473:お目覚め

「そろそろ……宰相閣下が起きられる時間では?」


 薬品と魔術によって強制的な睡眠、休息を取らされていた「腹黒」宰相は強靱な意志で目覚めると、すぐに緋の月を動かそうとした。が、帝都に滞在している者達……緋の月の若手らしい、全員が、俺に対して行動しているという緊急事態情報を知り、戦闘を停止し、俺を館に招くように命令。

 何とか意識を覚醒しようと気付け用の薬を服用していた様だが、俺と会見中に力尽きてしまった……らしい。


「多分、あと数十分程度お休みになれば……薬の効果も薄れましょう。お招きしておきながら申し訳ありません」


 と謝罪され。食事を出された。当然の様にもの凄く豪華な……これまでこちらの世界で食べたことも無い食材を使用した食事が並べられたが。味はなぁ~ハルバスさんどころか、マイアにも至らない。料理人のスキルの差だろうなぁ。


「では、その時間、私が……我が主、ラハル様、ハーレイ帝国宰相閣下物語をお聞かせ致しましょう。あの天才が何故、その力を十二分に震えるまでに至ったかを!」


 食事中から……なんていうか、クルセルさんによる独演会がスタートした。してしまった。


 帝国の事も知らないし、ましてや「腹黒」がどうして「腹黒」になったかなんてサッパリなので、それを教えてくれるというのであればありがたいか……なんていう簡単な気持ちで、


「それは興味深いですね」


 なんて言ってしまった自分自身を、叱りつけたい。


 講談師だったか? 喋りで物語を語る職業は。まあ、なんていうか、俺というたった一人の観客に対してここまで力のこもった熱演はご苦労様としか言いようがないが。

 だが。さすがに二時間近く続いているのは……長い。そして飽きる。カタカナ名が覚えられない。数十分じゃないのかよ……。

 なんでも、この講談の文章は彼女が常々書き留めている、公記らしい。うーん。


 とりあえず、第一皇子が死ぬところまではまあ、聞いてみたが。大体判った。


「……そろそろ。宰相閣下がお目覚めの時間では?」


「なんと! 史上最強叡智爆発帝国宰相公記はこの後、山場を迎えますのに! この後、第三皇子を筆頭とした、ライバルを蹴落として、潰して、兄であるリドル様を天上に押し上げる、立身出世の熱い展開が! 帝国魔術騎士団の礎となった、シディン領騎士団が、他領の騎士をなぎ倒し、さらに介入を目論んでいたマーモット王国の王都を一夜にして制圧する激熱展開が待ってますのに!」


 おーけーおーけー。俺知ってる。こういう感じの人、知ってる。異世界激熱展開にワクワクしちゃって止まらなくなりかけてた人、知ってる。似てるというか、絶対に同じ属性だと思う。


 しかも小説……三人称視点の物語になってるから、なんていうか、その後に知った要素までちりばめられちゃってる。正確じゃ無いんだよな。フィクション混じってる。史書じゃないのよ。全然。創作物に近い。ああ、そうか、こうして歴史が歪んでいくんだな?


「大体の所は判りましたし。つまりは、強制的に止めさせ、休ませたのは……皇帝陛下の御命令で、ということですね?」


 まあ、宰相を……強制的に止めるにはその上が動かないとだわな。


「陛下は……ラハル様のお身体を労るように……と。強制的に休ませたのです。そして……御自身は親征ということで、御出立されました」


 おうおう。ってことは。


「つまり、宰相閣下の現在最大の懸念事項は……それですか」


 ガチャ。ドアが開いた。


 食事を取った後、通されたのは、居心地の良い家具でまとまっている居間……いや応接間か。ソファにはクッションや布が幾つも置かれている。


 そこに無造作に身体を投げ出す……美丈夫。髪がはらりと乱れる。


「すまない……失礼した。服用した気付け薬と、元から飲んでいた薬の相性が悪かったようだ。さらに申し訳ないが、まだ身体がだるい。こんな姿勢だが許して欲しい。それにしても……長い時間を……」


「いえいえ。クルセル様から……御兄弟の。まあ、天上陛下に失礼ですがお許しください。御兄弟が天下を治めるに至った物語をお聞きしておりましたから」


「そ……それはすまなかった……申し訳ない」


 あ。知ってるのか。そりゃそうか。もの凄い同情の目だ。


「クルセル様からお聞きした限り……で考えると。ラハル・ハーレイ閣下個人の一番の気がかりは、兄である天上様の御親征ということですか」


「……ああ。そうなる。正直、サノブ殿自身の事も非常に気になる案件ではあるのだが。今は、今は時が惜しい。再度、失礼を承知でお願いする。どうか。魔族の軍を撃滅したその方法を……お教えいただけないだろうか?」


 藁にもすがる……ということなのかもしれない。


「んーそれを私の口から……というのは、どうにも具合が悪いかと存じます」


「……」


 一瞬。宰相の気が締まる。「くそっ」とかそんな感じだろうか。それと同時にクルセルさんも……若干反応した。すげーな。以心伝心か。


「まあまあ。そこで。ですが。御提案させていただきます。私に指名依頼ということでいかがでしょうか? 既に少々遅いのかもしれませんが……「親征軍を援護せよ」と」




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心の状態がいまいちだったので公開を停止していた作品をアルファポリスさんで再スタートさせました。文章を修正しながらのアップロードなので時間はかかるかと思いますが……。よろしくお願いします。


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