第15話 後始末
およそ子供には見えない体格の二匹が泣き止むまでの間で、その場にいる四人は目線は警戒を解くことはせず、状況を確認しあっている。
盗み聞きは趣味じゃないが、情報収集のため止む無しとしておこう。
「……皆、怪我はないか」
一人の特に位の高そうな者が気遣えば、三人の従者は口々に無事であることを伝える。
「アオイ。ヒスイはどうしたんだ」
「……おそらくですが、今のヒスイちゃんは別の人格です」
「は?」
一体どうしてそうなった。
言わずとも表情に出ている訴えは、さらには見て確認することなく声音で判断ができてしまうほど。
素っ頓狂、とはまさにこのことだろう。
「一言二言程度ですが、声は全く一緒なのに、明らかに普段の雰囲気が違いました」
「どの魔法も、詠唱せず、でしたね。彼女がどこかでそれらの魔法を知ったとしても、手慣れすぎています」
魔法師団の制服を着た二人が見解を述べる。
歴代の魔法師団の中ではまあ高いほうだろう。
団長当たりまで就いていても可笑しくはなさそうだ。
一人特別ガタイのいい奴も、見た目の年代からしてもそれなりの役はありそうだ。
おそらく王族であろう人間の近くにいるってのもあるし。
ヒスイの状況を知る人間たちなんだろうが、便利そうな立ち位置の人間ばっかなのはこいつの運か。
「殿下、方針を決めましょう」
騎士っぽい奴が口を開いた。
声にも風格があるな。団長に一票。
「……まずは話す。ヒスイのことはこれ以上、変に巻き込みたくない。なるべく傷つけず。…………必要があれば、拘束する」
……ふむ。やや甘い気もするが、ギリ妥当なあたりか。
魔法の力量差は見ておおよその見当はついているだろう。
今は泣きじゃくっているとはいえ、ウロロスもいる。
いきなり殺りあうのは愚策だな。
さて。
こいつらもそろそろいいか。
「ウー。ロロ」
「「……あ゙い゙」」
うわ変な声。泣きすぎ。
「自分たちで散らかした物、まずは分別しろ。ひとまずそれが終わったら声かけろ」
「わがっだ」
よし、と頷いて、ふわっと床に降りる。
同時に、ウーとロロは巨大な姿を変化させる。
人間でいう五歳前後の姿で、男か女か見分けがつかない。
細長い瞳孔を持つ二つの眼も元の姿と同じ色だ。
三つ目の眼は額にあると思われるが前髪で隠れている。
違いがあるのは髪型。
ふわふわに跳ねた髪と、まとまりのある髪はどちらも体表と同じ色。
跳ねてる方は右側、まとまってる方は左側に三つ編みが編み込まれて後ろで終えている。
跳ねてて右の編み込みがウー。
まとまってて左の編み込みがロロ。
今決めた。
部屋にスペースができてから、自分の影から取り込んだものを出し、重ならないように散らばらせる。
棚だけは立てておいてやろう。
「じゃ」
「あい!」
片手をあげれば、片手ずつ挙げて応え、すぐに行動に移した。
うん。素直でよろしい。
その間の私様と言えば。
方針を決めた四人と話し合いに応じるべく、相手を見据えて足を延ばす。
警戒は怠っていないから、今までのやり取りも見ていただろう。
ウロロスが別の作業をしていることで敵意はないと判断したか、殿下と呼ばれた若い男が先頭に立っている。
適当に距離を詰めて、顔の判断ができるところで止まる。
生きていた時でさえほとんどしていなかった礼儀とやらをやってみよう。
片足を引いて、反対の足の膝を軽く曲げて、背筋は伸ばす。
え、待ってこの姿勢きっつ。
「ごきげんよう、殿下。わたくしは魔術師のスグサ・ロッドと申す者でございます。以後、お見知りおきを」
思ったよりこの体勢きつかったから、言い終わって早々元に戻す。
礼儀なんか知るか。
「その名はとてもよく存じ上げております。私はフローレンタム国、第二王子。コウ・ゼ・フローレンタム」
コウ、か。
私様が生きていた時は聞いていない名だな。
「まずはこの場を鎮めてくれたこと、感謝する。貴方にはいくつか確認したいことがあるのだが、よろしいか?」
「どーぞー」
「いきなり緩くなったな……」
文句は受け付けない。私様は王族だからと言って取り繕うつもりは死んでもない。
王子サマも特に気にする方ではなさそうだし、やりたいようにやらせてもらう。
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