084:提案
「さて。全体の情報です」
三沢さんの目がさらに真剣になる。
「現在……警察が入って大々的に捜査が行われていますが……多分、何も判らない、何も掴めないまま、事件にもならずに終了すると思われます」
三沢さんの目がかなり怖い。
「一番の理由は……何一つ、事件を示す証拠が無いからです。というよりも……今回の件で行方不明として確定しているのは牧野興産の牧野文雄社長のみ……です。一部幹部も連絡が取れなくなっているようですが、元々、会社組織とは別の、牧野の別会社に所属している者が多く、そちらの会社に関しては各種情報が錯綜している様で」
「……牧野文雄が行方不明である……という以外に、人的な被害があるのかどうかも判らない状況ということです」
まあ、そうだよね。うん。カメラに写る姿もブレて、良く判らない感じになってるしね。廃工場やビルに乗り込んだ際には、その手の電源は落としてある。
「牧野興産のビル……十八階から上が消失したビルのインフラ設備は、ほぼほぼ壊滅状態だそうです。監視カメラが多数仕掛けられていたのも、全て動作停止していたらしく。昨晩の夜の情報は全く残されていないということです」
「つまり?」
「ええ。現時点で警察は何一つ……今回の真実に繋がる情報を掴んでいないということです」
うん。まあ、そうだよね。大丈夫だとは思っていたけど、こうして答え合わせしてくれるのはありがたいな。
「実は。我々も。警察よりも遥かに、初動が早かった我々も。警察とそう変わらない情報しか入手出来ていません」
ですよね。
「しかし。イロイロと想像することは出来ます。状況証拠から結びつけることも出来ます。その結果……」
うん。
「提案させてください。今後どの様な展開になるか判らない状況ではありますが……村野様とは共同戦線を張らせていただければ幸いかと。個人と会社ではありますが、同盟と思っていただいても問題ありません」
「……」
おうふ……これは黙っちゃうな。というか、そういう流れで来るか~。これはもう、予想外。さすがだな。しかも「様」付けだ。こちらを上座に座らせたな……。この手の初手からの土下座外交は日本人じゃないとできない技だ。さらに日本人にしか通用しない。そうやって出てこられると、正直、こちらとしては取れる選択肢は一つになってしまう。
「こんなあやふやな状態でそんな立場表明。良いのですか?」
「……よくはありません。正直、長い傭兵生活、そしてPMCを自ら率いる様になって初めてです。上に立つ人間として……ありえませんからね。こんなあやふやな内容で契約を提案するのは。ですが……自分たちの想像以上の何かが動いている以上……自らの意志で動けるうちに「選択」しておきたい、選択肢が残されているうちに。という判断です」
「それにしても、私、個人にっていうのは……」
「そうでしょうか? まあ、確かに以前であれば、多少不安な部分はあったと思うのですが……今、現時点での村野様であれば……」
……ん? それは……ああ、そうか。ここへ来て実際に三沢さんと会った時は、副職を手に入れる前の俺か。レベルも4ぐらいだったかな。
……そりゃ……今とじゃ、根本的な強さが違うね。というか、その強さを感じて……るのか。凄いな……【鑑定】とか持ってるんじゃ無いかな。いや、【気配】かな。
「ここから話すことは私の推測が大きく含まれているんですが」
「村野様は何らかの大きな力をお持ちだ……とします。そして……牧野興産とのトラブルに巻き込まれて、それに対して報復し、さらに、釘を刺すだけでなく、壊滅させた。その個人にしては強大な力は……「もしもあれば」ですが。今後……必ずトラブルに巻き込まれます。そしてその際に我々が少しでも敵対した場合。その大きな力はこちらに向けられる。そんな愚を犯したくないのです」
三沢さん……賢いなぁ。どうせ組むなら早ければ早いほうが良いし、選択肢も多い。イロイロとすげースキルとか持ってるんだろうなぁ。きっと。
「トラブルに巻き込まれた、その際に我々を「使っていただければ」と思うのですが。我々は会社です。集団です。村野様は個。どれほど力があったとしても、個人で活動されている以上、必ず手が足りなくなります」
「そもそも。三沢さんの利益は?」
「現時点では……ございません。ですが。牧野興産のトラブルによって、今後、うちの業界では様々な風が吹き荒れることになります。あそこは……武闘派の中でもかなりやり手でしたから。特に牧野文雄が消えたのは大きい。弊社はあの会社の後釜に食い込もう……とは考えておりませんが……別の仕事をいただけることにはなりそ……」
そういうと、別の机の上に置いてあったメモに気づき、それを見た。
「ああ、そういえば、うちのハッカーたちが、今回の情報を元に、株式市場で荒稼ぎした様です。利益出てますね。しかもとんでもない額で」
笑顔を見せる。
「それは良かった。それにしても……私で良いのでしょうか?」
「これも推測……いえ、勘なのですが……村野様の考える正義と、私、いや、我々の会社の掲げる正義がある程度似ているのではないか? と。この仕事をする上で「誰の側に着くか」は非常に重要な要素です。会社組織を構成していますが、我々一兵卒は……理解ある上官からの納得のいく命令で死にたいのです。正義ってヤツは厄介です。それを声高に主張するヤツほど、極悪人で唾棄すべき敵が多い」
自分が正義だと思い込んでいるヤツが一番やっかいだからね。
「村野様からの命令であれば……納得がいくと思ったのですよ」
「それは買いかぶりすぎだと思うのですが」
「ええ。なので、ここまでの話は全て推測。そして、仮定の上に成り立っているのです。ですが、我々は村野様と共に進めれば……と」
「判りました。そこまで仰っていただけるのであれば。私は三沢さん方にちゃんと報いなければ……ですね」
「ええ、ですが、株式で……」
「それは結果。利用しただけですから、もう少し直接的な報酬は必要でしょう」
目の前にある「核花」の小袋……の脇に、似たようなちょっと大きめのビニール袋を置く。
「これは……」
「三沢さんであれば、南米やアフリカの宝石ブローカーにも明るいのではと思いまして」
三沢さんが開けても? と目で聞いてきたので頷く。小袋からこぼれ落ちたのは、そこそこ大きめの宝石……ダイヤモンドの原石だ。
これはDPと交換で手に入れた物だ。レベルが上がったことで、交換できるようになった。宝箱に入れる宝石の一部だ。
現実世界だと非常に高価で重宝されるダイヤモンドだが、ダンジョン側では、それほどの価値を認められていない。
どちらかといえば、色のある宝石の方が評価が高いそうだ。属性を合わせればより多くの魔力を蓄えることが出来るのが理由だという。
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