EC:178  イナバ

*>>三人称視点




「復旧作業はどうなっているかな?」


依然いぜん沈黙ちんもくしたままです」



 大きなビルのように太く、高い建物。衛星軌道ポータル。そこに付属する防衛省地球支部と、その他行政機関。


 ナユカ達が住む場所より少し離れたここに、地球の主要機関が集まっている。もちろん、ある程度でありこれでも限定的ではあるが…

 過去の大戦により国境が消え、国土というものが宇宙進出にともないほぼ無限となった現代。


 最後の大戦を期に、しばらく大きな争い事もなく平和が続いた太陽系であったが、1人の来客により浮き出てきた問題がある。


 太陽系外の生命体による、侵略しんりゃく。戦争の可能性だ。

 そのため、最後の大戦以降、惑星同士の牽制けんせいとして存在していた防衛省が太陽系外からの防御、予防に変わり始める。



 当時、まだ他の知的生命体に出会っていなかった、太陽系の人間は彼女と初めてのコンタクトを楽しみにしていたという。

 しかし、そんな彼女からの初めの一言は、「こんにちは」でも「よろしく」でもなかった。


「助けてください」







 その当時、まだ因幡が防衛省の一職員だった頃。偶然仕事でその来客の護衛をすることになったのだ。もちろん、相手は覚えていなかったが、その時のことを思い出しながら現在のこの状況をかんがみる。



 彼女の言った「敵」。



 地球全域でのAIの停止。全ての電気機器は今の時代。全てがAIが制御せいぎょである。

 地球の全ての機能が止まる。都市機能やあらゆるコミュニケーションが文字通り止まったのだ。


 有事の際の予備電源も、サブコントロールも全て機能を停止してしまっている。だがしかし、AIを掌握されたとて、セキュリティが何かしら対策を講じているはずである。こうも簡単に、惑星ひとつを完全に停止状態にすることができるのだろうか?


(予備電源にはAIは関与してないはず。なのに電力が届かないということは…その電力経路に何かしら干渉を…)


「メインコントロールルーム…。いや、どうやって侵入した?そもそも…」


 メインコントロールルームはAI専用の架空かくうの空間。つまりデータの中の存在である。

 そしてその空間にアクセスできる存在は限られ、因幡の記憶では片手ほどしか知らない。





ピピッ!!




 突然電子音が鳴る。


(なぜ?今はどこも電気は通っていないはずですよ?)


「どうしましょう?誰…からですかね?」


 因幡のいるこの建物も電力が届いていない現状。そんな音が聞こえるだけでもホラーものだが、通信に応答しない訳にも行かない。

 それに因幡の脳裏にはとある女性の顔が思い浮かんでいる。


「…私が出ましょう」


 そう言って因幡は恐る恐る応答を開始した。


『もしもーし?あれ?私ミスしたかなー?』


 それは、やはり頭によぎった彼女の声。


「大丈夫ですよ。花恋様。因幡です」


『あー、良かったー。ちゃんと線は通ったみたいねー』


 ほんの少しだけ、外部との連絡ができたことに安堵あんどする室内の空気。


「そちらはご無事ですか?」


『無事だわー。いまそっちに電気送りますねー?』



「ほ!?本当ですか?いま発電所も動いてないはずなんですが…」


『うちで発電したやつだわー』


 因幡は家に発電する場所があることに驚いているが、そんなことは後回しだ…


「どうやってこちらに送るつもりで?」


『それは私がチョイチョイっといじってそこまでの回路をつなげたわよー?できるだけ大量に送れるルート探すのに時間がかったわー』


「そうですか…」


 「花の約束」。彼女のそれは地球にとって天敵であるが、味方だと心強い。


 ほんの少しして、衛星軌道ポータル以外の主要施設で電源が回復する。ほんのかすかであるが、様々な場所で起動音がなり、それと同時に安堵の声が聞こえる。


「さすがですね」


『どういたしましてー。今データを送るわー』


 そう言うと、起動した司令室のメインモニター(ホログラム)にデータが表示された。

 そこには今回の騒動の現状と、各惑星の動き、AI停止の原因予想が書かれている。


 そして…その中の一文に因幡は驚愕する。


[ゲーム内にて米嶋 那由花、朝霧 雪を先行してマザー本体の救出、または破壊に向かわせている]


「はい?」


 そもそも、ゲームのAIがあやつられて今回の騒動が起きていることも驚きだが、その打開策として娘を投入するとは思っていなかった。


 因幡からすると米嶋夫妻は親バカ…。失礼。1人娘をとても大事にあつかってきたはずである。それもそのはず、まだ見ぬガーデンプラントと、この太陽系とのけ橋をになう少女なのだ。それ以前にガーデンプラントの姫は1人しか産まれないのだから過保護にもなる。

 そんな大切にしてきた子をこの戦争に投入するだろうか?




「あの子の意思よ。私たちは止めないって決めたわ」


 自分の目がその一文に止まっているのをしてか。それともこちらが見えているのか…少し真面目なトーンでそう言った花恋。

 しかし、そうは言うものの、自分たちの争い事に娘を巻き込みたくは無かったはずだ。


 それに打開策がこれ以外では時間の消費が激しいと書かれていた。あってもそれは、大勢の犠牲者ぎせいしゃを生む。



 データの内容を見つつ、状況を理解していくにつれ、その意思を強く感じる。

 できそうな対策はもうすでに試している。そしてそのことごとくが失敗し、あるいいは、断念せざるおえないと書かれていた。

 何とかして娘を巻き込まなくて済む方法を探して結果。無かった。ということだ。


「私たちは何をすればいいですか?」


『サブコントロールルームに行って、できるだけ電力や施設稼働をして欲しいわー』


 メインコントロールルームは無理だが、サブコントロールルームは現実に存在する重要施設だ。

 その存在が花恋に露見ろけんしてしまっているが…つくづく彼女が味方でよかったと因幡は思うことにした。


「了解しました」


 因幡は即座そくざに動き出し、指示を飛ばす。


 今も必死に戦っている彼女達の負担をできるだけ減らせるように。

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