第297話 それぞれの役割
―――――……
私様たちが王妃の部屋で話をしていた頃。
黒焦げの塔からは一人の遺体が見つかった。
しかし判別がつかない程に黒焦げで、見た目で判断がつかなければ『誰』と判断することはできない。
故に、身元不明の遺体として無縁仏となった。
もちろん、王様の遺体ではないかという声は上がった。
しかし証拠がない上になぜそのような事態になったのかの説明がつかない。
本当に王様の遺体ならなぜこうなったのかを明確にしなければならない。
明らかに自殺ではない。
他殺。もしくは事故。
試用したのは私様の≪
というか、これは何の魔法なのかというところさえわからないだろう。
不確定な情報が多いまま『王様が死んだ・殺された』という情報を流すわけにはいけない。
もしかしたら戦争になるかもしれない。
そんな安易な判断は下されるはずもなかった。
なので、王様は一時行方不明となった。
となると代理の王が必要となるわけだが。
代理の王が必要だと暗黙の了解がされた日。
それはつまり、大戦前夜から数日が経った日のこと。
夕日に照らされながら優雅に空で寝そべっている私様。
視界を飛ばした先では、見知った顔が着飾ったおっさん方に囲まれている。
「こちらにお目通り願います!」
「いえ! こちらの方が緊急です!」
「サインだけで結構ですので!」
「全部そこ置いとけ! 気軽にサインなんかしねぇ! これ資料足らんから追加!」
てんやわんやな状況は見てて楽しい。
近くにいたら絶対なんか言われるだろうからこうして遠めに見ているのが一番だ。
第三王子改め、シオン国王代理。
まさかまさかの第三王子は今やこの国のトップとなっていた。
といっても『代理』。
本人は続ける気はなく、周囲には「コウ兄上が戻られるまでだ」と明言している。
そこに『ブラコン』という感情はあってもほんの少しだろう。
大半は『信頼』と『自覚』。
国王によりふさわしいのは誰か、という客観的視点から来る判断と明言だと、私様は思う。
そしてその秘書となっているのが問題児・
コイツは洗脳によって戦に混ざったのではなく、純粋に王族の座を狙っていた、いわば危険人物。
しかし国民はもれなく洗脳されていたため、
つまり裁くこともできない。
ではどうするか。
シオン国王代理となった瞬間、そいつが言った。
「ロアを俺のそばに置いて監視する」
コイツにそんな器用な真似ができるのかと不安になったのは言わずもがな。
そこは思ったよりもうまくやっていて、傍若無人な物言いがいい味を出していた。
変に下手に出るよりいいだろうと評価する。
ロアも忙しさに飲まれてすぐには悪だくみはできない状況のようだ。
少なくともロアはまだ子ども。
貴族と言えど当主は他にいるし、ロア自身が持つ権力は少ない。
今はちょうどいい小間使い程度だ。
そこまで考えて、もしかしたら王族という立場を見せつけるためとかだったら性格悪いなあと、面白がっている私様である。
ではでは。
国王代理が絶大なる信頼を置くオニイサマはというと。
視界を切り替える。
そこは戦いの渦中となった国・レルギオ。
廃墟とは言わないものの人気の少なさが目立つ城の一角で、王子サマ改めコウは体を動かしていた。
シンプルに体操。
最近は室内で体操して、城で雑務をこなして、メイドや執事はいないから家事をして、と。
王子サマらしからぬ生活をしている。
けれどコウはコウでこういう奴だと実感するのが、その表情。
生き生きしている。
文句を垂れるでも不満げというわけでもなく、日々の仕事を着実にこなしている。
これが
ちなみに左目は見えない。
声も出ない。
『治っている』とはいいがたい。
だが、弟子に言わせれば「これでいい」のだと。
「何も直そうと一生懸命になる必要はないんです。コウ殿下は非日常に身を置きすぎました。だから、まずは日常を取り戻すんです。『生きている感覚』を思い出す。それが大事」
だと。
私様にはそういう知識がないから「そんなもんか」と返した気がする。
結果は火を見るよりも、だった。
自分に与えられたことをしなければと機械、いや、人形の様に仕事に追われていたコウはどこへやら。
それはまるで人間のように活動している。
見えなくとも。
声が出なくとも。
『障害』を抱えているように見えなくとも。
一つの『障害』を降り超えようと奮起する姿は、『生き物』そのものだ。
なぜか。本当になぜか。
私様が満ち足りている。
これに関しては私様はほぼほぼノータッチ。
だけど。けれど。
弟子のやっていることの成果が出るのが嬉しい。
成長を感じている時とはまた違った悦び。
ああ、気分がいいな。
宙がえりでもするか。
「おぉっと……おっも」
誰も見ていないところで悠々とごろごろしていたら、腹に乗せていた魔石を落としかけた。
いかんいかん。
これはこの後すぐ使うんだ。
この数日間、ために貯めた魔力が無駄になってしまうところだった。
「……ふむ。もう十分か」
魔力は堪り切った。
これで数百年、数千年は持つだろうか。
ではでは。
これをレルギオの城の地下に眠る王妃様にお届けするとしよう。
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