プロローグ 幕は切って落とされた


 悲鳴が響き渡る。    


大きな鉛を飛ばす音。豪快な爆裂音。 擦り合い靡く金属音 


  あたりは赤面に染まり、 熱風が舞い上がる。 


その光景はただ赤く、オレンジや黄色、橙色、 暖色の色が奏でる、真っ赤な風景


そこはまさしく地獄絵図とでも言おうか。





私は信じていた。 彼女はまだ、------------------






我々は戦っている。 決死の覚悟と信念と。そして、命を賭けた闘い


こんな争いを誰が望んだものであろうか。


私達は平和に暮らしていたい。ただそれだけなのに。 


これがたとえ運命として起こりうることが必然だったとしても・・・・・・・


私は立ち止まれない、 だってこんなことあっていいわけが無い !



絶対変えてみせる!!  この境地を、 変えてみせる。




 絶望ともいえるほどの光景だった。赤き旗を掲げし国が何万もの兵を従え、大国アングリア王国の持つ城壁都市内へと攻め込んでいた。


 今にも燃え広がる火の海へ飲み込まれるほど、制圧は進んでいた。


 自国を守ろうとアングリアの兵士は抵抗を続ける。しかし敵の勢いはとどまらなかった。 



「おい。何してる!早く逃げろ」

 ドスの利いた声、ガタイの良い男がハルバードを振り降ろし市民に促す。

 体格は横幅にでかく、それが相当たる訓練をつんでいることを語らずとも理解させる。


 長身でいて、男は兜はつけていないものだから、その鋭い細い目と、その右目を覆うように盾に引かれた火傷のあとはまるで、殺し屋。


 市民を切ろうとしていた敵兵を切り飛ばし、助けだした。


 それを見て駆けつける敵兵3人をそのままぶった切っる。



「ありがとうございます」

 その市民の手には我が子か、子供を離さまいと強く抱いていた。 

 これ以上に無いほどの感謝の気持ち。 母は彼の言葉を守るように涙ぐみながら必死にそこから駆け出した。 お辞儀などしてる余裕は無い。

 彼は親子が逃げる様を目で追う。 逃げ行く先に脅威が無いか観察するためだ。



「クルーバルさん!後ろっ!!」


 突然、大きな焦り声が後ろから上がる。 


 銀の鎧を着たモノが切りかかりに来た。



 母子を助けた彼と共に来ていた兵が、それにいち早く気づき、危険を伝えた。

 

 戦場で背をとられる事が死を意味することは誰もが知っていて当たり前のこと。

 助けたいけど間に合わない、 でも死んでほしくない。何とか危機を伝えなければ!叫ぶとはその思いから出した精一杯の選択であった。

 そして終わった。っと誰しもが思った。 



 しかし背後から切りかかった兵は上に突き上げられている。


「ふぅんっんんんんっ」

 鼻息なのかなんなのか、その力強い音。

 彼は振り返り、手にしていたハルバードの先で敵兵の胸を突き刺した。


 勢いすさまじい力。死角を突かれていたのにだ。


 振り返りの反動か、パワーが有りすぎて、敵の兵士をそのまま頭上高くまで上げてしまっていた。 



 仲間の兵は一瞬、安心と驚きで声が出なかったが、やっぱりクルーバルさん!っと言わんばかりに喜びを表にした。 


「すごいです。 さすがです」


 そういって駆け寄り、手に持つハルバードに目をやる。

 クルーバルは突き刺さった兵を、力の限り縦に降って、ハルバードから飛ばした。


 クルーバルの持つハルバードとは槍のような武器であり、一丈ほどの長さがある。 剣よりも勝り、距離をとっても優秀である。

 そして、槍よりもパワーがあり、突くことしかできない槍とは違い敵を叩き割ることも切る事もできる万能な武器なのである。なぜ切れるのか?先端より少し下は斧のような形になっていて、反対側は金槌のような形状を模しているからである。 もちろん先ほどの戦いのように先端は尖った突起物となっている為つくことも出来る。間合いも広いパワータイプの槍なのである。


 まぁ、しかし、しいて言うなら槍より重過ぎると言うところだろうか。 振りかざすスピードは槍には到底及ばないだろう。 



「そんなことよりさっさと、ここのやつらを逃がすぞ」


 クルーバルは兵士の喜びなどお構いなしだった。


「はい」

 兵は尊敬しているのだろう。勇ましい返事をした。

 今は喜んでいる場合ではない。



その時、



「きゃあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁーーーーーーー」



 突然、断末魔のような金切り声が響く。


 聞き覚えが在る音。 


 さっき助けた女の声かっ!!!!




 クルーバルは声の主を思い出すと、声の場所へと賭け走る。 

 それに、数人の兵が彼に続いた。 




 駆けつけた兵が唖然とした。 


「はあっ、、、、、、あぁっ、、、、」


 兵達のおびえた声が漏れている



 先ほどの母親が、子供から少し離れたところでお腹を埋めて倒れている。大量の血が池のように彼女を囲う。

 この通りは一本道になっており、まっすぐだが、その先は東側の大通りへと続く道の一端だ。回りも無残と言うほどの血の海であり、形がいびつになった死体がいくつも両壁に投げ飛ばされ飛び散らかっている。


 その光景にクルーバルも唖然とした、

 この通路が敵に責められているト言うことは、数少ない退路の一つを断たれたと言うことである。

そしてそれよりも、今目の前に立っているやつ、



 なんだ、、、、、コイツはぁ、、、、、、


 ドスの利いた声が脳内にこだまする。


 目の前には身長、2,3メートルほどであろうか、 馬鹿でかい、二足歩行形の物体が立っていた。しかも手には棍棒の様な刺刺しい武器まで持っている。はち切れんばかりの筋肉体、 そして緑向いた肌に獣のような臭い、何よりもそれは人ならざるものだ。  

 あらかた壁沿いのぐちゃぐちゃの山は、コイツの棍棒の仕業だろう事は一目瞭然であり、そこに倒れた母親もまたこの棍棒の餌食になってしまったことを察した。



 オーク。 いや、違う、確かにオークは人よりでかいものも普通にいるし、ガタイもでかいヤツが大抵だ。そもそもそんな奴がいても、人間界の戦いに出て来る事等無い。


 であってもコイツのでかさはそれ以上であり、オークとはまた違う。

 ガタイもクルーバルと同じ横に広い筋肉野郎だが、その肩幅の広さは別格だった。顔を見れば肉を切り裂くようなギザギザの歯、顔面についた大きな大きな一つ目。 そう、これはサイコロプスとでも言えそうだが・・・・・・・・・




「こんなヤツまで敵さんは連れて来ているのかよ・・・・・・・・・・・

 こりゃぁ、相当恨まれでもしてるかな、我国の王様はよぅ、、、」


 ニヤッと口元を上げ笑った表情。呆れたようにドスの利いた声が呟く。

 クルーバルの顔が引き攣っている。


「クルーバルさん・・・・・」


 兵は脅えきっている。


「あぁ、逃げたきゃ逃げな・・・・・今のうちだぜ・・・・・。 」

 

 クルーバルも余裕ではいられなかった。


 もう、空気は最悪。


 士気の低下というより誰もがその場から戦線離脱したい。 相手もまたクルーバルの存在に目を向ける。

 お互い前の敵から目が話せない。離せばいつ何をされるか、、、、、。一瞬の気も抜けなかった。



 だが、次の瞬間、皆目を丸めた。  


 ママァーっ!!と、か弱い声が叫ぶ



 目の前に倒れている弱った母親の手を摘んで、持ち上げる緑色のでかい物体。



「ッヤア゛ーーーーーーーーーー!や゛めてぇぇーーーー!!離してぇ゛ーーーーー」



 お腹をつぶされ、なおも手から離れようともがき苦しむ母親が必死の抵抗をする。



「やめろぉぉっーーーーーーーーーーー!!」


 クルーバルは咄嗟に叫んだ。 体の本能か、反射的反動なのか、その無残な光景に叫び出す。




「いぢゃやあぁぁlっぁぁぁぁあl-------あがぁぁっあ、、  ああっ、、--」


 聞き苦しい声。苦しさと激痛の悲鳴、いや、もうこれは悲鳴でもない。本当に地獄でもだえる声だ。


 足からじわじわと噛み砕かれていく母親の姿。

 お腹の痛みに耐え、足の無くなる痛みに耐え、彼女は血を吐き目から涙を流し必死に叫んでいた。 



「あああぁあっあっーーーーー、ィダァーーーーイ!!   あがあっっぁっあぁぁぁっぁぁぁー」

 はじめは強かった声もだんだん小さくなっていく。 そして胸まで行ったところだろうか、 

 母の力の抜けた頭はこちらを向いて涙を流し息絶えていた。その目はまるで自分に向けられているようだと皆が感じた。


 その苦痛の顔はクルーバルにも兵士にも闘志をそぐに十分な精神的苦痛を与えた。 



「おいっ、、、、、 おめぇは、そこの子、連れて逃げろ、」 


 クルーバルは子供に一番近い端の兵士に向けて言葉を飛ばす。



 端の兵士も、他も、みなそれどころじゃない、 尊敬するクルーバルの言葉など耳にも入らない。 

 反応する隙すらない。

 今この場で動くことすら怖い。目をつけられたら、それが心境である。  



「おいっ!! しかっりしろ!」


 クルーバルはもう一度叱る様に兵士達に語った。



「はっ。 はいっ。・・・・・・・しっ、しかしっ、、、、、、」

 兵士たちは一瞬だけ自我を取り戻すのだった。 



「手遅れになる前にさっさと子供をつれていけぇ!!!!」

 怒鳴り声といわんばかりに動かない兵士へ向ける。 



 その圧に体を突き動かされたように放心している子供を抱え、端の兵士は元来た道を引き返した。



それでいい。

 ニャっとクルーバルは微笑むと、 ハルバードの矛先を緑の物体に向けにらみを利かす。先ほどの驚いていた表情とは打って変わった。睨みついたその表情はまさに狩る表情へと変貌した。



「てめぇ、覚悟しとけよっ!!」

 怒りをこめ突進するクルーバル。鍛え上げたその体を武器に横ぶりにハルバードを振るう。ハルバードの刃が緑の物体を切り裂き、そのまま裏返し金槌の部分で腹を強打させた。


 うごっ、っという痛そうな声を上げる生物。


 クルーバルの培ってきたパワーも負けてはいなかった。

 容赦はしない、 そのまま金槌部分であご目掛けたたき上げ、これで殺すとも決めた決意の目をすると、心臓の在る胸部を目掛け、長い先端の矛先をつき尽きた。 


 決まったか。 


 そう思った一瞬、気づいた時にはクルーバルの体は、無残に散りばめられた死体の脇へと吹き飛ばされていた。 


 クルーバルの胴体へ、金棒がその脅威を炸裂さした。 


「クルーバルさーーーーーん」



 クルーバルの巨体ですらものともしない、

 もしそうであるのならばこの状況は劇的にまずい、 兵士たちは再度横に散らばる無残な兵士達を見て息を呑んだ。 

自分達も、あぁなる、、、、、、、、




「やってぇ、くれるじゃ・・・ねぇかぁ、」


 クルーバルが崩れ落ちた壁の破片を飛ばしながらゆっくりと立ち上がる、 しかし、 しかっりと鎧がへこんでいる。 

 表情は息がしずらいのか、苦しそう。 



「こりゃ、ちょっとまずったか・・・・・・  ただ、はいそうですかと、てめぇをほっとく訳にもいかねぇんでね。」



 クルーバルは一歩も引く気は無い。 それは付き添いの兵もまた同じ。彼らは立ち上がったクルーバルを確認し、迷いを捨て加勢に向かう。

 たかが一匹であれば、死なずとも、致命傷ギリギリで事を終わらせられるかもしれない。


 皆で攻めれば倒せる。


 兵たちの確信が消失に変るまでは数秒もかからなかった。


 クルーバルを助けられたかもしれない。が、その道の先の方にもう一匹いるのを見た。 兵士たちの足は直ぐにすくみに変わった。





■中央区画ーーーー

「こっちへーーーーこっちへ非難してくださいーーーー」


 奥の扉から市民を壁外へ逃がそうとするアングリア兵。

 東門からはすでに怪物と兵共が攻め込んできていた為、西門より外へ中央区にいた一般民を逃がそうとしていた。


「急いで、 早く、!!」



 町の中央部もほぼ占領されかけており、3分の2と言ったところまで攻め込まれていた。


 すぐにでも市民を逃がしてあげなければ、敵の玩具にされてしまう。


 この戦況をここまでにした敵国の王はすごい。敵の圧倒的兵力、 数も武器も、そしてなんといっても人ならざるものの力はすさまじかった。 

 異端の者の突撃兵。その強靭さも然る事ながら、死に対しての恐れなく突っ込んでくるその割り切った思考は何にも強した。  更にサイコロプスのような化け物や、兵器。 本気で皆殺しにきていると誰もが痛感する。

 誰一人生かすつもりは無いと。



 アングリアの兵が全滅した前の区画ではすでに異端兵達が好き勝手やっている。

 中央区は壊滅状態の激戦区。しかしここも時期に戦いは終わり、生き残ったものは玩具にされてしまう結末は見えていた。 


 それだけはさけたい。 その思いで市民を逃がし皆一概になって必死に死の戦況から城を守る。 アングリアという国の為、 そこに生きる、一、一員として、 みな誇りを胸にして戦った。 


 市民の崩乱れる列目掛け、ぽつぽつと雨が降る。 そしてそれはやがて無数の雨へ。市民を逃がすその場にも矢の雨が降りそそぎはじめた。 


 誰一人として逃がさない。

 

 もうここまで進軍された……


 あたりで苦しむ声や、悲鳴が唸る。



「救護兵!救護兵!」


 必死に助けを呼ぶ声が混ざる


 市民を逃がすという任務。途中で任務が遂行できないと悟った兵は、あたふたとする。


異端者達もこちらへ向かってやって来ていた…… 


ここにいる兵だけではもう持ちこたえられない。 援軍すらかけつけてくれない。 もう駄目だ。 そう思う兵士で溢れた。



 青の騎士が西側から駆けつけるまでは……

 



 西の区画から無数の矢が放たれる。いきなりの雨の矢に攻めてきた兵はばたばたと倒れていくのを市民や兵達は目の当たりにした。


 チャンス。


 そういわんばかりの勢いで西側から騎士が出向く。一向は今にも混ざり合わんとした。



 西から来た軍の先頭は青を彷彿とさせるような甲冑をまとっていた。その率いる騎士団はアングリアの兵や市民と、赤き旗を掲げし騎士団の衝突する間に張り込み、一同の動きを止めた。


 その姿と佇まいに目を奪われる。敵に剣を掲げ構えて立つその姿は勇ましい。 兜は着けているその者は、中間に入ると、左手で剣先を敵の方へ向けた。


「これ以上は無意味と証す。即刻、その場にて武器を下げられよ。 


 これ以上の残虐は容赦しない。」


その統率慣れたしゃべり口調は、一同皆、耳を傾けされられた。 


 先導をきる者の横に二人、互いに変わった武器を持った騎士が馬にまたがっている。

 

 一人は十字架のクロスのような先の形をした槍を持ち、 もう一人は横幅の太い両刃剣を持っている。グリップが普通より長いのが特徴的だ。 

 

 彼ら3人の姿はとても目を引いた。


 敵は恐れをなして止まっていた訳ではない。

 

 指揮する者が連れて来た援軍兵士はたった30~40名ほど。

 

 紅の兵士は、余裕の表情を浮かべ、笑い出だす者も現れる。 引くどころか、小馬鹿にしかしていない。


 青き甲冑の騎士は小馬鹿にしている事など一切構う素振も無い。 




「そうか、、、、、」 



 青騎士は押し寄せてくる兵達に向かっていく。 

 それに続き後ろにいた皆も急いで騎士の後を追う。 

 

 赤き旗と青の旗。双方の兵が混ざりあい赤き血潮が空を舞う。


 アングリア側で一番先に衝突したのが先頭にいた娘青騎士である。混ざるなりいち早く敵の間合いに入り、閃光のごとき速さで異端者や兵達を一掃していく。

 

 

 目立つ三人のそれは娯楽舞踊の舞のように舞い、どんどんと青き旗が食い込んでいった。 


 戦力は圧倒的で、すぐに決着がついた。 赤旗の兵はバタバタと散っていく。 

 倒された百を超える。攻め入った兵は目を丸くした。 


 嘘だぁ、、、、、、ありえねぇー、、、、、、、そんな声が響いた。


 

 前の三人、彼らが敵の思考を覆した原因だった。この三人がまさに大誤算、経験の差、レベルの差、この戦況内で桁違いだったのだ。


 切れば躱され、一撃を食らい、 振るえば返され一撃をもらい、押し込めば防がれ、叩き潰される、何をしても一撃すら当てることも敵わない。


 たったの一振りで、蹴散らしていく様。


 何も躊躇はなく、ただ前だけを見つめていた先頭の騎士は、身の丈ほどより少し長い剣を使う。 美しく白い剣。青黒く彩られ、反射した光が照らす。


 赤き軍団は一度引かざるを終えなくなっていた。




 堂々ととした佇まいで、逃げるものにはお構いなしだった青騎士は、剣を下に振下ろし、血振りをする。

すべての兵が撤退していくのを確あ認すると、 ほっ、っと落ち着いたように剣を鞘に収めた。



 アングリアの兵は言葉を失ってた。急な展開故、思考が追いついていない。


 そして次の瞬間、 

「助かった―――」

「いぇ――――――ぇ!」


 大きな歓喜が上がりつづけた。


 ここにいたアングリア兵は窮地を打開したのである。 青騎士ははアングリアの兵達に駆け寄り、急ぎ民や負傷兵を逃がすよう、指示を出すと、彼らは少数ながら、敵の撤退した方へと進んでいった。





 赤の旗を掲げる陣営の本陣はアングリア城の外に陣を敷いていた。その数3万。 一人の兵士がある騎士の前に跪く。大急ぎで彼は長い距離を走ってきていた。


「申し上げます。 先ほど、中央を落としたという前衛の部隊が全滅したと報告が入りました。 西側寄り援軍が来たと」



 兵士は頭を上げようとはしない。



「なにぃ? あの前衛が全滅? 何ふざけたことを言っているの? 

 わかってる? あのバカでかい城が。 ボロボロで今も崩れ落ちそうなのに、こんな途中から一体何をしたら壊滅させられる訳? 其れとも万もの援軍が来たとでもいうのかしら?」


 兵士が跪く者の横に二人の人物が立っている。 



 その一人の女性が噛みついていた。 とても上品はしゃべり口調ではあったが、どこか冷たい。



「それが、どうやら援軍の中に相当の手練れがいるようでして、攻め入った我が軍の部隊が次々にやられていると」



「は? ありえないわ。 敵は壊滅状態だったはず。 立て直せるような余裕はないはずだわ。 あなた達そんなのも倒せないの? それで全滅させる気はあるのかしら。  数は? その援軍の数は何人だったのかしら?」



「そ、それが……」


 兵は口を瞑った。 とてもではないが言い出しづらかったのである。



「何を、口ごもっているのかしら。 早く言いなさい、王の前よ。 殺すわよ」


 兵は涙ながらにその重い口を開けた。


「よ、40程と……」


「40ですって!!

 あなた達、それに敗れたというの? 本当にありえないわ」


「そ、それだけではないんです……」


「もういいわ。 こんな奴ら殺してしまいましょう。 無能でしかない」


「は、話を聞いてください! リー様」


 リーは全く聞く耳も持たず、報告に来た兵をその鞭のような飛躍剣で切り刻もうとしていた。



「待て、リー」


「はい! 我が王。あなた様の仰せの通りに」


 リーはまるで手の平を返すように人が変わる。



「話せ。 お前が話したかった事すべて」


「はっ、はい」


 語ったのは紅の甲冑をまとった、赤き王と呼ばれる者。


 甚だしいまでのその覇気は誰もが普通に立っている事すら許さない。


 その紅の鎧は黒くも見えた。



「その、……敵の部隊なのですが、他に知里尻になっている部隊と合流しながら、我が隊の進行を阻み、南西より来た援軍6千と合流、 今や約2千の兵を連れてまっすぐこちらに向け進軍してきているとのことです」



「あら、少ない事。 と言う事は、出払っていた兵達が返って来たのね。

 いしたってたった2千でここを目指しているですって? 無理ね。 

 それにここに来るまでにソシェンの軍があるでしょう 」



「そのソシェン様の軍ですが、今しがた、突破されたと」



 三人は特に動じてはいなかった。ソシェンの軍が突破されたということは、一本道に続くこの渓谷の道を進んでこれるという事。


 これはアングリアにとって快挙である。 敵の兵を破っていけるだけの兵力があるとするのならば、赤の戦士は逃げる事が出来ず、アングリア軍は、敵の兵の数を減らしながら、本陣をつくことができるからである。 


 その為に、赤の戦士らが集まる軍は、ソシェンという頼りになる男を第一の守りとして置いた。 何人も本陣に通さないためだ。。




 リーは失望した。



「はぁー、あなた達は一体何をしているの? ここまで王の手間を煩わせて、まだ、面倒をかけようというのかしら。 


 まったく。 もういいわ。 私が行ってすべて終わらせるわ。 その方が早いもの。 それに、その話が本当ならもうじき私の部隊とも当たるはずだから」


「待て!」


 紅の王が止める。 


「はい!」


 リーは王の話に耳を傾けた。 


「お前が行くまでもない。 貴様、向かってくる者はどんなものである」


 王は刃を兵に向け聞いた。


「話では青騎士と呼んでるのだとか」



「 青騎士とな。……そうか」


 そういうと王は、大声で命令した。


「大包み(だいつつみ)を用意しろ!」

 その大声で、大きな鉄車のような物がいくつも、渓谷の上に現れた。

 続いて王は大声で続ける。



「続てい、砲丸車用意、 所定の位置につけろ! 各隊出陣して射出準備。

 我が合図を待て」



 紅の本陣前に、投石機のような物が何台も並んで前進していった。



「あら、王。あんなものまで出しちゃうなんて、 容赦なく殺す気なのね

と言うか、あれ、城をつぶすものでしょ? そんなのを向かってくる兵にぶつける気なのかしら?」



 紅の王は目の前に跪く兵に何やら告げてた。 




「前線の兵に急ぎ伝えろ。 全軍第一線まで後退させろ」


「はっ。 直ちに」



 アングリア城では戦の手が止まる。 後ろの方で大きな笛の音がなったのである。 



 すると、赤の兵士たちはすぐさま撤退した。 

 

 アングリアの兵達は訳が分からなかったが、その様子を見て、歓声を上げるのだった。  城を猛攻から守り抜いたと。 



 赤の兵士たちの撤退は尋常じゃな程早かった。 王が動く。 誰もがそれを知って、急いで離脱したのだ。 これから敵味方関係なく大きな事が起こる。 その絶大さを知っているから。 






 一方青騎士たちは一直線に渓谷に侵入しようとしていた。 この戦いを一刻も早く終わらせる為に。


「なんですか? この音は」


 青騎士の横にいる一人の兵がその音にいち早く反応した。


 高い笛の音が鳴り響いたのだ。 



「何か敵の合図だろう」



 青騎士たちは構わず本陣を目指す。 その時だった。 彼らの目の前に大きな鉄車が何台も並び、ゆくてを阻んだ。



「なんだあれは……」



 それは青の騎士たちも見たことがない。 


 どこからともなく放てと声が上がる。 



 青騎士たちは恐れることは無くそれに突進した。 


 次の瞬間、その巨大な鉄車は火を噴き青騎士の部隊を襲った。 そこから放たれたのは人間を覆いつくすほどの巨大な、塊。 鉛か鉄か、無数の玉は一機に青騎士の兵を削いだ。 


 これは突破できない。 彼らは襲い来る兵は倒せても、鉄車の前には敵わなかった。



 青騎士は一度体制を立て直す為、城へと下がった。 



「報告します。 青騎士の隊が撤退を開始しました」



「かかったわね。 あの城は終わりね」


 リーはにやりと笑った。 


「大包み、用意。 全軍前へ進軍開始!」



 紅の王の掛け声で、鉄車が進軍していく。


 それは青騎士が渓谷を出た時だった。 上から無数の巨大玉と大量の岩が飛んでくる。 


 勢いすさまじく下敷きになる兵。 それは城にもあたる。 次々にアングリア兵は倒れていった。 




「これはまずい。 急いでください!」


 青騎士の部隊は急いで城へ避難しようとする。 しかし、後ろの部隊から悲鳴が上がる。 

 後ろから鉄車が来ていたのだ。 上からは投岩。 そして位置についた鉄車が発射態勢を整える。 あんなものが打たれれば、青騎士の隊は壊滅してしまう。 

 それまでに何としても城に戻らなれば。 


 だが敵はそう簡単に逃がしはしない。 無数の矢が青騎士の部隊を襲ったのだ。


 矢は青騎士の甲冑を何本かが貫く。

「うぐっ」


「王!!!」


 それを見た青騎士の右隣の兵が声を荒げる。 


「大丈夫だ。 其れより皆急いで城へ戻れ!」


 青騎士は必至だった。 これ以上沢山の者を死なせなと。 


「皆の者急げ! 城はもう目の前ぞ、! あきらめず、走れ!」


 青騎士の左隣りにつく兵が、士気を促す。


 

 しかし、その巨大な鉄球が飛んでくる。 壁に当たった兵は鉄球と共に飛ばされ、潰されている。 



 「王―――――!!」



 その巨大玉は青騎士にも直撃した。 


 青騎士は身のこなしでよけてはみたが、そのでかさすべてをよけきれない。 


 兜事、体が城の方へとふっとばされた


 青騎士の視界が真っ暗になる。


 「こ、ここまで……か。 すまない。 皆の者よ……」

 


 青騎士の全部隊が止まった。 アングリアの兵達は絶望した。



「お、王が討たれた……」



 左横についていた一人が王の元へと駆けつける。 


「そんな王、しっかりしてください。 王!!」



 兵士は泣き叫びながら、王の意識を戻そうと語り掛けたが、王が目を開けることは無かった。


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