EC:191  ここはゲームの中。でもね。私たちのリアルなんだ。




「あとどれくらいの距離?」


「もう見えるよ~」



 少し進んで私たちはマザーがいるであろう地点に近づいた。

 あたりは工場街から、どこかサイバー感漂う地域に差し掛かっている。こんなところにこんな場所があることを知らなかったよ。

 幸いなことに、中心に近づくにつれバグの影響は比較的マシになっているようで、上空以外は亀裂や崩壊は見えていない。これなら少しぐらいなら上昇できそうだった。





 目の前には…




「あれが…。マザー?」


「分からない…」



『あれがマザーです』



 ナビィがマザーだと言っているのでそういうことなのだろう。


 マザー。それはAI。かつては地球の中核を担う程の大役をこなした。超高性能AI。その本体は美しい女性の姿を象っていた。


 そしてそのマザーを取り囲むように展開されているホログラムウィンドウが、沢山のERRORを吐き出している。




 そこに…




『外部からのログインを確認!!敵である可能性大です』


「「っ!?」」





 その直後、マザーの前にログインしてきたのは、知らない男。


 金髪に蒼眼。スラッとした体型。少しつり目。男は私たちを見つけると、ただただ無言で剣を出現させた。



『ナユカ!!注意!!なんかやばい!』


 えらく感覚的な注意喚起であるが、私もこのやばさはほんとになんとなくだが肌身に感じる。

 なんというか、威圧感がパない。



「…」


 男は黙ったまま。



 なのに、圧倒的強者感。


 私とユキは周りを確認しつつ、戦闘態勢に入る。敵は1人。フェンリルや、狼が追い付いて来る前に決着をつけなくてはならない。


 両者動かぬまま…。




 ランクバトルや、大会のように試合開始のカウントは無い。しかし、私たちとその男は、同時に動き出したのだった。








*






「行かせないでありますよ!!」



ガウッ!!



「軍曹!!合わせてねー!【エックスブロー】」


 ナユカ達を追いかけたいフェンリル。それを阻止する。ヒカリ、軍曹、ヒヒリーの3名は、何とか、フェンリルをその場に留まらせようと奮闘していた。

 だがしかし、少しの隙にナユカ達の方へ抜けようとするので、戦場が少しづつナユカ達の方にズレていく。



 ヒカリの無視できない攻撃と、常に、その方角に何体か待機し、進路を塞いでいる軍曹の兵隊が何とか、フェンリルをこの場に押しとどめていた。


 それが無ければとっくのとうに抜けられている。


 また、ヒヒリーがありったけの回復薬を使い2人を回復させているのも大きな要因であり。ただの回復薬としてでは無く、妨害として様々なポーションを先程からフェンリルに当てていた。


 そのおかげか、フェンリルはほんの少しであるが動きが鈍い。


「ん。【弾丸トラベラー】」


 フェンリルを狙う弾幕の嵐。その弾丸の間隔を変えないまま、フェンリルに向けて、たまに曲がったり、カクッと方向転換して、進路を防ぎながら攻撃を繰り返す。


「ミラーポーション!!」


 そんな弾丸に向けて放たれたポーションは弾幕の中で弾け、辺りに散らばる霧のようなエフィクトを飛ばしたあと、霧散する。


 そのポーションはヒカリの弾幕をコピーし、その魔弾の数を倍に増やした。


「飽和限界無視の優れたポーションだよー!高いけど…」



 ヒカリはそんなヒヒリーの説明を受ける、心做しか聞こえてきた心の悲鳴を聞かなかったことにした。


「ん。サンキュ」



 先程から3人でかなりのダメージをたたき出しているが、フェンリルは全く気にした様子もない。それもそのはず。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



フェンリル


HP0├─────────────╂─┤

1,760,723,910/2,000,000,000




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 まだ1割削れたかどうか、そんなレベルであるからだ。3人は理解している。


 勝たなくていい。足止めさえできるなら。



 ヒカリ目掛けて飛んでくる魔法の数々。それと同時に放たれる紫オーブが、フィールドのことごとくを破壊していく。


 HPもどんどん削られていった。



 このままいくと、回復が間に合いそうもない。


「ぐ…」



 案の定。HPを削られたヒカリはHPが0になる。それと同時に綺麗なエフィクトに包まれHP全開の状態で再び弾幕を飛ばす。


 戦闘前にヒヒリーが使った蘇生ポーションのおかげだ。


 だがしかし、ヒカリはもう後が無いことを意味する。


 さらにフェンリルは、今までと違うモーションをしだした。


「っ!?全員!注意!」





ワオォォォォォン!!



 咆哮。



 その効果は…。





「なっ!!体が!動かないであります!!!」



 3人の視界の上に表示される状態異常が、自らが状態異常:恐怖の効果の中であることを教えてくれる。


 フェンリルはそんなさなか。ヒカリ目掛けて駆け出した!!



「ヒカリさん!!」




 軍曹は動けないさなか、兵達をヒカリの防御に当てるが、ここぞとばかりにフェンリルはその兵隊を跳ね除ける。

 ヒヒリーも弾幕を放つが、当たらない。



 ヒカリのすぐそこにフェンリルが迫っていた。

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