第22話:初めての依頼
翌日、俺たちは全員で冒険者ギルドを訪れた。
というのも、冒険者になったはいいものの、何も依頼を受けないというのはどうにも勿体ないと思ったからだ。
レミティアたちと別れてからでもいいかと思っていたが、どうせなら一緒にいるうちに受けられる依頼は受けておきたい。
一人の依頼はいつでも受けられるが、複数での依頼は今しか受けられないかもしれないからな。
――ざわ。
正直なところ、今だけは目立ちたくないと思っている。
ガゼルヴィード領を出ているし、俺なんかを追い掛けてくるような家族ではないだろうけど、目立つ活躍が近くから聞こえてきたら、何かしら接触があるかもしれないからな。
……まあ、ギルマスに呼び出された時点で目立たないわけがないんだけど。
「いらっしゃいませ、アリウス様」
無駄に視線を集めながらギルド内を歩いていると、受付からミスティが声を掛けてくれた。
「昨日ぶりですね」
「本日は何か依頼をお受けになられますか?」
「はい。Fランクの依頼で、俺たちが受けられそうなものってありますか?」
俺がそう答えると、ミスティは少しばかり逡巡したあと、一つの依頼票を取り出した。
「こちら、これから依頼板に貼り出そうとしていた依頼なのですが、いかがでしょうか?」
「確認してもいいですか?」
「もちろんです」
依頼票を受け取り、それを全員で覗き込む。
「「「「……ゴブリンの巣の壊滅?」」」」
「はい。ゴブリンというのは――」
「ぎゃははははっ!」
ミスティが説明を始めようとすると、俺たちの後方から笑い声が聞こえてきた。
「……ゴブリンというのは、最弱と言われているものの、狡猾であり、群れると面倒な魔獣でもあります」
しかし、ミスティは笑った相手を軽く一瞥しただけで、そのまま説明を継続させた。
「確かに、ゴブリンの巣を壊滅させるのは面倒でしたね」
「経験がおありなのですか?」
「はい。地元にいた時に、何度か」
「おいおい、新人野郎! 俺様を無視してんじゃねぇぞ!」
ミスティに習い、俺も普通にやり取りを始めようと思ったのだが、笑い声の男性が無視されないよう、俺たちを指摘しながら声を荒らげた。
「邪魔をしないでいただけませんか?」
「まあまあ、いいじゃねぇかよ、ミスティさん。俺はこいつらに先輩として、いろいろと教えてやろうと思ってんだよぉ」
ミスティが睨みつけながら言い放つも、男性冒険者はニヤニヤ笑いながら気にも留めない。
……この人、ミスティに殺されるんじゃないだろうか?
「どうせ女の尻を追い掛けているだけのザコなんだろう? だったら、もっと安全な依頼の方がいいんじゃねぇか?」
ギルマスが認めたというのに、男性冒険者はいまだに俺に実力がないと思っているらしい。
……いいや、違うか。この人だけじゃなく、この場にいるほとんどの冒険者が、俺が冒険者になれたことに何か裏があるんじゃないかと思っているようだ。
「なあ、あんたらもよぅ。こんな奴についていくより、俺たちと一緒の方が安全だぜぇ?」
ニヤニヤした顔のまま、こちらに近づき、その手をレミティアへ伸ばしてくる。
「黙れよ、あんた」
「……あぁん?」
ドスの利いた声で俺がそう口にすると、男性冒険者の手が止まり、ものすごい形相で睨みつけてきた。
「てめぇ、先輩は敬うもんじゃねぇかぁ? あぁん?」
「敬ってほしいなら、それ相応の態度を取るんだな」
「……ぶっ殺してやる!」
俺よりも頭二つ分くらい高いし、体つきもがっしりしている。
おそらく、一撃で終わらせるつもりなんだろうな。
まあ、見た目だけなら間違いなく相手が強そうだし、俺のことを侮っているからこその行動だろう。
「俺にとっては好都合なんだけどな!」
「死ねやこら――あぁん?」
腕の血管が浮き上がるほどに拳を握りしめた、渾身の一撃だったのかもしれない。
しかし、俺には関係なかった。
相手の動きを見極め、軽く手の甲で相手の拳を払い軌道を逸らせると、無駄に強い力を利用して巨体を投げ飛ばす。
まさか投げ飛ばされるとは思いもしなかったのか、男性冒険者は変な声を漏らしながら空中で一回転し、背中から床に叩きつけられていた。
「ぐはっ!?」
「なんだ? ぶっ殺すんじゃなかったのか?」
「……く、くそったれが!」
そう口にした男性冒険者は、顔を真っ赤にしながら冒険者ギルドを走り去ってしまった。
……ほほう。あれがいわゆる、捨てセリフというやつだな。
「他にも俺が冒険者になったことを気に食わないって奴がいたら、いつでも相手になってやる!」
俺がそう宣言すると、周囲の冒険者たちは黙り込み、視線を逸らせてしまった。
「……それじゃあ、ミスティ。この依頼、受けてもいいかな?」
「もちろんです。こなしたことがあるのであれば、なおさらお願いしたいです」
ミスティからも改めてお願いされたこともあり、俺はゴブリンの巣の壊滅依頼を受けることにした。
「みんなもいいよな?」
「もちろんです!」
「腕が鳴りますね!」
「私ももちろん、構いませんぞ」
こうして俺たちは、ゴブリンの巣の壊滅という、冒険者として初めての依頼を受けることになった。
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