377:実は動かない

「お帰りお待ちしておりました! おりました!」


 なんかしつこいよ……。ルックスは超上級美人女優、アイドルクラスなのに……言動が、大事な事は二度言うタイプのバラエティタレントの人みたいだ。


 というか、うざいんだけど、元気なのだな……。元気になったのだな。と思うとちょっとホッとする。あ。伝染った……。


「御帰還ですか? ついに、復活、御主人様の鉄槌が腐った長老共に振り下ろされ、ヤツラは四肢を千切られて地獄行きですか! 決定ですね!」


 いやそれにしてもテンション高いな……大丈夫なのか、この娘。片矢さん……きっと、仕事に忙しいって言い訳して、側仕えの人たちに丸投げしたままだな……。


 まあ、そうりゃそうか。片矢さん、独身だし……女子供の扱いなんて得意なハズ無いよな……。


 それに……確か、彼女はずっと監禁されてたから、本当の性格なんて知らなかったハズだし。


「とりあえず、黙れ。まくし立てられるのは好きじゃない」


「ぴっ!」


 あ。今、変な声が漏れた。開け放たれた扉のすぐ脇に、いつの間にか側仕えの人が立っていた。注意し……ないよなぁ。多分。


「現在、重要案件で一時帰還中だ。一時帰還中、だ。判ったか?」


「……はぃ」


 ベッドに目を向けると、万里さんはビックリした顔でこちらを見ている。


「すまなかったね。うちの人間が派手に騒いでしまって」


「い、いえ……あの……ここは……村野さんの家……ということですか?」


 そうだよな……。彼女にしてみれば、お婆ちゃんの家に泊まってたら、いきなりこの状況なんだもんな。理解出来ないよな。 


「ああ。そうだ。ここは俺の家……まあ、別荘みたいな感じだ。俺の名前は……ショゴスから?」


「はい……向こうの世界の情報は全部……残っています。私の意識……た、魂は無かったみたいですが……」


「この場所は、君のお婆さんの家のある町から一山越えた辺りだと思う。君はそこで不測の事態に巻き込まれたよう……だね? それにしてもショゴスは……自宅自室にいたと言っていたのだけれど……」


「あ、あの、彼は最近、休んでいることが多くて……だから、私がお婆ちゃんの家に行ったのに気付かなかった……んだと……エネルギー不足と言ってま、した」


「そうか……じゃあ、仕方ないか。身体や精神的な部分で問題がなければ……すぐにでも帰してあげたいんだが……どうかな……身体は普通に動くかな?」


「え? 動く? う、うごきま……あれ? あぇ?」


 表情が変わる。ああ。今まで気がつかないくらい……異和感がなかったということか。その新しい身体は。


「自由に動かない……か。やはり。それもこれも仕方が無い。原因は現在調査中だが、万里さんは大怪我した様だ。瀕死状態だったが、ショゴスが全力を使用して君を生かした。少々強引なやり方で。そのせいでショゴスは消耗し、現状、ほぼ何も出来ないレベルで衰弱している」


「そお……れすか……」


 舌も回っていない。最初は勢いで喋れていたのかな?


「リハビリが必要だな……慣れるのに多分、そんなに時間はかからないと思う。少なくとも日常生活が普通に行えるようになるまで、ここに居るといい。正直、ちょっと訳ありの身でね……即御家族に連絡して、ここに来てもらう……というのは不可能なんだ。すまない」


 ということで、言いつけを守って口を開けずに立っている美香に目を向ける。


「彼女は、佐久間万里さん。現状はリハビリが必要だが、数日すれば普通に行動できる様になるし、運動などをして馴らす必要があるだろう。その世話を頼めるか?」


「は、はい! 問題ありません! 客間を御用意いたします! そして、全身全霊お世話させていただき」


「いいから、そんなに力入れすぎないで。まずはそうだな。客間に移動させよう。嫌かもしれないが、ごめんな」


 そう言って掛け布団を剥いで、抱き上げる。お姫様抱っこだ。

 彼女は現在、普通の……ファストファッション系のスウェットの上下を着ている。多分、寝間着にしていたんだろう。


 洞窟で会ったときは学校の制服だったのだが、工房に連れ帰って、ベッドに横たえ……しばらくした時にはこの服装に変化していた。その辺もショゴスの気遣いだろう。というか、あいつ何でもありだな……よく考えたら。


「どこの客間? ベッドはここみたいにメンテしてあるよな?」


 美香が、側仕えの人を見る。頷いている。


「こちらです」


「あ、あの……すい……あ……せん」


「気にしなくていい。ショゴスと約束したからね。君が生きることを最優先にすると」


「……しょ、しょごす……は……あの……しんじゃたんです……か?」


「その辺の詳しいことはもう少し身体が動くようになってからだ。まずは、自分で自分をコントロール出来るようになってくれ。回復することが……ショゴスへの恩返しだと思って欲しい」


「あ……い」


「ああ、大丈夫、凄まじく衰弱しているが、ショゴスは死んでいないし、消えてもいないよ。ただ、どうにもならない状況で、君から離れることになったけど。なるはやでヤツに君の無事を伝えないとな」


 頷く。理性的で話が通じる娘で助かった。まあ、ショゴスと出会った時も騒いだり、パニックになったりせずに冷静だったというから、そういう気質の持ち主なのだろう。

 お婆ちゃんの家に居たのがいきなり、知らない男の家で寝かされてるなんて、パニックを起こして暴れてもおかしく無い案件だ。

 しかも自分の身体が自分では無い……状態だもんな。その辺、気をつけてフォローしていかないとダメだろうな。


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