第6話 希望だお

 決闘の夜を明け、徹夜で周囲の警戒に勤めていた僕の気は張り詰めていた。


「寒い……」


 王都の地域は冬季間近だったらしく、深夜の寒さに堪えつつ。

 僕はライザと隣り合うように路地裏で朝を迎える。


「……う」


 するとライザがうめき声を上げた。


「起きたかライザ?」

「タケル……私たちはまだ生きてるのか」

「ああ、君のおかげで九死に一生を得た」


 言うと、狐の顔付きだった彼は破顔してみせる。


 ライザは立ち上がり、僕たちを包んでいた毛布を手に取った。


「もう大丈夫なのか?」

「ああ、この毛布は?」

「ヒュウエルさんがくれたんだ、しばらくどこかで隠れてろって」

「ヒュウエルにもお礼を言わねばならないな――ステータスウィンドウ」


 何を思ったのか、ライザはステータスウィンドウを表示させる。

 そして何を見たのか、彼は右手を握りしめ、ガッツポーズを取った。


「何かいいことでもあったのか?」

「タケル、昨日の決闘で、私たちのレベルは跳ね上がっているぞ」


 え? 嘘?

 ライザの言ったことを確かめるために、僕もステータスウィンドウを開いた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 プレイヤー名:竹葉タケル

 スキル:ステータスウィンドウ付与

 レベル:11

 能力値

 HP :150

 MP :80

 STR:107

 INT:99

 SPD:124

 LUK:305

 ……

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「おお、本当だ」


 なんか幸運の能力値が飛躍的に伸びてるんだけど……やはり、他の能力はライザに劣る。


 加えて言うなら、昨夜の彼の活躍は凄かった。


 ライザは勇者という肩書に相応しいスキルだけど、僕のスキルはやっぱり屑だお。


「お前ら、どこに隠れてるかと思えばこんな所に居たのか。探すのに苦労したぞ」


 その時、ヒュウエルが僕らの下にやって来た。

 オールバックの黒髪と、立派な口髭がシンボルマークのなりをして。


「ヒュウエル、昨日は騒動を起こしてしまい申し訳ない」


 ライザが一礼済ますと、ヒュウエルは右手で後頭部を掻いた。


「あー、その件についてなんだが、ライザ、お前に王室から招集命令が掛かっている。俺はそれを伝えに来たんだが」


「王室が? 私を? 何の用件なんだ」


「そう邪見にするな、腐っても向こうは王都一番の権威、お前らにとって悪い話じゃねぇと思うがな」


 という事らしい。


「はぁっくしょん!」


 徹夜で警戒していた僕の身体はすっかり底冷えして、風邪でも引いてしまったみたいだ。


「ライザ、早い所向かおう。どの道ここよりは暖かい所なんだろ?」

「そうだなタケル、そうしよう」


 で、ライザと連れ立って件の場所に向かおうとしたんだけど。


「招待客はライザ様のみと通達されておりますので、貴方はお引き取り願います」


 王都の中央部から北東にある、やたら広い敷地の門の前で執事服の人からこう言われる。


「いや、しかし」

「例え、ライザ様の推薦状があったとしても、余計な人間を通すわけには参りません。どうぞお引き取り願います」


 執事の人は頑なに、僕を通そうとはしなかった。

 がっくりだお!


「ライザ、僕のことは気にせず行ってきなよ」

「しかしタケル、お前は私の大切な友人だ」

「それは、僕の方こそそうなんだ」


 元々、僕に友人と呼べる関係は希薄だった。コミュ障って奴でさ、学校だと今一切っ掛けを作れずに、クラスでも浮いて。それでもゲームやアニメ、漫画が心の支えとなってくれて、今まで楽しく過ごせた。


 その僕が、異世界サタナとかいう無秩序で、野蛮な世界に放り出され。


 勇者のジンクスと呼ばれるほど、危険な初日を乗り越えられたのはライザがいたからで。感謝すれこそ、彼の足を引っ張る道理はないし、そんな野暮な感情は覚えなかった。


「君は僕にとっても、きっと大切な友人だ。その友人の門出に、足を引っ張りたくない」


 そう言うと、ライザは思案気に目を細める。


「……わかった、出来ればヒュウエルの酒場で待っていて欲しい」

「そうさせて貰うよ」


 などと言う、儚ぇことがあり、僕はとぼとぼとヒュウエルの酒場に向かう。

 酒場の前に差し掛かり、昨日の二人組が待ち伏せていないか警戒しつつ、中に入った。


「よう、ずいぶんと早い帰宅だな」

「王室はライザだけに用があるみたいで、僕は門前払いされました」

「ははっ、そいつは笑える」


 ヒュウエルは笑うと、暖かいスープをご馳走してくれた。

 酸味が多少パンチ利かせているが、風邪気味の僕にとっては特効薬じみている。


「嗚呼、あったけー」


 先ほどまで暗澹としていた気持ちは、スープによって多少和らいだ。


 ライザ、僕の初めてかも知れない、獣人の友達。


 彼にはとことん、強く、大きな器になって欲しい。


 それが僕が思い描く、友達にかいま見た希望だお。


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