V1.37  でも私は。今がきっと楽しいと感じているから。

*>>三人称視点





 その日、唐突に発表された公式からの情報に世界中のプレイヤーが注目していた。発表の時間も中途半端であり、そんなイベントがあるという前情報もなく。情報公開からなんと翌日に開催されると発表されたイベント予告。



 しかも情報公開と言ってもイベントが明日あるよ!といった。内容の「な」の字もないような予告のみ。





 イベントの詳細は不明。

 唯一、一見普通に見えるイベント情報のホームページの下に小さく。


「あ、バトル要素は無いので悪しからず」



 と、えてあった。これに気付いたプレイヤーは何人いたのかは不明である。


 さて、そんな唐突なイベント予告に、様々な憶測が飛び交ったことは間違いない。


 ある者は。


「超大型モンスター討伐」と言ってみたり。


 ある者は。


「今回始まったワールドクエストの、共生社会の構築のイベントムービーだ」と言って見たり。


 ある者は。


「長距離移動イベント」と言ってみたり。



 千差万別の偽イベント情報が飛び交っていた。



 この荒れ具合はと言うと、RBG内でイベントが起きそうな兆候ちょうこうはないか。または、変わったことは起きなかったか。そういった変化が事前に無かったかをプレイヤーがこぞって探したくらいである。


 このイベント情報をもちろん。様々な人が欲したため、このゲーム内にそこそこ存在する「情報ギルド」や「情報屋」は様々な検証など、また可能性の情報をかき集めそれを売りさばいたりとやりたい放題したという。


 しかし、そんな「情報ギルド」のひとつ。「インフォメーションコーポ」は他のギルドと違う行動を取っていた。


 それは…




 沈黙。




 その情報を欲したプレイヤーに対して「沈黙」と言う回答を出した。


 その行動の裏には、イベントを察知したインフォメーションコーポのリーダー。「セリエル」が直前のユキ、ナユカとヒカリ、アキアカネの会話を思い出し、まさかと思いながらも前科が溢れるように出てくる「リリース」に連絡を取り…。その回答をユキから。


「同盟のメンバーのうち、ある程度上の役所の人にだけなら教えてあげられるよ〜。ただし、一般のプレイヤーに言うと公式から罰が降るらしいけどね〜?今回のイベントは私とナユカがメイン。バトル要素はなく。全プレイヤーがログインしている限り参加出来る。明日の闘技場は一定時間使用ができない。これくらいかな〜。同じ同盟のリーダー達や、インフォメーションコーポの幹部の人達には教えてもいいよ〜」


 と。本人からYESと帰ってきたのだからびっくりするより呆れの感情が湧いてきた。また、お前か!と。


 そうして、自分の読みが当たったことを喜べばいいのか、それとも後悔したらいいのかわからなくなったセリエルがいたという。

 その後、インフォメーションコーポのメンバーに今回のイベント情報の調査は停止。商売も聞かれた場合は「沈黙」で返せ。と命令した。


 暗に、「インフォメーションコーポ」は正解を知っているけど、言えない。と教えて自分たちの株を少し上げにかかったのだ。

 まあ、そもそも「リリース」と同盟を組んだ、ということで既にだいぶ上がっているのだが…



 ちなみに、このイベント情報を聞いたリーダー格の内、「闘技戦士団」のヴォーガードはそんなことより「闘技場が一定時間使用不可」と言う文面にショックから雄叫びをあげたとか。


 「開拓師団」の面々はフィールドの変化は無いと言う情報を聞いて、今から何か変化がないか探しに行こうとしていたメンバーが、玄関1歩出て引き返してきたとか。


 さらに言うと、一切情報を知っていないはずの「リリース」の他のメンバーは、最早、イベント告知時点で察したと言う。キリアは爆弾作りに忙しくてそもそも気づいていなかった始末だ。



 ビュアはこのことを動画として投稿できないことを悔やんでいたのだが、ユキに掛け合って1番いいポジションでカメラドローン(透明)を飛ばす許可をもぎ取ったのだからなかなかがめつい。ちなみにユキはユキでその動画を後で自分にコピーして頂戴ちょうだいと言っている当たり、そもそもその予定だった気がしなくは無い。










*>>ナユカ視点






 そして迎えた当日。



「ごめんなさい。せっかく家族揃ってお出かけでもできる日だったのに、私の予定が入っちゃって…」



 私はこれからゲームの中であるイベントのためにログインせねばならず、今日はパパもママも休みの日なのに一緒に過ごすことが出来なくなってしまった。


「いや、構わないぞ。そもそもパパ達も見るからな」


「ナユカー!頑張って来てねー」



「え?」


 なんで内容知ってるんです?


「私が教えてないわけないじゃんね〜」


「ユキー!!」


 今日もユキは私の部屋からログインするらしく。朝方から家に来ていたのだが…


「なんでパパとママに言っちゃったの!?なんか恥ずかしいじゃん!」


「せっかくの晴れ舞台だよ〜。ご両親にも見せてあげなくちゃね〜。それに勇人さんには、そもそも許可取る段階でどんなことするのか言ってるんだから今更だよ〜!」


 うぐっ!?確かにそうだけど…。でもなんか恥ずかしいんだよ。というかっ!恥ずかしい原因のひとつにあの戦闘服にも一端の責任があるんだけどねっ!!誰が作ったんだっけねっ!?


「ほら〜、そろそろ行かないと最終打ち合わせできないよ〜」


「うぅぅぅ…。もう…。じゃぁ、いってきます…」



「行ってらっしゃい」


「行ってらっしゃいー!!頑張って来るのよー」


「はーい」



*



 こうして私たちは今、暗転した舞台の上にたっていた。



 イベント開始まで後数分。


 今ゲーム内ではカウントダウンが表示され、全プレイヤーが今か今かとそのイベントの始まりを待ち望んでいた。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る