339:コロシアム的なヤツ

「やっぱり、温泉は~堪らないです~ね~」


「ああ……」


パシャパシャパシャパシャ……


 会食の後、夜になって……いつも通り、副団長、アーリィがやって来ていた。そして、お風呂に直行。


 普通。いつも通り。いや。そうでもない……か。


「あの~実は~傷痕が無くなった事を~父や~母に~見せにいくことになりまして~」


「まあ、そうなるだろうね」


「ええ。親だけでなく~親戚や、家の者達には~迷惑もかけましたし~一度ちゃんと挨拶しないとなんですけれど~」


 けれど?


「……帰って来てもよろしいでしょうか?」


 ん? やべ。なんか、真面目モードだ。


「揉める?」


「揉めますね……」


「すまんね。迂闊に治療しない方が良かったのだろうか? もう少し、ゆっくりと……時間をかけて……」


「いえ……私は……まず、あの傷痕、戒めから逃れたかったので。改めて……ありがとうございました。特製ポーションの中でも……さらに上の等級の物を、それこそ湯水の様に使っていただいたのですよね?」


 ああ、気付いてるね。うん。今日の会食の話題から、だよね。


「王都で……私の予想通りの展開となるなら。最終的には全て、投げ出そうかと思っております」


「副団長でなく?」


「はい……多分、戻れば、副団長……いえ、姫様の近衛も辞さなければならないかと」


 どういう?


「実は……私には……継承順位は非常に低いのですが、王族の血が流れています。つまり、今の父や母は育ての親となります」

 

「おう」


 いきなり重いね。


「今回、傷痕が消えた……と知られております。そうなると、私の様な年増でも政略結婚の義務が生じてきます」


 義務ですか。


「放置されてたんでしょ? そういうのから」


「ええ。そして、色々と嫌がらせや、さらに、嘲りを受けたりもしました」


「なら義務も何もないんじゃ?」


「それでも、父と母に迷惑がかかるやもしれません。ですので、少々、暴れてこようかと……」


「ん。判った。手を貸す?」


「結構です。これくらいは自分の手で……処理できます」


「ん」


「それよりも……御迷惑ではないですか? ここへ逃げ込むように帰ってくる気がします」


「くくく。迷惑のわけがないよ。王国は……優秀な人間を失うって事に気付いてないのかな?」


「ありがとう~なのですよ~」


 彼女が俯く。頭に手を置き、撫でる。


 アーリィは温泉を堪能し、色々した後、いつも通りに騎士団宿舎へ戻って行った。


「シロ、新規フロア用意して」


 久々の白い部屋……迷宮機能集中総操作室で、ブロックで迷宮造りだ。


「ああ。なんだか久しぶりですね……これです。これが本来の私のお仕事になります」


「すまんね……シロには余計な事ばかりさせてしまって」


「問題ありません~といいつつも~今も転ばせてますけど」


「未だに?」


「毎日……余所から入って来ていますから。それこそ、帝国以外の間者は、国内外合わせて、結構多いです」


 最近、特に、カンパルラに人が集まりつつある。ここは街道の中継地点などではない。先に進むことの出来ないドン詰まりだ。目ざとい商人は、ここでなんとかしてリドリス特製ポーションを入手して持ち帰ろうと画策しているのだ。


 まあ、この混雑に緋の月が混ざっていないだけ、ありがたいと思おう。


 とりあえず、今は、ダンジョン作成に集中だ。


 そういえば。適当に作った広間中心のマップにドラゴンとかを置いて、それをいたぶってたんだった。それも削除する。


 過去に作った広間を幾つか……廊下のパーツでつなぎ合わせていく。その際に、廊下を、各種広間にキチンと組み合わせれば、なかなか美しい造形になるのだ。


 ボーナスをちゃんともらおうと思ったら、迷宮っぽく見える様にきちんと無駄なく配置しないと。


 傾斜を付けて、その先に丘のような部分を構築する。この周辺にハイオークを配置する。段階的に囲まれていく様にして、殲滅に時間が掛かっていると、どんどんピンチになる仕様だ。


 さらにその奥には、隠し通路や滝の組み合わせで、隠し部屋を多数用意する。この中には宝箱をね。配置してと。


 ボス戦はコロセアムを模した闘技場を用意した。なんていうか、こういう、劇場型の演出も重要なのだ。折角、様々な形、様々な色とのパーツが用意されているのだから、外見的な凄さをアピールするのも大事じゃないかと思ったのだ。


 おお……ローマな建造物を頭に浮かべながら、細かい部分も付け加えて行く。かなり大きくなってしまった。闘技場と言うよりもこれじゃ……サッカー場とかだよな……。


 まあでも、これくらいの大きさでなければ……こいつは

配置できない。


 レッドドラゴン……一番最初に買ったセットの中でも一番大きく、一番いかつく目立っていたラージカテゴラリの超大物だ。


 エラー。


「現状のシステムではこの魔物は配置できません」


 シロから忠告を受ける。


「なんで? これ、初期の……基本セットに入ってた魔物なのに!」


「……確かに変ですね。何かバグってるのかもしれません……」


 ちぇ……この巨大なコロシアムであれば、レッドドラゴンに相応しい感じだと思うんだけどなぁ。

 仕方ないので、通常のドラゴン、焦茶色のノーマルなヤツを五体配置する。


レベル91 ドラゴン L 竜族


 こいつレベル91だったのか。改めて見たら強いな。


 あれ? それにしては経験値は大した事無かったような……気がするな。あれ?


「シロ、これはこれで保存で。今のは俺の訓練フロアね?」


「了解しました。迷宮創造主マスター


「で、今のMAPをコピーして、もうひとフロア用意して。松戸、森下用に魔物を変えてと……」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る