335:領主と騎士団長

 貴族家が独自の戦力、それこそ、家臣団以上の騎士団を所持するのは自由だ。


 だが、他国と接する、強力な魔物の脅威と接する。何かしら理由が無ければ、金食い虫である家臣団、騎士団規模の兵力をを常設する意味が無いのだ。

 

 これまで、カンパルラは都市守備隊と、リドリス領騎士団が守りに就いていた。それが、曲がりなりにもカンパルラ領としてカンパルラ子爵家が独立し、領主と為った。


 正直、子爵家で騎士団と呼べる様な兵力を維持することは不可能に近い。まあ、特製ポーションで暴利を貪れば……その資金力で騎士団を維持することも可能かもしれないが、あくまで普通のポーションと同じ価格帯で販売することになっている。

規制らしい規制は、王家仕切りってことくらいだ。


 だが、そうなると、最近大人しいとはいえ、深淵の森や周辺迷宮からの狂乱敗走スタンピード対策や、リドリス領までの街道沿いの魔物の掃討など、不都合も多々出てくる。


 その解消方法が、辺境騎士団なのだ。辺境騎士団は国が運営することになる。

 リドリス辺境伯という後ろ盾があるとはいえ、カンパルラ家は爵位的には子爵家だ。特製ポーションを取り扱う……には地位的に圧倒的に弱い。

 

 それを名実共に支え後ろ盾となるのが、王太子姉のマシェリエル団長であり、彼女の率いる辺境騎士団なのだ。


「ということでな。辺境騎士団団長殿との会食を……お願いしたい。ノラム殿を含めという御依頼だ」


「ディーベルス様……領主様も同席の上……ですよね?」


「あ、ああ……うん。今後のカンパルラと辺境騎士団の関係性の確認……の為だな……」


 あ。この人……面倒くさくなって、放棄し始めているな……。


「しかし……姫様も気配と容姿とか基本……あやふやな……ぼかされてるような男を好まれますね。自分で言うのもなんですが。怪しすぎですよ」


「そうだな……まあ、だからかもしれん。姫様の前に立つ者は全て、身元明らかな者ばかりだ。というか、明らかで無ければ、前に立たせられん」


「……アレだ、正統派の主人公じゃ無くて、ヤンキー系の主人公憧れちゃうという」


「ヤン?」


「うーん。ちょい悪な男性に惹かれる女性は多いということです」


「まあ、そうかもしれん……とりあえず、姫様にしては……もの凄く我慢された……様だ。カンパルラに赴任してしばらく立つが、これが初めてのお願い事だからな」


 ああ、そうか。姫様は姫様だから、辛抱しなくていいんだよな。にも関わらず、今まで我慢してたのか。


「……あの。こう聞くのも違うと思うんですけど……姫様、いえ、マシェリエル様……は真剣……なんでしょうか?」


 あまり気にしないようにしていたのだが。


「私も……ここまでとは思わなかったよ……。いつもの気まぐれ、しばらくすれば思いは薄れ、違う事に興味は移るのではないかと考えていたのだが」


「正直な所……私の中に貴族制度が無いにしても、ここカンパルラでは私は平民であり、こうして、ディーベルス様と直接話をさせていただいている事が異常だと理解しております。それこそ、貴族の中の貴族、王族である姫様との、新たなる関係など……あり得ないわけでして」


「そうだな。あり得ない。それこそ、ノラム……いや、サノブ殿をリドリス家の養子として迎え、さらに爵位を与え、それでも……限界がある」


 ディーベルス様もほとほと困っている様だ。


「姫様は……アーリィと同じく、妹弟子でもあるからね……。二人とも、本当の妹の様に可愛がってきた。他国に嫁ぐ時等も、王族の義務とはいえ、どうにか彼女が望む形に変更できないものか、兄上と共に、検討したくらいだ」


「姫様が真剣であればあるほど……解決策が無いかと存じますが」


「う、うむ……」


「領主様。よしなに御健闘の程を」


「ま、丸投げするな……。私だって、父上、兄上に投げつけられたのだぞ……」


「くくく。しかし、どうしましょうねぇ」


「どうしようか。落とし所がな……。まあ、さらに言えば、まずは姫様のお気持ちががな」


「ええ。それが一番ですね。とりあえず、ノラムとしての会食。了解致しました。正直、なるべく気のない素振りで対応させていただきますよ?」


「あ、ああ。それで良い。多分……」


「多分……」


 ふう……溜息が……うん。さらに言えば……なぁ。姫様の側近であり、一番近い部下をなぁ~うん。温泉漬けにしちゃってるからなぁ。

 しかも、散々弄んで、触りまくって、しまくっちゃってるからなぁ。知られたら恐いなぁ。


 現状、アーリィは姫様にも何一つ伝えてないみたいだから大丈夫だと思うけど。

 

 まあ、そんな余裕ぶった生活をしていると、色々と不安になってくる。


「シロ。緋の月の動向、最新情報は?」


「彼らの潜入時の情報隠蔽は大したものだと思います。かなり精密に情報収集を仕掛けているのですが、大きなネタは入手出来ておりません」


 工房に帰って来るなり、シロに訪ねた。


「侵攻期日は?」


「色々と調整に時間が掛かっている様で……指令に則した、指令に合致した? 陣容、兵力が調っていないというのは伝わって来ています。こちらも詳細は分かっておりません」


「くそ。さすが宰相殿ってことなのね……。アンテナチップっていうチートツール、魔道具を使用してるのに、その程度って」


「はい……お見事としか言いようがありません。帝国から遠く離れたリドリスという辺境で……それでもキチンと情報隠蔽、管理を自然に行っているわけで」


「判った。とりあえず、明日攻めてくることは無いってことは判った。ありがとう」


「は。引き続き、情報収集作業に励みます」


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