第12話:要塞都市ラグザリア
「――そういえば、魔獣狩りは大丈夫だったかなぁ」
ふと、ナリゴサ村で魔獣狩りを行っていたことを思い出してしまった。
レギン兄さんとミリー以外が担当の時には魔獣の討ち漏らしが多くあり、俺が鍛練と称して狩っていた。
そのおかげで素材をお婆ちゃんに持っていって貯蓄に回せたけど、今はそれがない。
二人やお爺ちゃんに負担がいっていなければいいんだが。
「どうしたのですか、アリウス?」
「ん? いや、なんでもない」
揺られる馬車の中で考え込んでいたからか、レミティアに心配されてしまった。
すぐに意識を切り替えて、窓から外に視線を向ける。
検問を越えてからは整備された街道が続いており、ガゼルヴィード領の街道がどれだけ荒れていたのかを目の当たりにしてしまった。
ナリゴサ村の周囲はそうでもなかったが、その他に目が向いていなかったのかもしれない。
……マジで大丈夫なのか、親父は。
「……ん? あれは?」
「うふふ、気づきましたか? あちらは検問から一番近くにあり、堅牢な外壁で囲われている要塞都市――ラグザリアです」
要塞都市ラグザリア……すごいなぁ。
ガゼルヴィード領の隣なのだからラクスウェイン領も辺境であることに変わりはないはず。
それにも関わらず、一都市で五メートルに迫る外壁で都市を囲っているなんて……マジでガゼルヴィード領を飛び出してよかった。
「こう言ってはなんですが、ラグザリアはガゼルヴィード領から溢れた魔獣に備えて建設された都市なのです」
「え? そうなのか、リディア?」
話を聞くと、五年程前から魔獣が少しずつ増えてきており、すぐに溢れるようになったらしい。
五年程前かぁ……うん、親父がお爺ちゃんから当主を引き継いだ頃だ。
自領だけではなく、他領にまで迷惑を掛けていたなんて、知りたくもなかったな。
「……俺、しばらくラグザリアで活動します」
俺はせめてもの償いとして、しばらくはラグザリア活動――もとい、ガゼルヴィードから溢れてきた魔獣狩りをすることに決めた。
「だったら私たちもしばらく滞在しましょうよ、バズズ!」
「それは良いかもしれませんな」
「いいのか? 三人とも、逃げているんだろう?」
一つの場所に留まると見つかる可能性も高くなると思い聞いてみたのだが、その対策も問題ないらしい。
「検問にいた兵士は私の元部下でしてな、根回しは完璧なのですよ」
「信頼できる者って、そういうことか」
てっきり情報が辺境の地まで届いていないと思っていたが、そうではなかったようだ。
突発的な逃亡だっただろうに、即座にこんな場所にまで根回しができるとは……バズズさん、恐るべしだな。
そんなことを考えている間も馬車は順調に進んでいき、ようやくラグザリアの門の手前までやって来た。
「ここは東門ですな」
「すごい行列ですね」
「ラグザリアはリディアが説明していましたが、魔獣がガゼルヴィード領から溢れることが多い。故に、魔獣を狩るために冒険者が集まる傾向が高くなっているのですよ」
「……え? ってことは、ここに並んでいるほとんどが冒険者なのか!?」
俺は慌てて窓から外に目を向ける。
行列は目算で一〇〇メートル以上は続いており、武具防具を手にした者たちが明らかに多い。
そして、バズズさんの話から察するにラグザリアには東西南北に門があるはずだ。
長い短いはあるだろうけど、全ての門から多くの人が行き交っていると考えると、冒険者って結構な数がいるんだと驚いてしまう。
「……ガゼルヴィード領、マジで引きこもり体質なんだなぁ」
「いやいや、ガゼルヴィード領にも冒険者はいるはずですぞ」
「いや、知ってはいるんですけど、ナリゴサ村には冒険者ギルドの支部がなかったんですよ」
「……それはおかしいですね。ユセフからは冒険者ギルドも造ったと聞いていたのですが?」
……あ、もしかしてあれか? 親父が魔獣狩りの稼ぎを独占するために取り壊した建物があったけど、あれなのか?
だとしたらガゼルヴィード家の人間は相当嫌われているだろうなぁ。……俺、冒険者になれるだろうか?
「こう言ってはなんですが、アリウス様はガゼルヴィード家の現当主から外に出されなかったわけですし、存在自体が知られていないのではないでしょうか?」
「それだ、リディア!」
間違いない。俺の存在は村の外にほとんど認知されていないはず。
それに俺は勘当されたんだから、ただのモノマネ士アリウスだ。
モノマネ士なんて職業からガゼルヴィード家に結びつける者の方が少ないだろうし、バレたとしても逆に残念がられるんじゃないだろうか。
「よし、俺は今日からただのモノマネ士アリウスだ!」
「よかったですね、アリウス様!」
「あぁ! ……しかし、なんでリディアは俺に様付けのままなんだ?」
「レミティア様が親しくされている方ですから、私はこのままでいいのです!」
「……こそばゆいんだが?」
「そこは我慢してください!」
俺が我慢するのかよ。
「そろそろですぞ」
話をしている間に馬車はいつの間にか次の順番までやって来ていた。
門番が声を掛けると馬車を進め、バズズさんが何やら話をしている。
「――護衛依頼でラグザリアにやって来た」
「――冒険者カードを拝見しても?」
「――これだ」
……おや? どうやら協力者はいないみたいだ。
しかし、冒険者カードかぁ。俺はどうなるんだろうか。
そんなことを考えながら少し身構えていたものの、門番はあっさりと馬車を通してくれた。
俺が驚いていると、レミティアがクスクスと笑いながら事情を教えてくれた。
「あの方は協力者ですよ」
「そ、そうなのか? だが、冒険者だと言っていただろう?」
「ここには多くの目や耳がありますからね。偽装のために冒険者を装っているのですよ」
「……こんな馬車を使っている冒険者がいるのか?」
「依頼内容が貴族令嬢の護衛、となっていますからね。問題はありません」
もしも協力者以外の門番が不審に思っても、説明ができるようにしているのか。
「まあ、念のためですけどね」
「これだけ往来が激しい場所だと、人によっては流れ作業でいかにも怪しい人物以外は通してしまうことも多々あるのですよ」
「……いや、それはさすがにどうかと思うのだが?」
「まあまあ。とにかく、無事に門を通れたので良しとしようではないか」
無理やり納得させられた感じだが、ラグザリアがそれで成り立っているのなら構わないか。
それに、バズズの言う通り俺はようやくやって来たのだ――ラグザリアに!
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