのだ。齢13歳ほどにしての初恋だった。
返ってくる言葉は
「ありがとう」
涙を流していた。なんでかは分からない。知らない。
「でも、ごめんね?」
ほろりと落ちた涙が屋上のアスファルトに染みる。
なんで? そう聞きたかった。
彼女に好きな人がいるのなら、それを応援するだけの気概はあったと思う。
嫌いといわれたのなら、彼女の目の前から消えてあげることだって出来たと思う。
だが、その言葉を出す前に。彼女は
――死んでしまった。
体を緩ませ、落ちていった。
学校の屋上から血の花を咲かせたあとに、嫌な音が響いた。
視界が歪む。
冷たい。その感覚しかなかった。
世界が反転する。
「また、この夢……」
初恋に縛られている少年はぼそりと呟いて、窓のカーテンを開いた。
空は、あの日のように雪が降っていた。
――――
雪の降る外の世界を歩き続ける。
何か理由があるわけではない。
ただ外に出たくなった。それだけだ。
世界はいつもと変わらず回っている。
彼らは会社に勤めて働き、彼女らは家で家事をしている。少年たちは元気に外を駆け回り、少女たちは部屋の中で姦しく談笑している。
何も変わらない。
三年前のあの日から何も変わらずに生活している彼らを羨む気持ちは少なからずあって、忘れたいと何度願ったか分からない。
でも、忘れられないのだ。もはや呪いのように。なにをしても彼女のことを思い出す。
恋は病気だ、なんてよく言うが本当にそのとおりだと思う。
しかし、忘れてはいけないのが彼女を知っているものは僕だけだということ。
僕が彼女を忘れれば、きっと彼女は世界から本当になくなってしまう。
血の花を咲かせた後、数分後にその血は全て消えていて、だれも飛び降りていないと言われたときは、気味が悪かった。
誰も聞いていなくて、誰も見ていないと言う。
一体彼女は何者だったんだろうか?
そんなことを考えて、公園のベンチに座り込む。
「なにやってんだろ……」
ぼそりと口から零れた。
確かに今は冬休み。だからといっておくも怠慢に過ごすのが正義だとは思えない。
あのときの冬休みは――。
『もう、私のことは忘れなきゃダメだよ?』
笑い声が混じって聞こえた気がした。
『ほら、君らしくないじゃん?』
僕は結構一途なんだよ。
空笑いしながら、己が作った幻聴に答えてしまう。
『「死者を思い続けても意味ないんだから」』
笑い声が、聞こえた。
「なんで……」
そこには、三年のときを経た彼女の姿があった。
「久しぶりだね」
柔らかな笑みに涙を浮かべて、やはり何がなんだか分からないのが彼女だった。
――――
あとがき
伸びたら連載する可能性があります。
彼女について気になるが!? ってひとは是非、レビューお願いします。
不思議な初恋 楠木 終 @kusunoki-owari
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