第43話 それにしても「またな」か……。


 すると次の瞬間、象の群れが走ってきたかのような振動を起こる。


 それと同時に、彼ら彼女らは俺たちを避けて機村さんについていた幹部達目掛けて突っ込んで行った。まぁ、象の群れなんて実際に見たことないけど。


 その様子を眺めていると、海斗さんが俺に言った。


機村きむらは俺とお前だ」


 それは当然のことのように思えた。なぜなら、海斗さんは舎弟として機村さんを気に入っていたからだ。


 だからこそ、自分で始末したいと思っていることくらい、簡単に予想がつく。俺はそれを全力でサポート、いや、協力するのみだ。

 

 それが瀬渡を解放してくれる海斗さんに、俺ができること。まぁ海斗さんは現時点で俺のノルマはもう達成されていると言ってくれているのだからこれは俺の自己満足なんだろうけど。


 でも、それでもいい。


「分かりました。まず俺が機村さんを抑えますから、その後に兵器の破壊をお願いしてもいいですか?」

「もちろんだ。行くぞ」

「はいっ!」


 作戦通り、俺だけが機村さんへ突っ込んでいく。海斗さんは花火の隣で待機中だ。

 機村さんは金色の拳銃を向けてくる。


「死ねえぇぇぇっ!!」

「死にませんよ? 今は、ですけど」


 容赦無く飛んでくる光る弾丸に、俺は面と向かって突っ込んでいく。


 そして機村さんの背後に回り込むと、全力で彼の両手首を抑えた。そこさえ抑えればいいのだ。海斗さんが撃たれないようにすればいいのだから。


「大人しくしてくださいね………」


 そして海斗さんに合図を、と思ったのだが、すでに彼はもう目の前にいた。


「俺の何が悪かったかは分からんが、俺が組長だ。お前にはもう存在価値など無い!」

「クソがぁぁぁっ!」


 奇声をあげた機村さんが持つ金色の拳銃めがけて、海斗さんが拳を振るう。


 すると、一発でそれは粉砕した。俺はあんだけ壊すのに苦労したのに、すげぇな…… 


 そして海斗さんは拳を握り直し、もう一度構えた。


「殴られるのはお前自身もだ」


 海斗さんの革ジャンが靡く。


 機村さんは、顔面を豪快にぶん殴られた。絶対顔のどこかしらの骨折れただろ今……


 その威力は、侮蔑兵器ディスパイズウェポンを壊した時よりも明らかに強かった。


 しかし、全く荒々しさは感じない。ただ、強い思いを乗せた綺麗なストレート。多分、ヤクザとか組とか関係ない、曇神海斗どんしんかいとから機村催魔きむらさいまへのパンチだ。


 機村さんはあっさり気を失っている。


「さらばだ」


 海斗さんは革ジャンの内ポケットから、堂々と拳銃を取り出そうとした。


 するとその時、どこからかパトカーのサイレンが聞こえてきた。どんどん音は大きくなってくる。


「チッ、大事な時に!」


 急いで海斗さんは拳銃をしまう。


 一体誰が呼んだのだろうか。でもよく考えてみたらいくらこんな人通りのない場所とはいえ、百対十の異様な合戦が行われていたら誰かしら気づくか。


 警察が来ちまったら、とてもキリが悪いが制裁は一旦ここで終了だ。


 俺は呆れ笑いをしながら海斗さんに問う。


「ここは一旦、退いた方が良さそうですね」

「はぁ……、スッキリはせんが、取り敢えずそれでいい。それに、コイツを殺すのはどこででもできるからな!」


 ああ、機村さんひどい目にあいそうだなぁ。案外気絶してる今、殺されてた方が楽だったかもしれん……。


 海斗さんは爽やかな笑顔を俺に向けてきた。


「またなっ!」

「ええ。また」


 そして海斗さんは組の奴らに目で合図し、曇神組はあっと言う間に、一斉に、来た方向とは逆方向の裏道へ消えていった。


 その際に負傷した組の奴らと、機村さんとその幹部たちも抱き抱えて連れて行かれた。証拠隠滅のためだろう。つまり、この場に残ったのは俺と花火だけになった。


 それにしても「またな」か……。


 できればあんまり関わりたくない社会だが、もう、そんなこと言っていられないな。完全に俺の方から頼み事をし、取り引きも成立してしまった。まぁこれで瀬渡も解放されたし、よしとしなきゃならんか。


 俺は、空き地に入る手前で待っていてもらった花火のもとに駆け寄る。


「待たせて悪い。帰ろう」

「はいっ」


 花火はにこっと明るい笑顔を向けてくれた。俺たちも警察さんたちが来る前にこの場を去らせて頂こう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る