第10話 いざという時


「ガオオオオッ!!」

「ギャギャギャッ!」


 青い炎が消え去って、レッドウルフとゴブリンが飛び出してくる。

 気配感知で動きを読んでいたので、ヒラリと身を翻して攻撃を躱した。そしてすれ違いざまにそっと触れて、青魔法を発動させる。


意識断絶ブラックアウト

意識断絶ブラックアウト


 魔力流れが止まった魔物たちは、そのまま崩れ落ちるように地面に横たわった。まだまだ数が多くてキリがない。


「玄武! さっきのをもう一度やるから、援護を頼む!!」

『任せておけ!』


 そして、僕の周りに凍てつく息吹を吐き出して、魔物たちを瞬殺していく。


地獄血焔ブラッドファイア!!」


 再び青い炎の壁が広がるが、残っている魔物のランクが上がったのか耐火能力のある魔物が生き残っていた。

 僕の攻撃を耐えた魔物たちは、騎士団と魔導士団がすぐさま倒していく。冒険者たちもそれぞれのギルドマスターに従って、向かってくる魔物を次々と倒していた。

 この青魔法は魔力の消費が激しいので、すぐに回復する。


強制魔力解放フォストマジック

「ハイヒール」


 魔物の大群は二度の地獄血焔ブラッドファイアで残りわずかとなっていた。でも残っているのはどれも高ランクの魔物ばかりだ。


「クラウス君!」


 そこで声をかけてきたのは、アラン団長だった。


「ウルセルから聞いている。さっきの魔法も君なんだな。窮地を救ってくれて感謝する」

「いえ、それよりもこの魔物たちのボスは、おそらくキングミノタウロスです。どうやって攻めますか?」

「そんなことまでわかるのか……はっ、俺でも敵わないな。では我々が先陣を切ろう。この青い炎の壁が次に消えたら仕掛ける」


 一瞬微笑んで、すぐに厳しい視線を炎の向こうにいるキングミノタウロスに向けた。


「わかりました。僕は後ろからついていきます」


「頼むよ。……いざという時は好きに動いてかまわない」


 そう言ってアラン団長が戻ると、騎士団は陣形を整えてランクの高い魔物に備えた。

 炎耐性のある魔物は冒険者たちが倒していき、燃え盛っていた青い炎は勢いをなくしていく。


 弱くなった青い炎を踏みつけて出てきたのは、キマイラやポイズンベアーなどのAランクの魔物だ。

 騎士たちはアラン団長の指示で、魔物に攻撃を仕掛けている。王都をも守る騎士たちは危なげなく魔物を倒していた。魔導士団も騎士たちの動きに合わせて、的確なサポートをしている。


「っ! きた、キングミノタウロスだ……!」


 二本の角が伸びる牛の頭に、筋骨隆々の体躯は茶色の体毛におおわれている。足は膝から下が頭と同じく牛のようになっていて、つま先は蹄になっていた。


「第三部隊、くるぞっっ!!」


 アラン団長の言葉に中央に陣取っていた騎士たちは果敢に攻撃をしかけた。赤魔導士は補助魔法をかけて、騎士たちをサポートしている。黒魔導士もキングミノタウロスが見えた瞬間から、攻撃魔法を放っていた。

 だけど攻撃がまったく効いていない。


 キングミノタウロスへの剣の攻撃は弾かれて、魔法の攻撃はマジックバリアで防がれている。いままでの魔物とは比べるまでもなく格が違っていた。

 玄武は冒険者の穴埋めで外壁門を守っている。応援は頼めない。キングミノタウロスは巨大な斧で騎士たちをなぎ払っていた。陣形はあっという間に崩れて、軍馬に乗ったアラン団長も前線に出てきている。


聖なる十字架ホーリークロス!!」


 アラン団長の魔力を込めた剣撃がマジックバリアを壊して、攻撃魔法を打ち込めるようになった。すかさず黒魔導士が攻撃するも、すぐにマジックバリアが復活して少ししかダメージが与えられない。


 これじゃ、倒す前にこちらが消耗してやられてしまう——


 アラン団長もギリッと歯を食いしばっていた。きっと僕と同じ考えなんだ。僕はアラン団長の言葉を思い出す。


『いざという時は好きに動いてかまわない』


 いくしかない。ここで騎士団がやられたら、王都はさらに壊滅的な被害を受ける。カリンが無事ですまないかもしれない。キングミノタウロスの魔力の流れはつ掴んでる。やってみるしかない。僕はキングミノタウロスに向かって駆けだした。


 騎士たちの間を縫うように進んで、前線まで出ているアラン団長の横も駆け抜ける。


「っ! クラウス君!」


 呼び止めてられても、とまるわけにはいかない。そのまま一気にキングミノタウロスの目の前まで躍り出た。圧倒的な存在感に気圧されそうになる。


 目の前の敵も僕に気が付いたみたいで、咆哮を上げて向かってきた。僕の頭めがけて巨大な斧を振り下ろしてくる。騎士たちは攻撃を避けるようにすぐに距離を取った。僕にとっては都合がいい。そのまま懐に突っ込んで、スライディングで股の間をすり抜ける。

 そして背中から飛びつき、青魔法を放った。


極炎血ヒートブラッド!!」


 両手からこれでもかと、僕の魔力を注いだ。

 さきほどの全体攻撃とは違って、直接魔力を流し込んだから効果は高くなる。Aランク程度の耐火能力ならものともせずに、青い炎が焼き尽くすはずだった。


「グガアアアアッ!!」


 キングミノタウロスの身体からはユラユラと湯気が立ち上っているが、発火はしていない。とんでもなく頑丈か、Aランクの魔物より高い耐火能力があるかだ。


 ヤバいっ! 思ったより効いてない!!


 キングミノタウロスは、僕の腕をつかんで思いっきり地面に叩きつける。背中に強い衝撃が走って、一瞬息がとまった。


「がはっ!!」


 次に見えたのは、キングミノタウロスが振り上げた巨大な斧だ。

 鈍く光る刃が僕めがけて振り下ろされる。


強制魔力解放フォストマジック!」

「ハイヒール!」


 ギリギリで回復して、横回転してすぐに起き上がった。一旦距離を取って作戦を練りなおす。


「うわっ、ギリギリ! 炎属性の魔法が効かないなら、反対の属性で攻めてみるか」


 その場で軽くジャンプして、こわばった身体をほぐしていく。一歩間違えば即死の戦いに、わずかな体の緊張が命取りになる。

 ふーっと息を吐いて、体をラクにした。


 僕の攻撃青魔法は炎属性だけじゃない!

 必ず倒してカリンのいる街を守ってみせる!!


 僕は意を決して、駆けだした。

 騎士たちや魔導士たちは、アラン団長の指示で他の魔物と戦っていた。僕が接近戦しかできないから、手を出しにくいのもあるのだろう。


 どんなに失敗しても、何度でも回復して立ち向かうんだ。魔力か体力さえあれば、僕はずっと戦える。

 そうやって戦うしかできないから、僕は絶対にあきらめない。


 キングミノタウロスの斧をかいくぐり、捕まえようとする手をすり抜けて、高く飛び上がった。僕の体を宙返りさせて、キングミノタウロスの頭上を飛び越える。手を伸ばした先には曲がった角があった。

 掴んだ瞬間に魔力を流し込む。


極氷血ブラッドダウン!!」


 キングミノタウロスは、ピタリと動きをとめた。

 灼熱から極寒へ、熱を奪い続ける僕の魔力に今度こそ大きなダメージを受けていた。


 十秒後、魔物を焼いた跡の残る平原に、キングミノタウロスは氷柱に支えられるようにして凍りついていた。


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