W-3 15  ツアーの最後に



*>>三人称視点



 ここはどこか隔離された空間。中にいる人物を逃がさないための牢獄とも言われる場所であり、その部屋にはとある男がいた。

 ちなみに隔離されてはいるが、牢屋というより少し狭い普通の部屋にしか見えない。最近ではよく備え付けのフォログラムで何かと動画を見せられていた。


「やあ。お邪魔するよ」


 最早、ノックもせずに慣れた様子で部屋に入ってきたのは、ユキの父。朝霧 翔平だった。


「最近遠慮の欠けらも無いな?」


 そう答え振り向く青年。今の所そんな雰囲気を微塵も感じさせない戦争犯罪者。ウルド・コリィー。


「いいじゃないか〜。毎日来るんだからもうだいたい来る時間も想像出来るだろ?」



 そう、初めてこの牢獄に来客して以来、毎日飽きもせずここに顔を出す翔平。


「それで、今日は何を持ってきてくれたんだ?昨日のプリンもなかなかだったが…」


「今日はポップコーンと言ってね。穀物の種をあ〜だこ〜だして作る菓子なんだが、少し今日は長い動画を見てもらうからこれがいいと思ってね」


 

「長いのか?」


「なんと最新版だよ〜」



 そう言って座り込む翔平。部屋にはカーペットが敷かれ、ソファーとその前に置かれたテーブル。その向こうには寝室に続く扉や浴室、トイレなど。

 ウルドも最初は牢屋なのにこうも部屋があると逆に落ち着かなかったようだが、今は慣れたものだ。


「今回はリリースともう1人、あの場にいたメンバーでバトルロワイヤルバトルしたらしくてね。君から見た視点で感想が欲しいかな」


「なるほど。ちなみにバトルロワイヤルとはなんだ?こっちには無い単語だ」



「ふむ?バトルロワイヤルとは!味方は自分ただ1人。多人数でバトルする形式のことだよ。これは普段の構図とは違うし、戦争などではほぼありえない状況だけど、個人の知恵や実力が試される形式ともいうね」


 ここまで飽きるほど見てきたRBGの動画。既にどんなゲームでもうやって戦うのかは理解している。

 ウルドが敵として利用したRBGでの戦闘では基本的に魔力無限、スキル無限大だったため力任せで何とかなっていた。それに比べて制限の多い本来のゲームシステムでは、各々の役割やプレイスタイルなどに特化させた方が扱い易いようである。


 ウルド視点。〔魔力〕以外殆ど要らないものとして戦っていたが今になって思う。このゲームは原型が全ての基礎を築いている。どれかひとつでもかければバランスが崩れるのではないかと考えていた。

 ちなみにウルドから見ても、ランキング最上位のプレイヤーやリリースの動きはおかしいと思ったらしい。



「メンバー増えたな?」


「個人で複数を操る「軍曹」と、ポーションを駆使して敵を貶める「ヒヒリー」。2人もあの場に居たし、何より強い。戦力となってくれるなら心強いな」


 動画を眺めながら戦況や誰がどのように動くかをお互いが話す。翔平はそうしながらウルドの素の賢さを評価していた。

 翔平からのウルドへの評価は控えめに言って天才である。そもそも、太陽系に侵入する方法を考えそれを単身でこなして見せた人間が凡人なわけがない。


 ウルドの特に優秀な点はその優れた記憶力と判断力、精神力にあるだろう。それは彼が生まれ育った環境にもよるものと推測されるが…



 動画を見終わり、だいたいいつもならこのタイミングで翔平は帰り支度を行う。が、今日はいつもと違い何故か座ったままだ。

 見た目にそぐわず割と美味しかったポップコーンを頬張っていたウルドも少し首を捻って翔平を見る。だが、すぐに予測がついたのか、ポップコーンを飲み込み姿勢を正した。

 


「それで?本題がある様子に見えるが」



「まあね。ここからは真面目な話さ。我々太陽系に住む人間はおそらく君の故郷よりも文明が発達しているだろう。現に君たちの生存圏は惑星規模、対してこちらは恒星規模だ」


「そうだな。それがどうしたんだ?」



「君を故郷に返してやりたい気持ちはあるが、君の故郷は既にソレの支配下。無責任に君を送り返しても現状をどうにもすることはできないおろか、我々の太陽系までソレの被害が出てくるかもしれない」


「妥当な判断だな…元より、この惑星に来た段階で帰られるとは思ってなかったさ…」



「ただし、我々も既に君がここに来たようにソレにとってはターゲットになっているだろう。防衛できるに越したことはないが、事前情報によるとソレは根絶する以外回避のしょうがないらしくてね」


「…攻勢に出るのか?」



「そう。ソレは特に狙っているものもあるようで、その目的がこの太陽系に居る以上。我々は安全を守るためにソレを殲滅しようと考えている。ここで君に提案なのだが…」


「受けた」


 即答。まっすぐ見つめる瞳がぶれることなく翔平を見据え、ウルドは指先ひとつ微動だにせずに答えた。

 翔平は少し苦笑いしながらウルドに尋ねる。



「条件も何も言ってないよ?君に死ねと言うかもしれないのに」


「死ねと言うなら死んで見せよう。そのおかげで故郷の民が結果的に救われるのであれば本望だ」



「まあ、そう言うだろうと思っていたよ。君には明日、この恒星の人間の前で話してもらう。先の件の当事者として。そこで君がなすべきことをできたなら。我々は全面的に動けるだろう」



 そう言い残し立ち上がる翔平。ウルドはわかっていた。



 自分がなすべきことを。





 明日、ナユカ達はツアー最後のライブの後。リアルで宣言する。世界は今1歩前に進み始めていた。




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