第26話 オリジナル

 赤髪が出した何倍もの太い蔓が壁の横から伸びて、目の前を横切る。

 まるで大木のような太さのものが、床から伸びていた蔓と騎士サマを巻き込んだ。



「ぬ……!」



 騎士サマは壁に押さえつけておこう。



「ふう」



 咄嗟に出したから規模がでかすぎたな。

 さすがに現役の三人は連携もできる。

 ふと、右手の競り合いが緩むのに気が付いた。



「別の属性の、同時発動だと……」



 ああ、それで動揺したのか。

 同時発動は公の場では使ったことがなかったっけ?



「本でも書いてなかった気がしますねー……」



 なかったんだな。

 ま、いっか。



「そんなに驚かなくても、別に難しいことじゃないぞ。コツはいるがな」



 またさらに競り合いが緩んだ。

 王子サマの顔を見れば、真剣というより必死。

 余計なことを言ってしまったせいで、魔法の操作が疎かになっている。

 まだまだ発展途上中だな。

 ……私様のせいだけど。


 この世界の人間からすれば『二種類以上の属性を使った魔法の同時発動』は論じる意味すらもないと言われていることだ。

 つまりは「どうせ無理だから」と。

 そういう固定概念は、見ていて、聞いていてイライラしたものだ。

 特に研究者がそういうことを言うもんなら、それこそ研究して証明してから言えって何度思ったことか。

 よく例えられるのが、両手で別々の文字を書くようなもだ、と。

 両手で書くのがだめでも、会話しながらメモを取るとか、歩きながら文字を読むとか、何かと何かを同時にやることはできるだろうに。


 右手で競り合っていた風魔法の威力を上げ、力任せに王子サマを弾き飛ばす。

 体勢を崩した王子サマを赤髪が抱えて、私様との距離が一気に空いた。

 右手の風魔法のせいで長い髪が揺れる。

 次の一手に出られる前にこちらから一つ、やらせてもらおう。



「この世界の連中は、疑念を抱かなさすぎる」



 左手で火属性魔法を使う。

 温められた空気を、右手の風魔法で一まとめにする。

 次第に、一まとめにされた空間の中にバチバチと稲妻が走る。



「魔法の使い方と、ものの考え方だ。「決まっている」と言われていることを全て鵜吞みにしていれば、あんたたちはそこまでだぞ」



 少しずつ規模を大きくしていく。

 左手の火は火力を上げ、右手の風は威力は変わらないながらも空間自体は人の頭ほどの大きさだ。

 今ならばせいぜいこんな大きさで十分だろう。




  オリジナル合成魔法 ≪伝雷デンライ




 風で包んだ球体を適当に放った。

 中でけたたましい音を立てていたそれは、床に落ちた瞬間に弾ける。

 地面を光の如く、いや、光そのものが一瞬で地を這った。

 王子サマを抱えていた赤髪は防御魔法……光属性魔法を使ったようだが、見てからの発動では遅すぎたようだ。

 威力は限りなく抑えたから感電とまではいかないが、全身の痺れ程度は我慢してもらおう。

 火傷にもならない微弱な電撃ぐらいなはずだ。

 王子サマは……ああ、赤髪は忠臣なようだ。

 王子サマを宙に放って≪伝雷≫から逃がした。

 防御魔法は間に合っていなかったし、結果的に英断だったな。

 痺れて動かない体が自然と倒れるのと、投げられた人が地に降りるのは、ほぼ同時だった。



「っ、アオイ!」



 受け身も取れずに倒れた赤髪は舌も痺れているようで、返答できていない。

 まあでも意識はあるようだ。

 うん。調整はうまくいったようだ。

 満足。



「そのうち痺れも取れますよ。うまいこと調整できたんで」



 と言われても。

 納得はしないだろうなあ。



「…………仇は取ってやるからな」



 殺してねーよ。

 あんたも失礼だな。



「じゃあ続行?」

「当然」



 王子サマは綺麗な片手剣をスラリと構える。

 その構えすらもあまりにも綺麗なもんで、ああ、この人自身がこの国の剣なんだろうなと柄にもなく思ってしまった。

 そんな剣を折ってしまうことはしないよう、より細心の注意を払わなければ。

 楽しくなると、つい加減を忘れてしまうからなあ。



「いざ」



 お互い睨みあって。

 王子サマは剣に、私様は右腕に風魔法を纏わせる。

 さっきと同様、剣と腕の攻防だ。

 王子サマが駆けて距離を詰め、剣を振るう。

 私様が腕で受け止め、薙ぎ、避ける。

 これの繰り返し。

 腹に一突きを狙われて、横に薙ぐ。

 ……違和感を感じて、水平移動で距離を空ける。



「ありゃ?」



 腹部の服が裂けていた。

 間に合ったと思ったがなぁ。

 王子サマの剣を見て、納得。

 刀身よりも長く、幅広く、風を纏っている。



「小細工が得意なようで」

「何とでも言え」



 勝つための手段か。

 目的遂行のために知力を尽くす。

 良いことだ。

 ……ヒスイのことはもはやお構いなしかも知れないが。



「ふふっ」



 一人で考えて、一人で笑ってしまった。

 目の前のお方に訝しい目で見られた。

 あんたのせいです。


 …………あれ、そう言えば。

 

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