第25話 VS 魔術師・騎士・王子

 問いかけて、男三人が顔を見合わせる。

 全員がうん、と頷いた。

 打ち合わせでもしていたように。

 王子サマが赤髪と騎士サマより一歩前に出る。



「男としては些か不甲斐ないが、貴方の力量を正しく理解した上での提案をさせてもらいたい」

「なんでしょ?」

「三対一、でいかがだろうか」



 おお。

 私様の力量に三人で対抗するというか。

 確かに男三人としては気の進む提案ではないだろう。

 因縁があるわけでもないし。

 ただ単に男として、っていうプライドなんだろう。

 今まさに女魔術師がタイマンやったばっかりだし。

 そのプライドを横に置いたとしても、勝ちに来ている。

 それだけの力を認められたというのは私様としては嬉しい限りだ。

 ただまあ。

 一つ気がかりがあるとすれば。



「構いませんよ!」



 たかが三人程度で埋められると本当に思っているのか、だが。

 ま、今はそれが最大人数だしな。

 笑顔で了承した。



「ただなぁ。さすがにその身体を攻撃するのは気が進まんのだが……」

「おや。あなたの部下はめっちゃ獲りに来てましたよ」

「ロタエほど割り切れんわ」



 殿下がフェミニストなのか、女魔術師ざっくばらんすぎるのか。

 …………殿下が普通だな、うん。



「じゃあこうしましょう。一発入れるか拘束するか」

「……その方がまだましか」

「んで私様は、三人の戦闘不能か降参させるってことで」

「いいんだな?」

「もちろん」



 三人に限ったことではないが、私様はこいつらも今の時代の人間も、どの程度の力を持っているか知らない。

 私様が創った魔法が広まっているのかもまだわかっていない。

 城に仕える奴らの力量が知れれば、まあそれがおおよそこの国の最大戦力とみて良いだろう。

 最大が知れれば、ヒスイの過ごし方や魔法の使い方も調整していける。

 『英雄の力の再現』の研究がどこまで出来上がってるのかはまだ知らんが、ヒスイが上手く立ち回れれば私様もそれを利用できる。

 予想はしていたことだが。

 私様の身体と人様の魂を勝手に使ったんだ。

 相応の礼はさせてもらおう。



「す、スグサ殿……?」

「おっと失敬」



 いかんいかん。

 皆様の前でつい良くない笑顔を浮かべてしまっていた。

 お礼を考えてしまうといつもこうなる。

 気を付けよう。



「さ! 始めましょうか!」



 気を取り直していこう。

 あえて明るく、パン、と両手を合わせる。

 私様の顔のことは気にしないでもらおう。

 男三人は私様の顔をバッチリ見てしまったようだが、勢いに推されたのか距離をとる。

 殿下と騎士サマが前衛、赤髪が後衛。

 それぞれが剣と杖を構えた。

 殿下は剣の方が得意なのかね?

 ロタエは笑顔を見たのか見てなかったのか。無表情のまま、壁際のソファーに腰掛けた。

 開始の合図は……適当でいっか。



「準備はいいですが?」

「いつでも」



 よし。

 では今度は私が先手をとらせてもらおうか。

 今回は属性の指定はないので、遠慮なしに行かせてもらおう。

 三人に向けて人差し指を向ける。

 くるっと指を回してから、親指と中指の先端同士を合わせて円を作り、魔力を練る。

 足元は先ほどの戦いのまま、水と泥がいたるところにある。

 泥が混じった水を操り、描いた円と同じぐらいの大きさの水滴を三人の周辺に無数に漂わせ、手首を捻り、ぱちんと指を鳴らす。


 ジュワっ


 水滴でそのまま襲おうかとも思ったが、それでは拘束にならない。

 なので水を針のように細く、鋭くして動きを封じ込めた。

 つもりだったが。



「ほほーう」



 相手の火属性魔法で水をかき消された。

 赤髪は火属性もちかー。

 いい反応速度だったな。

 微かに見える赤髪の表情は余裕の一言だ。

 ロタエとはまた違ったポーカーフェイスだな。

 本気の時は表情がガラッと変わるタイプか、表情変わらず内心やべぇ奴かどっちかなー。



「失礼」

「お、お、おおお?」



 やっべ今真っ最中だった。

 いつの間にか近づいて足元で構えていた騎士サマ。

 得物の両手剣で横薙ぎ一閃。

 風魔法で体を浮かせなきゃ危なかった。

 うーむ。さっきから私様は集中できていないというか、紙一重が多いな。

 しっかりしよう。



「少し本気を出しますね、王子サマ」



 二人分は浮いたところで、振り返って同じように宙に浮いている人物に声をかける。

 いつの間に回ったのか。

 真後ろで片手剣を構えている王子サマ。

 剣からは魔法の気配がする。

 風属性かな。



「御免」



 …………一声かけるのが礼儀なのか?



「お構いなく」



 右手に風属性を纏わせて、殿下の突き出した剣と交差させる。

 お互いの風属性で刃と腕は直接はぶつからず、状況としては鍔迫り合い状態だ。

 私様の非力さは風属性でカバーしないと押し負けていたな。



「っ! 腕とは無茶をしますね」

「いやいやそれほどでも。まだまだこんなもんじゃないですよ」



 腕と押し合いしている殿下からしたら堪ったもんじゃないだろうが。

 私様としては武器を使うことはほとんどなかった。

 もとよりこういう戦闘スタイルだ。

 さて次はどうしようか。

 とか考え始めたところで、声が響き渡る。



アル上級魔法ゼヴェニィ ≪草木と星々の狂恋≫」



 腕の太さほどはありそうな植物の蔓が、床から延びて足元に迫ってくる。

 


「赤髪か……!」

「カミル!」

「はっ」



 蔓と騎士サマが同時に迫ってくる。

 片手は王子サマと競っているからさすがに離せないし。

 転移はずるいかな。

 と考えている間に。

 距離が、つまる。



「≪草木と星々の狂恋≫」

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