第37話 未来の同級生

 広場の少年たちは見るからに二極化している。

 白い髪の男の子を先頭にした二人組と、青い髪の男の子を先頭にした四人組だ。

 先頭の二人が言い合っているが、周囲は一人をなだめているか、便乗する形のようだ。

 言い合っている子たちが中心人物なのだろう。

 そして、殿下はその中心人物たちを知っていると。

 私たちが部屋に入ってきたことにも気付かずに言い合っていて、さてどうしたものかと思っていると。

 殿下が通路の階段を降りだして、先頭座席の目の前の手摺から身を乗り出す。



「双方! 落ち着け!」



 ことのはじめに聞いた声以上の叫び声を部屋に響き渡らせ、殿下は注目を集める。

 何事かと慌てた広場の少年たちは、言い合うことを忘れて殿下の方を向く。

 白い髪の少年は口を「あ」の形に開けていた。

 たぶん実際発音していた。



「兄上!」



 なるほど。あの子が殿下の弟だったのか。

 髪色とか目の色とかの遺伝はこの世界ではどうなっているのだろう。

 殿下の金髪に対して弟殿下は白。

 殿下の緑色の眼に対して、弟殿下は金の眼だ。

 よくわからない。

 でも兄弟仲は良いのだろう。

 弟殿下は驚きの表情をぱっと明るくさせた。



「よう。ここで会うとは思わなかったな」

「第二王子殿下……」



 逆に、青髪青眼の少年は恨めしそうな、間違っても正直に王族に向けてはいけないような目つきをしている。

 よく見れば青髪さんの周りの子たちもあまり良いとは言えない表情だ。

 知ってか知らずか、殿下はお構いなしに青髪さんにも声をかける。



「そちらはウ・ドロー家の子息だな」

「……はい。ロアと申します」



 ロアと名乗ったその男の子は、貴族の上位に位置する家系のようだ。

 『ウ』は同じ貴族のであるロタエさんの『ドゥ』よりも上。

 貴族らしく姿勢を整え、殿下に向かって一礼する。

 不満そうな表情は隠そうともしていないが。

 なんだったら同じ王族の弟殿下にも、王族相手とは思えない言い合いをしていたようだが……同級生ならむしろいいことなのか?



「今、ライラが教師を呼びに行ったようだが、君たちの論争は教師の介入が必要なほどか?」



 詳細は聞かず、程度を確認するつもりの様子。

 学校では一生徒である殿下も、当人たちの言い争いにはなるべく首を突っ込まない姿勢なのか。

 一生徒でもない私は口を出さずに静観しておくとする。



「兄上。私たちは双方の主張を通すため、決闘をしようと合意したんです」



 決闘。



「そのために、立会人として教師を?」

「そうです」



 肯定したのはロアと名乗った青髪さん。

 お互いに了承したうえでの決闘で、公平な判断を必要とするために第三者が必要ということだった。

 少女が慌てて飛び出していったのは、決闘を行うと決定しても結局は言い争いが止まらなかったからかもしれない。



「承知した。ならば教師が来るまでお互い距離をとることを推奨する。声が外まで響いて周囲に迷惑だ」



 この中では年長者で上級生である殿下が、冷静に告げる。

 二人組と四人組は声を交わさず、部屋の端と端へ移動していった。

 そして、先程の喧騒はどこへやら、訓練室は静けさに包まれる。

 座席に座った私たちも自然と声が小さくなる。



「座っちゃいましたけど、このあとどうするんですか?」

「教師が来るまでは待機しておく。そのあと何も言われなければ見学でもしようか」



 意図せずして同級生候補の戦いを見ることになりそうだ。

 スグサさんが殿下たちと戦ったとき以来の、見学。

 ことが起こるまでは私が見られる立場だったかも知れないことを考えても、是非とも見学したい。

 教師が来るまでのしばしの時間。

 弟殿下はもう一人の子と何やら話している。

 表情を見るにもう落ち着いたようだ。

 逆に青髪さんは、厳しい目つきのまま、周囲の三人といる。

 時折こちらに目線を向けられているような気がしてならないが、気のせいと思いたい。

 …………思いたかった。



「第二王子殿下」



 青髪さんが、殿下に声をかける。

 隣で殿下が立ち上がった。



「なんだ」

「殿下は、見学なさるおつもりですか」



 あくまで目上の人に対する言葉遣いをしているが、目つきも口調も、やはりどこかトゲを感じる。

 意に介していないような殿下は淡々と答える。



「そのつもりだ。なにか不都合があるならば聞こう」

「いえ……。殿下にはありませんが、あまり自分の力を見知らぬものに見せたくはないもので」



 思ったより慎重派だった。

 さっきの成績を比べる口振りからは、自分が優秀だと広めたいタイプかと思っていたが。



「俺の客人だ。どうしてもというのなら退席させるが?」



 殿下はどこまで狙って言っているのだろうか。

 国の王太子の客人だけを退席させるなんて、いくら上位の貴族でも不敬に当たるのではなかろうか。

 青髪さんは顔を歪め、舌打ちでもしそうな表情だ。

 しかし、渋々頷いた。



「…………わかりました。ではせめてお名前をお伺いしたいのですが」

「だ、そうだが」



 ここで私に振りますか。

 振られては行動しないのも変なので、立ち上がる。

 フードを取るのは流石に今はできないので、そのまま。



「ヒスイ、と申します」

「……家名は」

「ありません」



 ないものはないので、淡々と告げる。

 すると青髪さんは不快そうに、侮蔑の表情で言った。



「『間抜け』どころでもないくせに、王族の客人だと……」



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