第20話:スキルの定着

「――……うーん、まあこんなもんかなぁ」


 俺は五時間近く市場を歩き回った結果、三つのスキルを定着させることに成功した。

 一つ目は目的のスキルである、料理スキルだ。

 屋台が多く並んでいるから確実だろうと思っていたが、予想通り多くの人が料理スキルを持っていた。

 俺は屋台の料理を購入すると、近くで食べながら主人が料理をする姿を見つめつつ、自分の火魔法を使って購入した料理を軽くあぶった。

 結果、料理スキルを定着させることに成功したのだ。


(モノマネをするっていっても、完全に真似なくてもいいってのは助かるな。ただ料理を火であぶるだけで、料理をしたって捉えられるんだから)


 とはいえ、目的のスキルは料理スキルだけで、残りの二つは別のスキルだ。

 二つ目のスキルは、跳躍スキルを定着させた。

 これは正直、運がよかった。

 近くでひったくりがあったようで、その犯人を追い掛けようと、憲兵が跳躍スキルを使っていたのを目撃したのだ。

 俺は急いで裏道へ移動し、軽くモノマネして高く跳び上がり、跳躍スキルを定着させた。

 高いところに手が届くとはこのことで、非常に使い勝手が良さそうなスキルを定着させられたので、これだけでも非常に満足できるスキルなのだが、最後の一つも非常もありがたいスキルを定着させられた。


「まさか、風魔法のスキルを定着できるとは思わなかったな」


 魔法系スキルを街中で定着できるとは思ってもおらず、俺は風魔法を行使している人を見つけた時、秘かにガッツポーズをしていた。

 ラグザリアが大きな都市だからだろうか、市場の一角には何もない広いスペースが作られており、そこには大道芸を披露する人が数人おり、その中の一人が風魔法を駆使して芸を披露していたのだ。

 他にもスキルを駆使して大道芸をしている人はいたのだが、何故か火魔法と水魔法と闇魔法ということで、すでに定着させているスキルと被ってしまっていた。

 とはいえ、風魔法を定着できたのは本当にありがたい。

 飛行スキルと組み合わせれば、魔力消費は多くなるものの、場面によっては加速とつけて飛行することも可能となるからだ。


「跳躍スキルにしても、快速スキルと組み合わせたらものすごい距離を跳んでいけそうだし、使うのが楽しみになってきたな」


 ワクワクが止まらなくなってきたものの、多くの人が行き交う市場で三つのスキルしか定着できなかったというのは、正直に言えば物足りなさを感じてしまう。

 まあ、中には定着させていないスキルを持っている人も多くいるんだろうけど、この場では使えないスキルの方が多いのかもしれない。

 天職もそうだが、スキルもまた実際に仕事で使うことの方が多いのだ。買い物に来ている人がスキルを使うなど、普通は考えられないというものだろう。


「日も傾いてきたし、そろそろ戻るか」


 さすがに五時間も歩き回れば、徐々に往来も少なくなってくる。

 夜は夜で市場の雰囲気が変わる可能性もあるが、長時間で単独行動をしていると、レミティアに心配されるかもしれない。……というか、すでに心配されている可能性の方が高い。

 もしかすると、俺を探しに市場へ行こうと言い出している可能性もある。


「夜の市場は別日に散策するかな」


 自分にそう言い聞かせた俺は、市場をあとにして宿へと戻っていく。


(…………つけられているな)


 すると、市場を出てからすぐ、俺のあとをついてくる気配を感じ取った。


(面倒だけど、宿を特定させるわけにはいかないからな)


 レミティアたちを巻き込むわけにはいかないと思い、俺は裏路地に入ると、快速スキルを使って一気に駆け出した。


「気づかれたぞ!」

「追え! 相手はガキ一人だぞ!」


 俺が駆け出したことに気づいた尾行者たちは、慌てて追い掛けてくる。

 しかし、快速スキルを使った俺に追いつけるわけもなく、二つ、三つと路地を曲がると、尾行者を完全にまくことに成功した。


「……ったく、なんだったんだ? 念には念を入れて、警戒しながら宿に戻ろう」


 気配遮断を駆使しながら、俺は周囲に怪しい気配がないかも確認しつつ、宿へと戻っていった。


 宿に到着すると、入り口ではレミティアがわざわざ待っていてくれた。


「遅いですよ、アリウス!」

「ごめん、レミティア。ちょっと話があるんだけど、バズズさんとリディアもいるかな?」


 俺は簡単に返事をすると、すぐに二人の所在を確認する。


「お二人とも部屋で休んでいますけど、どうしたのですか?」

「報告したいことがあります」


 俺が真剣な面持ちでそう告げると、レミティアも大事な話なのだと理解したのか、すぐに表情を引き締めてくれる。


「分かりました。そちらのお部屋へリディアと共に伺いますので、待っていてください」

「ありがとう、助かるよ」


 入り口で一度レミティアと別れると、俺は急いでバズズさんが休んでいるだろう部屋へ向かう。

 一度ノックをしてから扉を開く。


「おぉ。戻ったのだな、アリウス殿」

「バズズさん、ちょっと報告したいことがあります。このあとレミティアとリディアも来るので……服を着てくれませんか?」


 部屋へ入ると、バズズさんは上半身裸になり、腕立て伏せをしていた。


「おぉ、そうか。であれば、急いで服を着ましょうかな」

「バズズさんって、いつもこうやって鍛えているんですか?」

「体を動かさなかった日は、たいてい筋トレをしておるよ。体が鈍ってしまっては、レミティア様を守れんからな」


 バズズが洋服を着ると、しばらくして扉がノックされた。

 すぐに開くと、廊下からレミティアとリディアが入ってくる。


「それで、アリウス。何があったのですか?」


 早速本題に入ろうという勢いだったので、俺はレミティアとリディアに椅子を薦めて座らせると、俺とバズズさんはベッドの端に腰掛けて、報告を始めた。

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