098:リハビリ

 凄く寝た。寝る前に仕掛けておいた時計によれば、50時間ちょい寝ていたことになる。


 その間、何故かトイレにも起きなかった。さらに御飯も食べていないのに、あまりお腹も空いていない。

 よく寝たので、スッキリした感じで起きれた……という所だろうか。


 ただ。天の声さんが言っていたように、全身に気だるさがある。さらに、痺れの様な感覚。とにかく身体が動かしにくい。

 

 こういう時はゆっくりとストレッチからだろう。力加減を変化して……くうー。つ、ツラい。じ、自分の身体じゃないみたいだ。


 これって、普通にストレッチしてたら時間かかりすぎるのでは? 普通ならこういう時、整体とかマッサージに行くんだけどな。


 あ。そうだ!


 おもむろに、テーブルに着いて、目の前の大広間ダンジョンを見る。迷宮的にはつまらない構造だよな。


「シロ、新しい階層を用意して」


「ハイ、なのよぅ」


 目の前の大広間が消えて、更地=テーブルだけになる。


 ブロックを確認して、足りないパーツを購入する。


 取り合えず、四角い森を構築する。で、青と白、青い透明ブロックで川を創る。まずは様子見だから、適当でも良いか。


 当然だけどモンスターは配置しない。森エリアみたいなもんだ。


「シロ、今創ったエリアに転送」


「あい、なのよぅ」


 予想通り。目の前に広がるのは森のただ中を流れる川。流れは緩やかだ。


 装備を脱ぎ捨て、川に入る。


「冷たっ」


 そういえば、水温の調整って出来なかったな。でも、雪山とか火山のエリアは創れそうだ。いや、温泉のパーツがあれば……あるかも?


 戻って、リストを確認していく。表示タグのカテゴライズの中に、キット名の表示があった。慌ててオンにする。おお〜いろいろなキットがあるんだな。いいな、これ便利だ。


「あった!」


 幸い、DPは余っている。


 湯けむり温泉キットを四つほど購入し、テーブルに広げる。

 なかなか風情のある構成になっているみたいたけど、取り合えず、今は必要ない。


 さっきの川の周りに、熱帯の植物を配置。川のすぐ脇にそれなりに深く、長方形の温泉プールを用意する。

 

 というか、階層の気候って、配置しているオブジェの比率で決まるのかな? 


 って、確認してみればいいか。


「シロ、転送」


「はい、なのよぅ」


 お。跳んですぐに確実出来る、この体感温度。立っているだけでじっとりとにじんでくる汗。


「気温だと……三十度以上あるな」


 これなら……川に手を入れて確認する。うん。冷たいけど丁度良い。

 隣の温泉プールの温度も適度でいい感じだ。給湯口付近はそこそこ熱め。端はぬるめ。


 ここで、手足を思い切り伸ばして、水中ストレッチを開始する。


 はあ〜。


 痺れや、至らない感覚は依然あるモノの、普通に運動するよりも楽ちんだ。


 この階層は永久保存だな。リハビリが終了しても寝起きのスイミングは気持ち良いし。


 取り合えず、身体を伸ばし、適度に泳ぎ、食事して眠る生活をしばらく続けた。

 徐々に身体を操る感覚に慣れてきたのが判る。まあ、そういう事を考えないで動けるようにならないとなんだけどね。


 川のほとりにスペースを創って、素振りを開始する。使用武器種は悩んだが「切り裂きの剣」=片手剣だ。スキル【剣術】を習得しているせいか、非常に扱いやすいのだ。リハビリ中はこれでいいだろう。「六角棒」を使い込めば【棒術】でも覚えるかな。


 ソレはもう無心で。ひたすらに剣を振り、川で浮かび、泳ぎ、温泉に入り、飯を食って寝る。


 数日して、身体が動くようになってきたので、「六角棒」を振り、更に「紫雷のケスタス」を装備して、ボクシングの様な、空手の様な型を繰り返す。


 さすがに独学は厳しいので、動画サイトから様々なお手本をダウンロードしてきてある。最近は嘘か本当か判らないが、一子相伝の秘伝ですら動画化されてたりする。


 それを見ながら、身体を動かしていく。約一カ月でリハビリは完了し、身体が動くようになった。が。お構いなしで素振りを繰り返す。


 毎日、何百、何千、何万、何百万……後でタイマーを見ると軽く半年が経過していた。


「レベルアップなのよぅ」


 は? 

 

 そんな、敵を倒さないリハビリ素振りの中、事務所に戻るといきなりレベルアップと言われ。


「シロ、敵を倒してないぞ?」


「ダンジョンから戻ったときに〜経験値を満たしているとぉ〜レベルアップなのよぅ」


【棒術】【拳闘】を習得しました。


 ぬお。追加でスキルも覚えた。っていうか、まだリハビリ期間なのに……ってあれ? 十分リハビリできてるよね……熱中しすぎだ。


名前 村野久伸むらの ひさのぶ


天職 魔術士

階位 33

体力 15 魔力 72 


天職スキル:【平静】【魔術壱・弐】【魔増】【復唱】


=隠蔽=========

天職 迷宮創造主ダンジョンマスター

階位 25

体力 25 魔力 100 


天職スキル:【迷宮】【結界】【鑑定】【倉庫】【収納】


習得スキル:

【気配】【剣術】【盾術】【受流】【反撃】【隠形】【加速】【棒術】【拳闘】

=隠蔽=========


 魔術士がレベルアップしたのか。


 魔術にも関わらず。か。習得したスキルの方向性とか、種別とか、関係ないのな。

 ただただ、経験値がチビッとずつ溜まり続けていた様で、ごく普通に上がった。


 というか、レベルアップというきっかけが無いと、スキルは習得しないんだな。習得とはいっても表示だけな気もするけど。


 習得前でもスキルの片鱗は現れていたことから、多分、習得したと表示される前からスキルは発動するし、使えるのだ。

 まあ、なので後付けで「貴方は【拳闘】を使える様になりましたよ」という報告だと思った方がいいかもな。


 この辺、天職スキルと大きく違うところだよなぁ。


 あれ? 【魔術】は呪文が覚えられるのに、【剣術】や【棒術】【拳闘】は無いんだな。技とか覚えてもおかしくないのに。なんでだろうか。そういうのは無いのかな……。まあ良いか。


 というか、レベルアップするなら副職を、別の天職に変更するべきだったな……。忘れてた。


 確か、レベル30にしたら魔術士が転職、変更可能になるんだったよな?


「シロ、転職すると、またレベル30にしないと変更できなくなるんだよな?」


「そうなのよぅ」


「一度レベル30以上にした転職の変更は? いつでも変えられるの?」


「そうなのよぅ。操作室でいつでも変更可能なのよぅ」


 まあ、そりゃそっか。転職できるのは、この事務所限定か。


 というか、そういえば……俺……魔術士を転職して、どの天職に就こうとしてたんだっけ? って、天職を転職ってまぎらわしいな。

 えーとえーと。ああ、そうか。気力だ。気力の操作の上達を願って、前衛系の天職に就いた方が良いみたいな。ああ、だから拳闘士辺りがいいのかな? なんて思ってたんじゃん。


 

「ヤバイ、記憶が曖昧になるのはともかくとして、シロとしかしゃべらないから、無口になりすぎる」


 元々喋りが達者な方ではない。なので話し方を忘れてしまう、その一言が出てこない。独り暮らしあるあるだ。

 そう考えると、お金を稼ぐだけでなく、会社って大切だったんだな。俺にとって。


「でもなぁ。向こうに行くと、面倒ごと盛りだくさんなんだよなぁ。牧野興産の件は上手く誤魔化せたとしても、裸女二人と、グリーンスムージーの件。さらに、「核花」だったか。厄介な麻薬だよな。三沢さんとの距離感も難しいよな。はぁ。めんど。って、何が一番ヤバいって、こうして独り言を言ってる現実か」




 



 

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