第二話 立ち上がり



子どもをかばい立つアイネ

 


アイネ「やめてください。 このような無益な殺生に何の価値がお有りなのですか!」



兵士1「うるせい、人形が! お前らの存在自体が害なんだよ」


兵士2「神もきっとそう思し召しさ」


兵士1「そもそもアングリアの生き残りがのうのうと生きれると思っているのが間違いだ。 お前らは奴隷以下でしかないんだよ」


兵士3「わかったらさっさとどけ。 皆殺しは今を持って完了するんだよ」



 少年達をかばうアイネを思いっきり投げ飛ばす。 



 彼らはアイネに助けを求めに来ていた。 だが今アイネの目の前で切り殺されようとしている。 何もしていない、いたいけな少年たちを。



アイネ「おやめください。 どうか。 こんなことがあって言い訳がありません!」



 アイネは必至に声を荒げて止めようとする。しかしそれが届くことは無かった。 


 真っ二つに切られたのは兵士の方。



兵士1「な、どういうことだ」


兵士3「き、貴様……」



アイネ「これ以上はもうやめてください。 こんな事、望んではいません!」


 こんな状況で必死に語り掛けても、兵士の怒りは収まらない

 なんせ、自分たちよりも身分の低いものに仲間が殺されたのだから。



アイネは兵士よりも細い剣で彼らを切り伏せた。



 死にかけの兵が語る。


兵士3「き、貴様、い、ったい。 どこから、そんな剣を……」




 兵はそのまま息絶えた。 

 

 泣きすがる子供を横目に、一人の少年が飛び出す。



少年A「ねぇーちゃん!! 街が、みんなが危ないんだ。 助けてくれ。 俺らの父ちゃん、母ちゃんが!!」



 アイネは火の手が上がっているのであろう煙の方角を見て走る。




 街では兵隊が暴れまわてっている。 以前からこの町を襲っている兵団達のグループだ。




 街はまるで、今始まったばかりのうように、逃げ惑う民でいっぱいだった。

 襲われている住民を守りながら、アイネは逃げる人々と反対の方へと、走っていく。



住民1「あ、あれは! 誰だ!? 援軍が来てくれたのか!?」


住民2「違うあれは、教会の、アイネ様だ!」


住民3「アイネ様だ! アイネ様が来てくださったぞ」



 知る住民たちは感極まった。 だがしかし、同時に心配でもあった。 

 協会の華奢な女性が、こんな乱戦に来たところで殺されるだけ。

 何ができるというのだと、期待外れなのは言うまでもない。


 アイネを守らんとする民は逃げる事をやめ、彼女の為に立ち向かった。 



 住民たちはそこいらにある鍬や、竹を持って前に出た。


アイネ「皆さん!やめてください」


 それを見たアイネは止める。が、次々となぎ倒される。 


 アイネはその兵隊たちを切り伏せた。 町中が驚く



兵士A「な、おい、貴様何もんだ。 修道女だろうが」



兵士B「くそが、なめやがって。 俺たちを切ってただで済むと思うなよ! 捕まえてひどい目にあわせてやる。 女ごときが」




 兵隊たちは美しいアイネに我先にと向かっていったが、すべて返り討ちにされ散った。 



兵士C「な、なんなんですかあれは!? 」

兵士D「女だぞ、 そこいらのただの修道女じゃないか?」



 それでも勝てそうな見た目。 兵士たちは次々と向かっていき、散っていった。 



 唖然としたのは兵士たちだけではない。 



住民A「あ、アイネ様なのか、……あれは」

じいさん「あ、あんなことが、せ、聖女様が、わしは天国へ召されているのだろうか」


奥さん「バカ言うんじゃないアンタ!! ちゃんと目かっ開いて見な! どう見てもあれは、アイネちゃんだよ…… けど、なんだい、あんなに兵隊を切り散らして、ただの女の子が……」



 それを見た住民たちは逃げるのをやめていた。



アイネ「再度言います。 お願いですから。 もうこれ以上は止めて兵を引てください」


 ここにいる兵士たちの隊長は、聞き入れなかった。 所詮は奴隷共の信じる教会の女。 30人ほどいる自分たちに負ける要素等何一つなかった。 



 だからこそ後になって隊長は後悔した、逃げればよかったと



アイネ「やめて、くれないのですね……。 弱い者達をいたぶると言うのなら、 私は彼らの為に剣を取ります」


 彼女が剣を構えると、向かって来る兵士たちは倒れた。 あまりの速さで兵を抜けていくと、一気に馬に乗る隊長の首に剣先が届く。



 隊長はこの時後悔だけが押し寄せた。 隊長の首が飛ぶ。


 当然隊長を失った兵達の指揮は止まる。自分たちでは勝てない。 逃げ出す兵士も何人かいた。 隊長とはそれほどまでに、武力でも認められた存在なのである。


 アイネは男が落とした剣を拾うと辺りを見渡す。


 アングリア城からの兵隊たち。 その中でも、最強でも隊長の座から降ろされた者もいる。 それがザイという男。 彼の悪逆非道はすさまじく、手が付けられないため、隊長からも外された 名のある武将でも、下手をすると致命的な傷を負う恐れがあったからだ。 




 アイネはまた、切りかかられそうな男を助けに走った。 


男「ア、アイネ様!? ありがとうございます。 でもアイネ様がどうしてここに。 」



アイネ「私は善良な人を見捨てはしません。 さぁ、早く逃げてください」



男「しかし、アイネ様。 あまりにも無謀です。 失礼ですが、貴女が出られた所で、この殺戮は止まりません。 あなたこそ早く逃げてください」



 アイネは断じて男の顔を見なかった。 ただ正面の一点だけを見つめて。


アイネ「それはやってみねばわかりません。 さぁ、どこも怪我をしていられないならば、早くお逃げください」



 アイネは一人駆け抜けていった。 



 その男は走るアイネを見ていた。 男は腰を抜かしていたのだ。だから彼は、けして見れない一面を見ることとなった。 



 その後を追うように、住民たちが男の横をすり抜けていったのだ。  先程アイネが助けた2丁目の者達。



 兵としてみれば余りにも少ない。 だが、その時ばかりはとても大量の軍勢に感じた。




兵士「こっちだ!! こっちの兵がやられてる!」


兵士2「隊長! 」


 30程の兵を引き連れやって来たのは、シュブン。



 丁度シュブンの兵を打ち倒すように舞い踊る一人の乙女を見た。 


兵士3「あ、あれは一体、誰です……」



シュブン「知らんな。 ただの女ではない……」


兵士4「あの服は、ヴィクトリア教会のものと思われます」


シュブン「ヴィクトリア? それは、以前討ったのではなかったか」


兵士4「はい。 そう聞いております」



シュブン「どういう回し者か? 継いだものでもいるということか?

 まぁ、 どちらでもいい。 潰せ」



 しかしその舞の前にはいたずらに兵を減らすばかりだった。 


シュブン「できるな。 あの修道女」


 一人の男が、女を切ろうとしているのを目にしたアイネは、前に立つ兵を割って先、彼女を助けた。 


 切りかかろうとした男は剣を飛ばされ、吹き飛ばされた。 



女性「あ、ありがとうございます」


 彼女の服はボロボロだった。 

 アイネはそっと、辺りの布をかぶせると、逃げる彼女を守るように立ち塞がる。 



 しびれを切らしたシュブンの側近がアイネに突撃する。 


兵士5「道を開けろ! レルド殿が走ってこられるぞ」


 馬に乗ったレルドという男がアイネに切りかかる。 


 しかしアイネはそれをはじく。 


 レルドという男はアイネを仕留めに行った。 しかしはじかれ、はじかれはじかれ。 攻撃が入らない。 馬に乗った者はその大きさからの威嚇と、上からという優位な位置で攻撃を繰り出すことができる。 


 なのに攻撃が入らない。 そうしているうちに、アイネに馬の弱点をつかれた。 

 レルド真っすぐに胸に突き刺さった剣を見ると馬から落ちた。 



 いつしか、逃げる住民たちは誰一人逃げず、住民を殺す兵達は誰一人襲わず、一人の女だけを囲っていた。 



ザイ「面白そうなことしてるじゃねぇか」



 無数の兵達を相手にするアイネの背後からザイが飛び掛かった。


兵士6「ザ、ザイだ! 離れろ!!」


ザイ「ちっ、あれを交わすのかい。 あんた後ろに目でもついてんのか? って、めっちゃ美人じゃねぇかよ。 こりゃ欲しいね」


アイネ「……」



 ザイは舌なめずりをしてアイネを見る。 これをする時は、心底欲望がむき出しの時であり、目の前の敵が簡単に仕留められると判断している時だ。 



ザイ「きれいな形、透き通るように美しい白くすべすべそうな肌。 たまんねぇな」


アイネ「……」



 アイネは目を細めた。 ザイという男がどれほど下種なのかを理解すると、アイネはザイの攻撃を受け止める。 



ザイ「へへへっ、てめえ、さっきよくも俺を蹴り飛ばしてくれたな。  どうやってお前を遊んでやろうか。 やられたら、人生終わりだと思えよ」



 ザイは楽しそうに彼女に攻める。 


 住民たちはザイの猛攻に押されるアイネを目に、終わりを確信していた。 今までの兵とは一癖も二癖も違うからだ。


 本能むき出しの獣程怖いものはない。 アイネの頬に切り込みが入る。 


 服が切れ、手から血が流れ、それでも必死に剣を受け止めるアイネ。 

ザイ「ははっ、どこまでも俺を楽しませてくれる。 そういう女を落とすのが一番最高だ。 もうじれったいから、さっさと腰抜かせや!」


 ザイの一撃がアイネの持つ剣を払い飛ばす。 


ザイ「終わりだな女。 命乞いするなら今の内だぞ」



アイネ「私はまだ、戦意を喪失していません。 あなたこそ、逃げるなら今の内ですよ」



ザイ「剣も持たずになんだその強気は。 あぁぁぁあ、たまんねぇ、早く落としてぇ。 お前のその絶望の顔を早く見せてくれ」



 ザイは戦意を奪おうと丸腰のアイネに襲い掛かった。 だからザイは背中を切られた。 彼女の持つ細剣で。 


ザイ「なっ、なんだ、とぉ、、、」


 ザイの攻撃など、かわすのも容易かった。 だが、ザイはしぶとく立ち上がる。 


 ザイが兵士に合図を送ると、一斉に、沢山の兵がアイネに襲い掛かった。 

 アイネは流れるように切る。


ザイ「後ろががら空きだ!!」


 背後を取ったザイは胸を切られ絶命した。 



兵士7「あ、あのザイが討たれた」


兵士8「なんだ。あいつ。 ありえない……」



 これを見かねたシュブンが突撃する。 兵の士気が下がっては落とすものも落とせないからだ。



 シュブンを見た時、アイネの目が見開いた。 アイネの抱きかかえる女性。 その光景が頭の中に走る。 



アイネ「お前は…… またお前が、今度は街の人たちまで。 あなただけは絶対に許さない」



 アイネは血走るようにシュブンに向かっていった。 辺りの兵などお構いなしだ。 


 シュブンの兵も半数ほどを失っていた。 シュブンにとっては痛手でもあり、恐怖の宣伝でもあるザイを失っては、士気の低下を止める手立ては一つだけだった。 


 それが今向かてくる。 挑発は成功した。 



兵士8「あいつ、シュブン様に向かて来るぞ」


兵士9「シュブン様を守れ。 あいつをシュブン様に近づけるな」



 壁になる兵士たちを切り倒し走る。 だが切っても切っても兵が横やりを入れる。 


 その時シュブンの方に走ってくる兵がいた。



走って来た兵「シュブン様! 大変です。 東の方より、奴らの仲間と思われる者達が軍勢で向かってきています」


シュブン「仲間? 所詮は武装した残党どもだろう? いや、この状況はこちらに不利か」



 シュブンの判断は早かった。 下したのは撤退。 アイネの前から兵が一斉に引いていった。 



アイネ「待て!! 逃げるなぁ」


 アイネの声は届かず、シュブンは消えていった。 



「アイネ様ぁ! ご無事ですか」


おじさん「皆無事か!?」


 クルーバルやおじさんが駆けつけたのはそれからすぐ後の事だ。 


 中には昔から使っていた鎧を着ている者も何人かいた。 懐かしい、攻め落とされる前からのアングリアの鎧である。



住民1「は、はい。 ここにいるみんなは無事です」


クルーバル「よくあれだけの軍勢に無事でいれたな、奴らはどうした?

 死体も大量にあるが」


おじさん「まさかお前たちだけで……」


住民2「いやいや、俺たちなんて何もできません」


おじさん「ならばこれは一体? どうやって助かったというのだ」


住民1「すべてあの、アイネ様のおかげです」


女性「彼女が、私たちを救ってくれたんです」


 皆が目で指す方向にはアイネの姿が映った。


おじさん「無事だったか!!」


駆けつけた住民兵1「な、なんだって、彼女がこの数を……」



おじさん「たった一人でやったていうのか」


男「はい。そうです。 まるで彼女は聖女様のように突然現れ、我々を導き、失望していた我々に、立ち向かう勇気までくださったんです。 あれは本当にかっこよかった。 だれも見捨てず、一人が、やがて皆を引き連れ戦うその姿が」





 おじさんたちは、立ち尽くすアイネの姿を見ると駆けよっていった。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る