魔術師は死んでいた。

彩白 莱灯

死んでいた魔術師

死者

第0話 死者を使った実験は成功した

「成功……成功だ!!」



 大人数による大声の大合唱が起こる。


 そこはとある城の地下にある、日の光と人目のない寒気のする場所。集中して研究に取り組むにはうってつけの場所だ。



 地下の特に開けた場所で、中央を避けて集まる白衣を着た人々は、ぱっと見では数えられないほどに集まっている。


 その避けられた場所は、床にこの国の特殊な文字と線が描かれている。そしてそれは鈍くも激しく光り輝き、中央に横たえられた人型を照らしている。



 閉じられていた瞼は徐々に開かれていく。

 周囲の光を映さない瞳は赤く彩られるも、まるで『それ』はガラス細工のよう。



 大衆の白衣とは一点違う、腕に腕章をつけた男が光を途切らせながら『それ』に近づく。



「立て」



 立ち上がる。



「回れ」



 回る。



「跪け」



 跪く。



「指の骨を折れ」



 折る。



「頭を上げろ」



 上げる。



 蹴り上げられる。



 男は口をきかず、表情を変えず、肯定も否定も疑問も示さない、まるで人形の『それ』の顔を渾身の力で蹴り上げた。


 身体が浮いたことで位置をずらし、倒れ込んだ『それ』は、眼窩と指を赤く腫らしている。



「確認は済んだ。検体番号より『五番』と呼称する」

「はっ!」

「これより『五番』は来るべき戦いに備え、バケモノを殲滅させる兵器として扱うこととする」

「承知しました!」



 幾人もの声が重なり、分厚い声が地下室に響く。


 腕章をつけた男は一人、歪な笑みを浮かべながら呟く。



「人間は進化する。乗り越えられない壁なんてないのだ。たとえそれが『普遍の死』であっても、我らが叡智を持ってすれば凌駕できる! そしてそれは。すでに死んでしまったものでさえも蘇らせる可能性を秘めている。死ぬことはない。死んでも蘇る。死を恐れることのない夢のような現実。そんな世界はもうすぐそこだ!」



 歓喜と狂喜が混ざった声が飛び交う中、床に寝たままの『五番』は、周囲には見えないように腕で顔を隠したまま、小さく舌を打った。






 ―――――……

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