第19話:定着

 冒険者ギルドを出て馬車を探していると、レミティアが声を掛けてくれた。


「アリウス!」

「すまない、遅くなった」


 すぐに馬車へ乗り込むと、レミティアとリディアが何やらソワソワしている。

 何かあったのかと思い首を傾げていると、その理由をバズズさんが教えてくれた。


「がははははっ! 二人はアリウス殿がギルドマスターとどのような話をしたのかが気になっているのですよ!」

「ちょっと、バズズ!」

「なんだ、そんなことか」


 スキルの使い方に関しては隠す必要はあるが、それ以外は特に話しても問題はない。

 俺は簡潔に話の内容を伝えたのだが、どうやら二人はお気に召さなかったようだ。


「……本当にそれだけですか?」

「もっと特別な内容とかないのですか?」

「ないよ。というか、あったとしても言えるわけがないだろう」

「アリウス殿の言う通りですな」


 俺の言葉にバズズさんだけは同意を示してくれた。


「人には知られたくないことの一つや二つ、ありますからな」

「私にはないわよ!」

「いやいや、レミティアこそ聖女であることを隠さないとダメだろうが」

「うっ!」

「冒険者カードにも回復魔法師って書いたんだろう?」

「うぅっ!!」


 ……いや、別にそこまでのけ反らなくても。


「……すみません、アリウス」

「……私も申し訳ありませんでした」

「分かってくれればいいんだよ」


 ……なんだろう、気まずいな。

 俺は話題を変えるためにバズズさんへ声を掛けた。


「このあとはどちらに向かうんですか?」

「今は宿へ向かっています」

「でしたら、そのあとに少しだけ自由時間をくれませんか?」

「構いませんが……どちらかに行かれるのですかな?」

「ちょっとした用事を済ませたいんです」

「で、でしたら、私が街をご案内いたします!」


 ……これは困った。

 俺がこれからやろうとしていたこと、それは定着スキルを使ったスキルの定着だ。

 これをやるには実際にスキルを使っている姿を見る必要があるのだが、それに加えて俺がスキルをモノマネしなければならない。

 大きな動作を必要とするスキルだと街中では難しいものの、小さな動作で問題がなければその場でスキルを定着させることができる。

 しかし、レミティアがいてはモノマネしている姿を見られる可能性があり、そこを追及されてしまうとモノマネ士と定着スキルの有用性がバレてしまいかねない。


「……いいえ、俺一人で行きますよ」


 今はまだ話せない。そう思った俺は、申し訳ないもののレミティアの提案を断ることにした。


「アリウス!」

「レミティア様、落ち着いてください」

「ですが、バズズ!」

「アリウス殿には、アリウス殿の用事があるのです。そこに我々が許可もなく介入することはできません」

「それは、そうですが……」


 バズズさんの言葉にレミティアは下を向いてしまい、その肩にリディアが手を置いている。

 申し訳ないと思いながらも、力のことを知られるわけにはいかないので我慢してもらうしかない。


「……この埋め合わせは絶対にするから」

「……本当ですか?」

「もちろんだ」

「……分かりました。我がままを言ってしまい、すみませんでした」

「いや、俺の方こそいきなり一人で行動したいなんて言ってすまなかった」


 そのあとは誰も口を開くことなく、無言のまま馬車は進んでいく。

 そうして到着した宿は、俺が予想していたよりもはるかに豪華な高級宿だった。

 俺の手持ちでは間違いなく一日で破産、もしくは泊まることすらできないと判断し、すぐにバズズさんに声を掛けた。


「お、俺は自分で宿を探します」

「どうしたのですか?」

「あー……金が、ない」

「あぁ、構いませんよ。ここは同行させていただいたお礼として、我々が支払いますから」


 いや、ダメだろう! 同行させていただいたって、馬車に揺られていたのは俺の方なんだが!?


「そうですよ、アリウス! せっかく知り合えたのですから、同じ宿にしましょう!」

「レミティア様もそう仰っています、ささ、アリウス様」

「部屋は三部屋じゃ」

「ちょっと、皆さん!?」


 ……あー……まあ、タダならいいか。必要経費が節約できたと考えればいいんだよな。

 ただし、バズズさんは俺を個室にしようとしていたので、慌ててバズズさんと同じ部屋で構わないと付け加えた。

 レミティアは護衛のリディアと同部屋らしく、そこで俺が個室になるのはさすがにおかしい。


「私としては話し相手がいてくれると助かりますが、よろしいのですかな?」

「もちろんです! 無駄な出費は避けてください!」

「……分かりました。では、部屋は二部屋を」


 そのまま部屋の場所を確認した俺は、バズズさんに断りを入れてラグザリアを見て回ることにした。


 ――やって来た場所はラグザリアの市場である。

 街中で戦闘スキルを定着させられるとは思っていないので、まずは役に立ちそうな後方スキルや特殊スキル、チャンスがあれば魔法スキルを定着させたい。

 ナリゴサ村に立ち寄っていた行商人からは、大きな街の市場には屋台も多く並んでおり、スキルを使って商品を販売しているところもあると聞いたことがある。

 ここで一番欲しいスキルは料理スキル、解体スキル、付与スキル、魔鉱スキルだろうか。

 料理スキルは野営をする時に役立つし、解体スキルは魔獣を解体する時に無駄な部位を出すことなく解体ができるようになる。

 付与スキルは木工や鉄工や細工スキルと組み合わせて使えるし、魔鉱スキルは魔鉱石という特殊な鉱石の加工ができるようになる。

 これだけ多くの人がいるのだから、もっと多種多様なスキルを定着させることができるはずで、俺はこれが楽しみで仕方がなかった。

 ……正直、冒険者ギルドで模擬戦をした男性は槍術スキルだったし、ギルマスは柔剣スキルだったのでガッカリしていたのだ。

 稀にスキルを複数授かる人もいるらしいが、最初の男性はないだろう。弱かったし。

 あるとしたらギルマスだが、手の内を簡単に晒すことはしないだろうし、機会があればくらいに考えておこう。


「……よし、それじゃあ行くか!」


 俺は人が行き交う市場に足を踏み入れて、鑑定スキルをフル活用しながら、新たなスキルを求めて歩き出した。

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