179:錬金術入門

 そして転職だ。転職だ。ワクワクの転職だ!


「それではシロさん。お願いします」


「……転職など、既に何度も経験しているではないですか……」


「いやーなんていうか、今回は初の非戦闘職だし。緊張するよ。ワクワクするよ」


「そうですね。というか、戦闘がありませんから……地味とかと言われている様です」


「そんなことは百も承知! ということで、お願いします」


「了解したしました」


 次の瞬間、襲われる脱力感。ああ、レベルが下がったんだなと実感出来る。まあ、この感覚には慣れたもんだ。能力値、体力と魔力は下がってないのになぁ。


名前 村野久伸むらの ひさのぶ

種族 ハイエルフ


天職 錬金術士

階位 1

体力 90 魔力 120


天職スキル:【錬金術の知識】【練成】【錬金術・壱】


=隠蔽=========

天職 迷宮創造主ダンジョンマスター

階位 31

体力 28 魔力 121 


天職スキル:【迷宮】【結界】【鑑定】【倉庫】【収納】

【異界接続】【渡界資格】【言語理解】【次元扉】


習得スキル:

【気配】【剣術】【盾術】【受流】【反撃】【隠形】【加速】【棒術】【拳闘】【魔術】【手加減】

=隠蔽=========


「天職スキル【錬金術の知識】【練成】【錬金術・壱】を習得しました」


 ああ。頭に……なんていうか、錬金術の体系が浸透してくる……それにしてもこれは……いったいどこからやってくる知識なんだろうか? というか、そういうのは考えちゃダメな部分なんだろうか? 世界の禁忌とか?

 まあこの情報が、文字通り、【錬金術の知識】なんだろうな。

 

 で。次に。【練成】は様々な手順だ。器具の使い方、必要となる要素の抽出等の技術指南というか。とはいえ、根本的な物質に対する科学的アプローチはこっちの世界の方がかなり進んでいる気がする。

 でも、最強必殺技が魔術の適応で強引に解決する……な感じらしいから、トンデモ理論でこちらの世界の常識をすっとばしてそうだ。


 そして【錬金術・壱】はレシピだ。


 錬金術師の第一歩は各種ポーション。一般的にポーションと呼ばれている水薬の効能は多岐にわたるようだ。


体力回復薬:体力回復薬。HPの回復ってことなんだろうと思う。怪我などの治療も行えるみたいだ。最下級、下級、中級、上級、最上級のランクが存在する。


毒消し薬:毒の治療薬。毒の深度によって、最下級、下級、中級、上級、最上級とある。


精力回復薬:継続力の回復を行う。スタミナ回復薬ってことかな? 最下級、下級、中級、上級、最上級とある。


魔力回復薬:素材などの調達が難しく、作るのも難しい。最下級、下級、中級、上級、最上級とある。


病気治療薬:これは【錬金術・壱】では作成できないそうだ。様々な病気に特化した薬が存在するが、材料も特化されているらしい。


 これらの水薬は作成する錬金術師によってオリジナルなブレンドがなされている場合も多く、その割合や、効能で値段も変化する。まあ、ブランド毎に効果が変わるし値段も違うと。


 ポーション、ミドルポーション、ハイポーション。市販されている水薬はそのブランドによって大きく効果が変化するという。


 ……っていうか、そうか。売ってるんだ。店があるのね。ファンタジーな道具屋で売ってるポーション。うんうん。素敵だ。


【錬金術・壱】で作成できるのは下級の水薬全般だ。魔力回復薬は素材があれば……らしい。


 最下級の体力回復薬の生成に必要なのは、お馴染み「ホルベ草」と「回復水」のみだ。


 まずは「ホルベ草」を砕いていく。普通はすり鉢とすりこぎ、又は薬研という薬剤を細かくする道具を使う。ここで細かく丁寧な仕事が出来るかどうかで仕上がりに差が出るそうだ。


 ……ゴリゴリ。初級錬金術作成機材はDPで買えたので、とりあえずゴリゴリしてみたが。これ、スゲー面倒くさいな……。


 よし。【結界】「正式」で小さめの円球を作る。その内側に「ホルベ草」を入れる。そして。そこまで力を入れずに。「風刃」を三つ……その中で発生させる。


 かなり迫力減だけれど、「微塵」だ。


【魔術】スキルはあるけれど、強力な術を使うと反動が大きい。まあ、これくらいの威力ならそこまでダメージは無いので大丈夫だ。


 よし。


「スゴイです。というか、魔術を使って粉末化するなんて……そんな発想、データで見たことが無いです」


 シロが褒めてくれる。【結界】「正式」のサイズを小さくすればするほど、「ホルベ草」が細かく砕けていく。


「ホルベ草」の粉末がとんでもなく細かく仕上がった。これを、回復水を温めながら、少量ずつ加えていく。


「お。溶け出した」


「ホルベ草」の粉末は通常の水には溶けないけれど、熱していく途中の回復水には溶け出すらしい。っていうか、抽出とかその辺の細かいやり方も有るようだ。レベルが上がれば教えてくれそうだ。ファンタジー世界だから、あまり期待していないけれど。


「ホルベ草」が溶け出した回復水=「ホルベ水」はこれだけで最下級回復薬の効能が発揮されるらしい。

 というか、これ、美香さんに飲んでもらってるヤツよりも「ホルベ草」が細かく砕かれてるしな。効果的かも。早速差し替えよう。


 飲んでみる。


「うーん。飲めなくはないけれど……青臭いな……どうしたって。よし」


 これに、今度は「正式」の球の中に「モモ(のようなの)」を入れて、再度「微塵」。おおー。とんでもなく細かく……って普通にジュースだよな、これ。


 ちょっと飲む。


「うまっ」


 というか、「微塵」スゲーな! ブレンダーとかミキサーなんか比べものにならないくらい細かく砕いてる。

 ミキサーで……コーンスープやオレンジジュース、スムージーを作ったことのある人ならよく知ってると思うけど、普通に砕いただけだと粒は残る。のど越しは当然、ザラザラとしたものになるのだ。

 それを様々な方法で濾過、濾すことで口当たりの良いスープや飲み物となるのだ。


「この喉越し……どう考えても、濾してるよな……」


 スムージーなんかの場合、濾してしまうと栄養がカスに残されてしまう事も多いのだが……「微塵」の場合は全てが丸々ジュース化している。


「栄養素そのまま、満点だな!」


 ということで、「ホルベ水」に「モモ」ジュースを加える。正直、目分量だ。


 これをさらに「微塵」。なんとなく贅沢な攪拌方法だ。


「やばっ。旨い……」


 自分の産みだした液体を鑑定する。


「中級回復薬」


 うお。なんだそれ。いきなり? 最下級と下級はどこいった? 


「おお、いきなり「中級回復薬」作成は素晴らしいです。このまま作成を続けるのがよろしいかと」


 これまたシロに褒められる。すると調子に乗るのがおっさんだ。


 まあ、じゃあ、とりあえず、適当に作っておこうか……。


 蓋付きのポーション瓶、薬瓶(スタミナドリンク系のサイズというか形)もDPで購入出来る。完成した中級回復薬をこれに小分けに入れて栓をして、【倉庫】に保管する。


 繰り返す。繰り返す。


 ポーションが続々と増えていく。


 

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