054:ストッパー無し
気がついたら……ベッドの上だった。
(あれ?)
「今回は特別ということで、こちらから干渉させていただきました。貴方から頂いた、このシステムに対する感謝の気持ちが糧になっていますので、代償は必要ありません」
「え?」
あ。そうか。ここは1Kの部屋か。ベッドだ。目の前にシロが浮いている。
口調はシロじゃないけど。
「さらに、こちらの説明不足でもありました。気力は生命力に直結しています。何の解説も無く使用可能になっていたチュートリアルシステムにも不備がありました」
「生命力に直結……」
「はい。簡単に言えば、貴方は気力を使い果たして生命活動を終了させる所でした」
マジデ? え? 俺、命の危機だったってこと?
「はい、貴方の世界で言う所の死亡状態となる所でした」
……。
「気力を使用した闘気攻撃は最後の一撃や、命がけの一撃などで使用することのある、いわゆる、必殺技です。今回の様に迷宮一階層クリアの最初から最後まで使用するような技ではありません。今後はお気を付け下さい」
「……何か、目安になる様なシステムや感覚は用意されてないのでしょうか? 正直、気力が減っている……という感覚が一切ありませんでした」
「……判りました。今回は【闘気】というスキルのシステムを変更します。これを使用すると30秒間【闘気】を使用可能です。ああ……貴方は気力の最大値が多いようです。なので……連続使用で二十二回使えますが、それを使い切ったら使用一回につき、約八時間程度の睡眠を必要となります」
「【闘気】一回……30秒使用の代償が、約八時間の睡眠?」
「はい」
「一気に二十回使ってしまったら、八時間×二十、つまり、二十日くらい回復しない?」
「そうなります。元々気力は我が身を犠牲にして使用することを前提にした、人間の切り札です。それを警告せずに使用可能になっていた当システムが不備だったわけです」
「はあ」
まあでも、そりゃそうか……俺を殺したいわけじゃ無いからな。ダンジョン側は。
「ええ。貴方は今回の我がシステムに対して非常に熱心に取り組んでいただいています。さらに感謝の念を抱いて挑戦を続けて下さっている。これを我々は非常に好ましく考えています」
良かった。ありがたいと思っているのは確かだから。あ。でも、今回俺が強くなりたいのは現実世界で戦う可能性が高いから……打算的な考えからなんだけど。
「問題ありません。動機などどのようなものでも良いのです。大切なコトはダンジョンを生み出し、それに挑むこと。それのみです。結果を貴方がどう利用しようともそれは貴方の力です」
さいですか。まあ、何はともあれ、ありがとうございます。助かりました。ルールを曲げても、命の危機を助けていただいて。
「いいえ。今回の【闘気】は長い経験を経た結果手に入るモノです。達人の上、さらに上。そんなスキルだとお考え下さい。では、平常業務に戻ります」
ぬぬ。ちょっと見開いていたシロの目の色が……なんとなく変わった。いつもの適当な感じの目に戻った……と思う。
「シロ、次のレベルまでどれくらい?」
「判らないのよぅ」
うん、いつも通りだ。
さて。それなりに詳細な説明をいただいたので【闘気】というか、気力の使用には気をつけて行こう。
ちゅーか封印だな、封印。何かあったときに使う一択。
常時使うっていうのは危険すぎだったわけで。今回なんていきなり死ぬところだったんだから。
まあなぁ……あの力、おかしかったもんなぁ。いくら何でも、あんな風に魔物を抉れちゃったら、【剣術】とか、攻撃系のスキルはいらないって事になりかねない。
とはいえ、文字通りの必殺技を手に入れたってことだ。威力を考えれば、超必殺技と言ってもいい。
うちのダンジョンは俺が作ってるから、早々使い所は無いかもだけど……っていうか、うちのダンジョン? ということは他のダンジョンもある? なんだ、これ。
まあいいや。
とりあえず、【闘気】は全く使用せずに、「オーク」との戦いを再開した。超必殺技は封印してしまったが、単純にレベルが上がったことで、それなりに能力は上がっている。
レベルアップ前よりもスムーズに、オーク転がし師として大活躍できている。【反撃】が効いている。俺自身がスピードアップした事で、使い所が各段に増えているのだ。
【闘気】によってインフレ化した意識を押し込めて、それまでの地味な戦闘を繰り返していく。
天の声さんも言っていたが、【剣術】からの気力、【闘気】の解放は本当はもっと高レベルで覚える、使える要素だ。
それこそ、熟達した戦士とかだったら、自分の実力をキチンと把握して、さらに、気力の使い方も感覚で判るというか。
俺には圧倒的に戦闘の経験が足りない。
無駄を省き、とことん突き詰めて行く。既に、「ブロック」は「コーティング」が無くてもどうにかなるようになっている。
オークの動き出しの始点、まだ力の入っていないポイントに、出現させることが出来る様になって来ているからだ。
幾らオークでも、勢いが付いていない状態でも「ブロック」を砕けるわけじゃない。脚を引っかけるのに必要なのは足を出すタイミングと場所であって、足の力ではないのだ(力の差があれば強引に使えることもあるけど)。
なんとなくだけど、必殺技なんてなくても俺はやれると言えるようになりたくて、集中して敵を片付けていく。
ザコのスケルトンの群れには、スケルトンナイトを二体追加。さらに、中ボスのソードアントは三体にした。
さらに思いきって、ボスのオークも二体配置してみた。
最初はかなり威圧感もあり、恐怖を感じたが、俯瞰からの始点や、完全に掴んだ「ブロック」の使い所などを駆使して、二体を確実に転がしていく。
「正式」を自分の身体に纏わしているのも大きい。軽く一撃が擦ることがあっても、以前の様に大ダメージになっていない。
正直、【闘気】を使わない自分は、オークを連続で転がして、大きな隙を作り、そこで首元に強攻撃が決められた場合しか決定打が無い。まずは大きな隙。オークが二体になる=そのチャンスが二倍になる……ということだ。
転がすための注意点は非常に増えたのでなかなか難しいのだけど。
階層ボーナス:迷路化レベル1
階層ボーナス:部屋⇔通路レベル3
階層ボーナス:迷宮構造構築
階層ボーナス:階層ボス配置
階層ボーナス:コンセプトレベル7
階層ボーナス:芸術レベル1
レベル10になるまでは節目だからなのか、妙に長かった気もするが……実際に転がして~首斬ろうとして~無理かも~と思って、再度転がして~の繰り返しだったので、純粋に戦闘時間が長くなってしまったせいもあるかもしれない。
だが。その日が遂にやってきた。
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