V1.53  赤き果実の両親




「おはよう」


「あぁ、おはよう」


「おはよう。那由花ー」


 リビングにはママとパパ。二人共がそれぞれくつろいでいた。

 ママはたくさんのフォログラムを展開している。…というかその数をどうやってインプットしてるんだろう?

 パパはテーブルに座ってコーヒーをたしなんでいた。良かった。こっちは普通だ。


 と、それどころじゃない…私は確かめないといけないことがある。…さっきの夢が、ただの夢なのか。それともその夢が一花さんの力による何かなのか…


 未だにはっきりと覚えていることにも違和感しかない。起きたてホヤホヤだからまだなんとも言えないけど…。教えて貰った名前は全てまだ覚えている。


「どうしたの?那由花」


「ママ。パパ…。見たの…。わかったかもしれない。自分の花」


 その言葉を聞いた瞬間、パパとママ両方が一気に真剣な顔つきになった。ちょ、怖いって。


「それはどういうこと?さっきまで自分の部屋で寝てたんじゃなかったの?」


「うん。夢で」


「夢?」


 ママはちょっと疑いの表情を浮かべてる。いや、私だって嘘かほんとか分からないんだからね?



「ママ、始祖様の名前。「一花いちか」って名前じゃない?」


「っ!?どこで知ったの!!?私あなたに始祖様の名前を教えたことないわよね?」


「やっぱり…。じゃあ上から

 一花いちか

 香花こはる

 花輝はるき

 紗綾花さやか

 怜花れいか

 梅花ばいか

 鳳花ほうか

 楓花ふうか

 灯花とうか

 直花ちか

 晴花はるか

 瑞花すいか

 遊花ゆうか

 柚花ゆずか

 千由花ちゅか

 仁花にか

 蒼花そうか

 姫花ひめか

 おばあちゃん

 ママ

 私って順番だったりする?」


 私が夢の中で教えてもらった名前をママに聞くとママは信じられないのか。そのままフリーズしてしまった。



「…那由花。夢でその名前を知ったのかい?」


 代わりにパパが私に質問を投げかける。


「そう。夢の中で…。姿までは見えなかったけど、一花さんから告げられたの。使命だって」


「そうか…」


 それを聞いて今度はパパも黙り込み何かを考える素振りを見せる。しばしの無言。落ち着きながらもそのまま何か考え巡らせる2人は同じタイミングでお互いに視線を向けた。


「花恋」


「はーい」


「予定をはやめよう。できるだけ早急に、今1番近い星がガーデンプラントであることを確かめておく必要が出てきた」


「トビィ」


『はい』


「各研究員や関係者に連絡を取って」


『了解しました』


 途端に動き出した2人。トビィも加わり、慌ただしく指示を飛ばす。

 ママはトビィにやるべき仕事を任せて私に話しかけてきた。

 

「那由花。自分の花がわかったと言っていたわね」


「うん。あ、でも距離が遠すぎて憶測おくそくになるらしいよ?」


「わかったわ。まだ確定という訳では無い。…という事ね」


「うん」


「聞かせてちょうだい。あなたの花は何?」


 ママは真剣な表情をくずさないまでも、私に触れながらどこか安心するトーンで問いかけてきた。

 パパもパネルを操作しながらも聞き耳をたてているのがわかる。



「私の花は❨イチゴ❩らしい」


「…❨イチゴ❩ね…。わかったわ。教えてくれてありがとう」


 それを聞いたママは私をひとなでした後にリビングから出ていく。パパも足早に飛び出して行った。

 やっぱり2人にとって私の花の解明は何か焦るほど不安要素があるのだろう。そしてそれは十中八九、戦争に関わるのだと…暗にそう物語っていた。


『姫、とりあえず朝食にしては?』


「うん」





*>>三人称視点




 物々しい雰囲気が伝わる重厚感溢れる部屋、あたりもよく見ると窓ひとつない変な形の部屋。そこにはありえないほどの数のフォログラムが展開されている。そしてそんな部屋の中心に座る勇人と、そこに寄りかかるようにしながら自身の付近にもフォログラムを浮かばせなにかしている花恋がお互いに視線を作業に集中させながら言葉を交わしていた。


「それではやっぱり、バレた可能性が高いと?」


「ああ、那由花が夢の中で会ったのがガーデンプラントにいる始祖様なら、どうしてこのタイミングで接触してきたと思う?」


 議題はもちろん今朝方判明した那由花の花について。


「そうね…。いくつか考えてたんだけどー。いちばんは「花の約束」を使った時の独特の波動を感知した可能性が高いわー」


「だろう…。その場合、「ソレ」も那由花のことを感知した可能性が高い訳だ…」


「どうにかして波動を打ち消したいのだけど…。自分の以外は出来ないのよね…。まず分からないし」


 2人にしか分からないであろう専門的な用語がいくつか飛び交う。もっとも、現在この部屋には2人以外侵入することも出来ない。


「今回は突発的なものだったからな…。対策してても感知されていただろう…。油断したな」


「すぐにガーデンプラントの監視網を作りましょう」


「幸いビーコンはほかの惑星の影に隠してあるからな。そうそう見つからないだろうが、油断はするなよ?」


 2人は孤独の海で出会ったパートナー。その信頼関係はもちろん厚い。


「任せなさーい!」


 そんな2人の間に生まれた那由花を守るため。


『車の準備が出来ました』


「行くわよ」


「あぁ…」



 2人は立ち上がり、その部屋から出ていくのだ。




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