第23話:勘違い?

 ゴブリンの巣は、ラグザリアから南に少し進んだ先に位置していた。

 周りは森になっており、大木の根元にぽっかりと開いた穴が、ゴブリンに利用されてしまったようだ。


「洞窟かぁ」

「何か不都合でもあるのか?」


 俺が小さく息を吐きながらそう口にすると、横からリディアが問い掛けてきた。


「洞窟の中だと、深さによっては光が完全に届かなくなることがある。そうなると視界が悪くなって、ゴブリンが仕掛けた罠を見落としがちになってしまうんだ」

「それなら魔法で照らしてしまえばいいんじゃないか?」


 リディアから続けざまに質問がなされると、俺は経験談を交えながら答えていく。


「光魔法が使えたら問題ないんだけど、火魔法はダメだ。あくまでも俺の経験談なんだが、奥に行けば行くほど、火魔法だと呼吸が苦しくなるんだ。それに、変な臭いがしたなと思った瞬間、洞窟の中が爆発したこともあったし」

「ば、爆発だと!?」


 ナリゴサ村の近くで発見された洞窟の調査をしていた時の話だが、あの時は本当に驚いた。

 ルーカスが安易に火魔法を使える使用人を連れ出して、魔法を使わせたのが原因だったっけ。

 俺はお爺ちゃんから洞窟調査の時の注意点を聞いていたから止めたんだけど、うるさいと一蹴されて魔法を使った結果が……ドカンである。

 幸いにも死傷者は出なかったが、一歩間違えれば大事故である。

 慎重に行動してもらいたいところだが……まあ、ルーカスの性格じゃあ、一生かかっても無理だろうな。あいつ、短気だし。


「光魔法なら、爆発しないのか?」

「専門家じゃないから絶対ないとは言えないけど、お爺ちゃんが言うには大丈夫みたいだ」

「ふむ、ユセフが言っているのであれば、問題はないだろうな」


 俺の知識がお爺ちゃん譲りだと知ると、バズズさんは納得したように頷いた。


「それでしたら、私が光魔法で洞窟内を照らしたいと思います」


 ここまでの話から、手を上げてくれたのはレミティアだった。


「……なあ、今さらなんだけど、レミティアも一緒に入っていいのか?」


 バズズさんやリディアにとって、レミティアは護衛対象のはず。

 そんな彼女と一緒に、ゴブリンの巣へ入るのは問題ないのかと気になり、今さらながら聞いてみた。


「本来ならば、レミティア様と共にどちらかが残るべきなのだが……」

「今回は、魔獣だけではなく、別の何者かにも狙われている可能性があるからな。共に行動した方が安全だという判断だ」


 リディアに続いて、バズズが質問に答えてくれた。

 まあ、それもそうか。

 どこの誰なのか分からない、尾行してきた何者かを少人数で警戒するよりも、相手がゴブリンであり、居場所も分かっている敵を相手にする方が守りやすいよな。


「……アリウスは、私と一緒は嫌なのですか?」


 おっと、しまった。どうやら今の発言は、レミティアを怒らせてしまったようだ。


「そういうわけじゃないよ。ただ、レミティアのことが心配だったんだ」

「……わ、私のことが、心配ですか?」

「それはそうだろう?」

「……そ、そういうことなら、仕方ありませんね!」


 ……な、なんだろう。怒っているのかと思っていたら、急にご機嫌になった気がする。

 護衛対象なんだから、それは心配になるだろうに。


「ですが大丈夫です! 私だって元聖女ですからね! 自衛手段くらいは持っていますから!」

「……えっと、分かった。そういうことなら、光魔法はお願いするよ」

「任せてください! うふふ~」


 これ、本当に大丈夫なんだろうか。

 身の危険というよりも、何か勘違いさせているのではないかと心配になり、俺はバズズさんとリディアに視線を向ける。

 すると二人は俺と目が合うと同時に、軽く肩を竦めるだけで、何か助言をくれることはしなかった。

 ……マジでいったい何なんだろうか。


「……まあ、いいか。それじゃあ早速、中に入って依頼を達成させてしまおう!」

「はい!」


 俺の号令にレミティアが力強い返事をしてくれたので、そのまま洞窟の中へ足を踏み入れていく。


「……どうして気づかないのでしょうか、父上?」

「……レミティア様も大変だな、これは」


 背後ではリディアとバズズさんが何やら小声で話をしているが、内容までは理解ができない。

 気にはなったものの、すでに洞窟へ足を踏み入れていることもあり、俺は前方への警戒を強めながら、気を引き締めて先頭を進んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る