EC:161  2人とも情報の塊だった…

*>>三人称視点




「これは…アタリかもな?」


 ミカとアリアの前には未起動の巨大なホログラム装置が鎮座ちんざしていた。ここは建物内の地下通路を進み、更にその奥の部屋の一室。普段なら入ろうともしないそんな場所だ。

 部屋の前には大きな扉があり、多少の爆発などではものともしない程の分厚さ。だがしかし、そんな堅牢けんろうであろう扉は〔電力〕でいとも簡単に開いた。


 なるほど。革命前では〔電力〕なんてものは無い。たしかに見つからないわけだ。〔電力〕以外ではビクともしない。

 もし何かしらの強行手段をとって部屋に侵入できても、〔魔力〕ではこのいかにもな装置を動かすことも出来ないであろう。



「まだ決まったわけじゃありませんわ。違うものかもしれませんし…」


「ま、早速試してみようぜ?〔電力〕で動きそうだろ?」


「EPは足りますの?」


 ミカは扉で消費してしまったEPゲージを見つつ、いま物言わぬただの塊。電源の入っていないパネルに手を乗せた。


「1人で行けると思うんだがな…。足りなくなったらアリアのEPを分けてくれ」


「了解ですわ!」


 ふんす!と自信満々に胸を張るアリア。そういうのハルトに見せてやれと思いつつミカは一気にEPを流し始めた。


「おらっ!動いてくれよっ!!」


 そして案の定、みるみる減っていくEP。



ピッ…。ピピッ!!



 そんなEPゲージが尽きかけた頃、やっと少しの駆動音とともに装置が光を空中に放ち始めた。



《システム起動を確認。周辺情報を取得します》



「しゃっー!!」


「やりましたわ!!」


 システムアナウンスとともに装置が点灯し、空中に立体ホログラムが表示される。まだ何もないホログラムだが、先程のアナウンス通り情報を読み込み中だろう。


《周辺情報を取得しました。近隣のステーションを起動状態に移行します。起動状態ステーションのリニアの運行を開始致します》


「こりゃいよいよアタリだな!全ての駅が使えるわけじゃないがリニアが動き出したようだぜ!」


 アナウンスにより、リニアが動きらしたらしい。そして、現在地の駅も起動状態になったのか。至る所が明るくなり、ところどころに案内用のホログラムが表示され始めた。


 更に…



〖プレイヤー、ミカ、アリアによりリニア交通システムの起動が行われました。一部地域でリニアによる長距離移動が可能になります。一部新しいスキルオーブの実装を開始しました〗



 今度はプレイヤー個人に流れるアナウンスでは無く、ゲームの世界全体に響き渡るワールドアナウンスが流れ始めた。



 2人ともそのアナウンスを聞き終わり、静かに互いに向き合う。



「「よっしゃー!!」」


 2人はそのままハイタッチしながら互いに喜びながら笑いだした。


「やったな!革命とまではいかなくとも新しい要素をたたき出したぞ!」


「ミカの予想通りでしたわね!さすがですわ!」


「うちだけだったらこの部屋までたどり着けなかったかもしれねーんだぜ?アリアのおかげでもあるのさ。ありがとな!!」


「どういたしましてですわ!」



 2人はそのまま喜び続ける程、嬉しかったのだろう…が、その喜びはミカ、アリア両名共に来たメール通知に妨害されることとなる。


 そして2人とも同タイミングでそのメールの内容を見て、…そのまま固まった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ビュア:2人ともなにか成し遂げたようでおめでとうございます。

 さて、なぜ私に声すら掛けず、メールによる報告もなしに解放に至ったのか…。詳しく教えてくださいね?もちろん、今すぐにですよ?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 2人ともそのメールを見て、静かに互いに再度向き合う。だが先程とは対照的にその表情は喜びから覚め、少しだけ青ざめていた。






*





「それで?なにか言い分もあるでしょう。聞いてあげますから、なぜこうなったのか話して貰えますかね?」


「その前にその…。なんでカツ丼なんだ?」


 現在、ミカとアリアはとりあえずビュアと合流しようということになり、両者闘技場周辺ということでマスターが経営するカフェにきていた。

 言わずもがな、現状。他のプレイヤーの目もあるので、お忍びVIPルームである。そんな中、ミカとアリアの目前にはホカホカのカツ丼が置かれていた。



「雰囲気は大事でしょう?それよりも早く話してくださいね?」


 確かに雰囲気は大事だが、部屋が全くもって豪華なので全然意味が無い。むしろそんな部屋にカツ丼があるのでシュールである。そんなことを思った2人だが、ビュアの雰囲気を見てさすがにツッコミを入れることを何とか踏み留まった。




「あ〜…。その、なんだ…。見つける気で行ったのは間違いないが、うちも予想外に上手く見付かってつい報告をおろそかにしたんだz…。しました」


「できるだけそういうのを探しに行く段階で教えておいて欲しいのですが?」


まことおっしゃる通りです…」


 動画投稿をしているものにとって、新しい発見や情報は大事なものである。前々からそのことを口酸っぱく「何かあったら連絡を」と言ってきたのだが…約束を忘れ、それを逃してしまったビュアはかなりご立腹だ。


「すぎてしまったことは仕方がありません。なので情報だけは吐いてもらいますよ?」


 なお、拒否権は無い。



「あ〜…。その事なんだがな?うちらもよくわかってないんだよな…。とりあえず、〔電力〕でリニアが動き出したってことしか…」


「その場に何か無かったのですか?」


「あったが、ビュアのメール見てすぐにここに来たから詳しくは見てない」


「なるほど…。まだ何とかなりそうですかね?…ではカツ丼を食べたら早速そこに行って見ましょうか。そうすれば動画投稿は何とかなりますし、いっその事生放送にしましょうか」


「どちらでもいいぜ…。ます」


「アリアさんは何か他に言ってないことはありますか?この調子だとありそうなので一応確認です」


 さっきからミカの横で無言を貫いていたアリアだが、さすがに話を振られてしまったら喋らざるおえない。


「無いはずですわ。…あ」


「あ?」



「従魔をゲットしましたわ…」



 ビュアはとりあえず大きくため息をついて、そのまま机に突っ伏した。


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