115:気力
「では、行貞さんも気力に関してはそこまで詳しくはご存じないと」
「ああ、そうじゃな……正直、儂の使っている気力は全て我流で身に付けたものた。これまでは守り手にしか使う事が出来なかったが……ここ最近じゃな。撃ち手にも使える様になってきたのは」
調子に乗って、戦闘にしか目が行かなくなっていたことを謝罪された後。お茶を誘われ歓談、となっていた。最初からこっちで良かったのに……。
「そもそもな……気力という技、力はヤツラの独占技術じゃった。うちの流派はその開祖を戦国時代の武将、荷科行勝としているが、伝えられてきた秘伝、秘術、秘技……全ての口伝にこの技に関するものは一切無い。この辺は口外無用じゃぞ? 流派の奥底は謎に包まれておるからこそ、威力を発揮することもあるでな」
「村野様は大丈夫です。師匠」
「ああ、まあな。興味がないだろうしの」
確かに。その辺には一切興味が無い。
「さて。それで手がかりじゃな。まず第一の目的はそこのメイドさんかな?」
そう。森下さんの声……というか、喋りが日々「おかしく」、困難になってきているのだ。彼女達がうちに来た当時は俺が聞きたいことでは無いのだが、目的などの「必要なこと」を話すのに何ら問題無かった。
どちらかと言えば、松戸さんの方が状況は酷かったと思う。すぐに治してしまったので忘れがちだが、思考にも靄が掛かっていたと言ってたし。
だが、身体の外側に「何か」があった松戸さんと違って、森下さんの方……ああ、この気力による拘束束縛のことをとりあえず「呪い」と呼ぼう……森下さんの呪いは複雑な仕様だった上に、命令も複雑だったらしい。
牧野文雄から受けていた命令が生きたまま、主人が俺に切り替わってしまったせいで厄介なことになっているのでは? というのが松戸さんの意見だ。
こうなる以前は……松戸さんの方が森下さんに頼ってきたのだという。まあ、そりゃそうか。喋ることが上手くできず、思考も停滞している以上、普通に生活するのも厳しい。
彼女たち二人は死ぬことも出来ず、助け合って生き抜くしかなかったのだ。
という話をされてしまうと……他人の事など比較的どうでもいい俺でも、さすがに何とかしてあげたいと思ってしまう。
泣くのはズルイよね。
「そもそもな。この気力という力はとある一族の相伝の技でな。その一族……宗家分家を合わせて10程度の氏族によって独占されておった」
「……それが「総領十二家」ですね?」
「お。弟子は知っておったか」
「いえ、その名前が判明したのもつい最近、昨日です。まさか、そこまで極秘事項だとは思っていませんでした」
三沢さんですら、か。
「そうじゃな。「総領十二家」はそれこそ古の昔より、「何か」と戦い続けてきた一族だったようじゃ。儂が気力に関してほぼ情報を持っていないことからも判る様に、その事実が知られてきたのはつい最近……それこそ、20年ほど前じゃ」
行貞さんの顔が曇る。
「今から20年前。遠阪で大規模な自然災害が発生したのを知っておるかな?」
なんとなく聞いたことがあるかもしれない。確か……超極所地震で、山間の町が一つ壊滅した……んじゃなかったっけ?
「秋田県の遠阪町は人口三千人程度の過疎の村だった。土地の大半を山林が占め、人が住む土地は非常に狭い。その町が一晩にして壊滅し……住人全てが行方不明とされている」
「「遠阪局所地震」でしたっけ。それが……前に三沢さんが言っていた、組織の崩壊の理由……ですか?」
「ええ、そうですね。その組織の名称が「総領十二家」となります。彼らは元々一族で構成されています。その崩壊の理由などは一切掴めてないのですが」
「ああ、そうじゃな……儂も……できる限り調べたのだがな。判ったのは……彼の地で、激しい戦闘が行われ……結果として全て消し飛んだという噂くらいじゃな」
「消し飛んだ……」
「小さいとはいえ、町全てが……ですか?」
行貞さんが重々しく頷く。
「結果「総領十二家」の人や家、物。全てが消し飛んだ」
「そして、気力や能力、化者の情報は……その時から?」
行貞さんが再度頷いた。
「彼らは日本全国で活動していた様じゃ。遠阪が滅んだ際に、巻き込まれなかった、戦えなかった者がそれなりに居たようだな」
「彼ら能力者が「仮のもの」「化の者」「
三沢さんと、俺も頷く。それは三沢さんに聞いた。
「彼らはこの日本を守る為に命を捨てて戦ってきたにも関わらず、「かのもの」と呼ばれ、人間扱いされず、行使され続けた。何千年も……日本の歴史全ての間で、じゃ」
「師匠……彼らは……その、支配されていたということですか?」
「ああ。メイドさんは気力によって、操られていたのだろう? それと同じ形で……彼らは酷使されられ続けて来たと思っていいじゃろ。儂も少々疑っていたが……この事実を知ってしまうと本当の事だろうな」
そこまで……というか、呼び名自体が差別だものな……多分、彼らの存在自体、人間として認められていなかったことも予想が付く。
というか……これじゃ……日本に歴史の裏に、隠された、本当の奴隷制度があったことに驚いていた。
「つまりは「総領十二家」が滅んだ結果、その支配を離れた能力者が多数いて、そいつらが情報を漏らしたってことですか」
「正直な。正確な情報はほとんど無い。知ったことをつなぎ合わせた推測でしかない。が、最近、日本自体に怒りを向けるような事件、事故、事案が幾つか起こりつつある……気がする」
牧野興産の件もその内の一つなんだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます