第13話:冒険者ギルド

 門を通り外壁の内側へやって来ると、中はとても賑やかに声が飛び交う場所になっていた。

 通りにはラグザリアにやって来た人を歓迎するかのように屋台が並んでおり、名物だろうか様々なものが売られている。

 客寄せの声が至る所から聞こえてきて、ついつい目を向けてしまいそうになる。

 馬車専用の通路と歩行者専用の通路もあり、ルールがしっかりと決められているのも好印象だ。

 ナリゴサ村ではあまり見なかったが、多くの子供たちが通りを行き交っているのも驚いた。

 いないわけではなかったが、あちらでは村の近くにも魔獣が姿を見せることがあったので、村人はあまり子供を外に出さなかったっけ。

 家の周りにいることはあっても、村の通りには子供だけでいる姿はなく、大人と一緒にいるのが当たり前だった。


「……良い匂いがしますね」

「屋台で料理が焼かれているのですよ。野営でも食べましたけど、魔獣の肉がこちらでは名物料理として振る舞われているのですよ」

「それだと、冒険者はあまり旨みがないんじゃないのか? 魔獣を狩ってその場で食べるとか、普通にやっているだろうし」

「それは違いますよ、アリウス様。野営を想定していても、料理をするような道具をわざわざ持ち歩くことはほとんどありません。騎士もそうですが、大規模な移動とかでなければ基本的な食事は保存食で済ませることが多いのです」


 保存食か。

 俺もお爺ちゃんに教わりながら作ったことがあるけど、あれはあまり美味しくはなかった気がする。

 一度作って、それ以降は作らなくなったからな。


「冒険者の間でも魔法鞄は普通じゃないのか?」

「ランクが上の冒険者になれば所持しているパーティはあると思いますが、個人で持っている人は少ないはずです」

「そうなのか?」

「はい。ですから、アリウス様も気をつけてください。魔法鞄を持っている新人冒険者というのは、素行の悪い連中に狙われやすいですからね」

「まあ、アリウス殿であれば逆にのしてしまうだろうがな!」


 御者席でバズズさんが大笑いしているが、俺としてはあまり問題は起こしたくないので、可能な限り隠しておくことに決めた。


「……そういえば、馬車はどこに向かっているんですか?」


 ラグザリアに入ってからずっと馬車を走らせているが、俺は目的地を聞いていない。

 確認も兼ねて聞いてみたのだが、どうやら俺のために走らせてくれていたようだ。


「冒険者ギルドです」

「い、いいのか? そっちの用事を済ませてくれればいいし、ラグザリアに入ったんだから俺は降りても構わないぞ?」

「ダメです! それに、せっかくですから私も冒険者に登録してみたいと思っていますから」

「で、でしたら私も登録いたしましょう!」


 ……え? 何を言っているんだ、この二人は? 貴族令嬢の護衛ってことになっているんだよな?

 リディアはともかく、レミティア様はダメだろう!


「……あの、えっと……バズズさん?」

「がははははっ! まあ、いいのではないですかな!」

「え、バズズさんは冒険者登録しているんですよね? カードを持っていたみたいですし」

「いやいや、あれは偽装ですよ。それに、この歳で新人冒険者はありえませんからな! 儂はご意見番として同行させていただきます」


 二人が登録することは決まりなのか。

 しかし、元聖女と元騎士が冒険者って、ありなのか? まあ、登録できるのであればありなんだろうけど。

 ……まあ、俺に当てはめると元貴族の子弟でもなれるわけだしな。


「さて、見えてきましたぞ」


 バズズさんの言葉を受けて、俺は少しだけ御者席の方に身を乗り出した。

 通りの正面に見えてきたのは、一際大きい二階建ての建物。石造りで岩肌むき出しの壁が、不思議と威圧感を放っているように感じられる。

 大男でも楽々と通れる二メートルを超える扉からは、多くの屈強な人たちが出入りを繰り返していた。


「……すごいな」

「ラグザリアに冒険者が集まっているとは言ったが、どこの冒険者ギルドも似たようなものだぞ?」

「そうなんですか?」

「あぁ。生きるも死ぬも自分次第なのが冒険者だ。だからこそ自身を鍛えるし、生きるために依頼をこなし、魔獣を狩っていく。アリウス殿も感じているのではないか? 冒険者ギルドから放たれる威圧感に」


 どうやら、気のせいではなかったようだ。

 この威圧感は、冒険者一人ひとりから放たれる迫力が積み重なって、冒険者ギルドに宿っているのかもしれない。

 冒険者ではない、または戦うことを生業にしていない者には感じられない類の威圧感を、俺は不思議と心地よく感じていた。


「……楽しみですね」

「ほほう。これを楽しみと言えるなら、アリウス殿は大成するだろうな」


 隣で馬を操っているバズズさんがニヤリと笑いながらそう口にしたタイミングで、馬車は冒険者ギルドの前に到着した。

 通りを行き交う冒険者から奇異の視線が向けられているが、高揚している俺にはそれすらも心地よく感じられてしまう。


「儂は馬車で待っておこう。リディア、しっかりと案内するのだぞ」

「はっ! お任せください!」


 俺たちは馬車を降りると、その足で冒険者ギルドの扉を開けた。


「――ひゅ~! かわい子ちゃんがやって来たぜ~?」

「――確かに、かわいい男の子ね~?」

「――ガキどもがなんの用だ?」

「――ったく、すぐ死ぬんじゃねぇのか?」


 至る所から俺たちに対する声が聞こえてくる。

 俺は全く問題ないのだが、二人はどうだろうか。


「なんでしょうか、色々と言われていますね」

「まあ、このようなものでしょう」


 ……予想外な反応だな。


「二人とも、慣れているんだな」

「女性というだけで見下されることが多かったですからね。この程度なら問題ありません」

「私もです。聖女と言われていましたが、戦場では女がどうのこうのと言われ続けていましたから」

「……大変だったんだなぁ」

「家族から勘当されてしまったアリウスに言われると、そこまで大変だったとは思えませんね」


 いや、俺は本気で大変だったなと思っているんだが……俺の身の上なんて、貴族ではよくあることだと思うし。


「あぁ、あちらが冒険者ギルドの登録用窓口になっているようですね」


 冒険者ギルドに入って左奥、比較的空いているスペースが登録用の窓口のようだ。

 俺たちはそちらへ向かうと、受付の女性に声を掛けた。

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