076:ただ一人

 これまでと同じ様に、ドアを吹き飛ばす。お。作りが違う。ここまではホテルの……通常の部屋だったのが、ここだけスウィートルーム的な作りになってるのかな? 


 玄関みたいなスペースがあり、中扉があり……こっちはトイレかな。


 豪華だな……。さすが、一番奥の部屋。ボスか。ボスがいるのか。


 えーと……誰だっけ。牧野興産の社長=組長は……牧野文雄か。


 ふみおくーん、あそぼー! ってな!


ガッ!


 こちらもドアを蹴飛ばして開ける。


 あ。


 力が入りすぎてドアが……向こうまで飛んでいって壁に食い込んでしまった。


 ん? 違和感。


 床……に……何かある。ほんのちょっと……多分二~三ミリだと思うけど、膨らんでる。まあ、そこまで見つければこれがスイッチなんだろうね。踏むと爆発したりするのかな。そんな気がするな。


 よし。対象の床を……「ブロック」で囲う。あれ? 違うな。


「正式」を纏わせてみよう。ほうほう。これはスイッチで……ここからは見えない死角に置いてある壺の中に爆薬か。ああ、だから上の階に非難したんだな。この部屋……いや、この階の天井の厚さは……ああ、この部屋の壁、天井全てが他よりも分厚いのか。


 あっぶな。これ、他の部屋と同じ様に軽めに蹴って、ドアが床に転がってたら……即爆発してたのか。


 造りは強固で、様々な状況から防げるってことなんだろうな。で。内部に侵入した者に対しての対応として、爆発物を使用しても、上の階とか左右の部屋には影響がないと。ほうほう。


 というか、改めて床全体に「正式」を纏わせると、詳細が飛び込んでくる。この部屋の床、至る所に地雷的なスイッチが配置されている。


 目の前の「目で見て」判るレベルのモノはある意味囮だ。


 一歩足を踏み入れたら、爆発が発生するのは必至。逃げ出すことは出来ない。そして、壺の中の爆薬は合計八つ。アレだ、これ、俺がさっきの廃工場でやったのと同じやり方だ。


 うん、確かに効果的だよね。密閉した空間での爆発物、強力な燃焼物は、敵を「跡形も無く」消し去るのに有効だ。


 多分、ここで爆発が発生したら、各調度品と共に人間は木っ端微塵で、焼け焦げた分厚いコンクリートの部屋が残される。

 中途半端にやるよりも、こっちの方が修繕して証拠隠滅するのが楽ちんなんだろな。きっと。


 想像でしか無いけど、過去にこのVIPルームに招待された人は、ここに足を踏み入れた瞬間に命を失う運命にあると。ある意味処刑室みたいな。


 でと。


 そんなわけで、まんまとやられてしまうわけにはいかないので。スイッチじゃなくて、爆薬が収められている壺をブロックで完全に密閉した。


 そして、一歩目を踏み出す。


カチッ


 幽かなスイッチ感。うん。何も起きない。というか、既に壺は「ブロック」の中で爆発している。今回の囲いは、音も振動も漏れない様にしてある。


 ベッドには誰もいない。このフロアに来た時に感じたのは、これまでような男と、ちょい弱い女性の気配。多分、他の部屋と同じ様に何か薬を使われているんだろうと思うけど。


 女性も上か。


 大体……朧げだけど、気配が伝わってくる。うーん。このビルを最初にサーチした時よりも、抵抗が強い気がするんだよなぁ。なんだろう。これ。


そういえば、流しちゃってたけど、さっき超能力者いたな。本物の超能力者。


 銀縁は人を拘束する力を使えるみたいだったけど……ああいうのが他にもいるんだろうか? いるんだろうな。超能力者なんていう陳腐な呼び名とはいえ、カテゴライズされているということは、様々な超能力者がいるのかもしれない。


 ……念動力サイコキネシス念動力とか

以心伝心テレパシー思念感応サイコメトリー……とかだっけ?


 ああ、思念感応サイコメトリーって俺の気配読みの様なこともできるんじゃないか? ということはその対策とかそういうのが施されてたり?


 この辺の裏事情……三沢さんに聞けばわかるかな……。

 

 まあ、今は部屋は壁や天井が分厚くて、上の階まで「正式」纏いによる「詳細な気配読み?」が届かない。ってことにしておこう。


 そもそも、アレだ。纏いは障害があるとかなり抵抗を受ける。関係なく形を構築する本来の「正式」を発動すればどうにかなるのかもしれないが、あれ、時間かかるし、面倒くさいからいいか……。


 多分、この奥にある階段を登れば、入って来る情報だし。


 オフィスの階段とは全く違う……絨毯ふかふかな豪華な階段を登る。そして、さらに豪華なドア。悪趣味なくらい彫刻が施されている。


 おお。やっぱりというか、そりゃそうかっていうか。階層を変えたらちゃんと気配を感じられるようになった。

 逆に……下の階の事が若干判らなくなる。うーん。これ、やっぱり特殊な仕掛けが施されてるよなぁ。


 このビル……の高層階で。ちゃんとした気配があるのは現在たった一人。


 三沢さんの解説から考えるに、この扉の奥、自社ビルの最奥に逃げ込めるような存在は牧野文雄ただ一人。この規模の会社なのに、ほぼワンマンで、親類縁者からは縁を切られているそうだ。


 ただ。


 何となく、ヤツはただ者ではないんだろうなぁ。という気がする。



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