053:レベル9

【反撃】は文字通り、敵の攻撃を避けたり受けたりした直後に、硬直を気にせず一撃を振るえるスキルだった。細かい立ち位置、振り被りの度合い、刃の向き……反撃の際に考えなければけない細かい計算を無意識や勘ですっ飛ばせる感じだろうか。


 つまり、オークが隙を見せても今までは踏み込めなかった短時間の怯みに、すかさず突っ込んで行ける。


 いくら転がせてもその対応の速さに、攻撃まで至らないことは多々あった。これで、大幅な時間短縮に繋がりそうだ。 


 黙々と転がして、黙々と【反撃】を仕掛けて仕留める。それなりにペースも上がり、オーク戦でどうにか、もっと時間短縮ができないかと考え始めた頃。


----レベルアップ----


 レベル9になった。シロが話しかけてこないということは、システムの新規開放はない。


 さらに、頭に声が響かない。新規で入手したスキルもない……様だ。とはいえ、何かスキルに変化は無いか確認するため、自分の持っているスキルを一つ一つ思い浮かべてみる。


【剣術】スキルが解放。気力を【闘気】として纏わせることが可能になります。


 という情報が頭の中に表示された。当たりか。いきなりでビックリした……。


 気力? 闘気として纏わせるってどういうことだろうか? 普通こういうのって魔力じゃないの?

 

 とりあえず……気力ってくらいだから、俺の中に……なんかあるんだよな?


 自分の中の良く判らない力を探す。


 実は……心当たりがある。


 結構前から検討も付かない力が蠢いている様な、貯まってる様な感じで圧迫してきていたのだ。


 あった。これだろうか? 腹の部分、鳩尾? 丹田? 行き場が無く、グルグルしている力を確認する。

 いや……でも、なんとなくこれは気力とは違う気がする。


 もうひとつ……。丹田よりも上。胸の下辺りだろうか? こちらは呼吸と共に脈動し始める。息使いが非常に重要な様だ。


 攻撃を仕掛けるときは大抵、息を吐いて、止めて行う。様々な武術の流派があるが、大抵がそうだと……昔知り合いに教えてもらつた。なんとなく力が入ると思う。

 なので、それが理由なのかわからないけど、俺もいつの間にか集中して攻撃を仕掛けるときは、息を止めて行っていた。


 戦闘中の呼吸法なんてそんな意識したこと無かったわ……。


 で。これをまずは呼吸を浅くして、その息が攻撃を仕掛ける部位……剣で仕掛けるのならまずはそれを握る手の平に呼吸を吹きかけるようにイメージする。


 お。これは……。


 何やら……膜の様な塊のような物が両手を覆っている。この状態で剣を抜くと、両手にあったパワーが、そちらに移って行く。


 とりあえず、その状態で……スケルトンの群れに斬り込む。既に、彼らは巻き藁の様な感覚で切り刻めていた。


あ?


 やばっ。攻撃展開している最中に、動きが止まっちゃう所だった。


 元々、「切り裂きの剣」は非常に斬れ味が良い。さらに最近は【剣術】の影響なのか、鋭くなっていた。


 そんなレベルじゃない……。


 圧倒的な切れ味だった。関節を狙うしか無かった。それこそ……ソードスケルトンなんて……豆腐が如く切れてしまう。


 一番最初にゴブリンを斬った時のあの感触なんて目じゃない。


 なんだこれ。


 刃に触れたモノが道を空けるが如く、崩れ落ちてゆく。


「す、すげぇ……」


「切り裂きの剣」を見つめて、思わず呟いてしまう。


 そのままの調子でソードアントと戦う。こっちも……あの固くて文字通り刃が立たなかった甲殻が、あっさりと斬り落とせてしまう。

 

 ……これ、ぶっちゃけ、訓練にならないんじゃ無いか? ってレベルでヤバイ。


 あ。そうか。レベル差があると効果が落ちる……感じなのかな? そうか。なら、オークにはそこまで通用しないってことか。


ス……


 通用した! なんだこれ、なんだこれ。オークが! さっきまで転ばせてからの、集中一刀両断でなんとか首を落とすしか倒し様の無かった、あのオークだよ? 


 そりゃ、何千回も戦っていれば、オークの攻撃パターンから、ちょっとした隙ができる瞬間に気づき、攻撃を選択することができる。

 でも、多少傷付けたくらいじゃオークの回復能力が上回り、意味が無い。だから、中途半端な攻撃を捨てて、転がし師をやっていたのだ。


 それが……剣道の篭手撃ちの様に入った攻撃はオークの右手を……あっさりと斬り落とした。

 しかも幅広く剣筋が太い。五センチくらいはあるだろうか? 本当に剣か? 剣の切り口か? 


 腹に一撃。振りかぶった所に抜き胴。それなりに深く入ったが、これまでなら、少しすれば回復して修復されてしまう感じだった。が。

 これも五センチくらいの幅で抉れている。なんだこれ。バットで殴ったらその幅で肉がぶっ飛んだというか……おかしいって。やっぱり。


 そしてさらに……よく見なくても分かる。これで抉った傷は……オークの異常な回復能力が機能していない。抉った後の傷の表面がカサブタのように固まっている。血が噴き出していない。


 おう……触る者みな傷付ける……っていうのはこういう事を言うのだろう。


 腹の傷でバランスが崩れたため、隙が生まれる。そこにこれまでなら踏み留めていた一撃を入れていく。それが凄まじい傷を与えていた。さらに反撃も入る。


 オークが……体感数十秒で寸断されたオークが細かく砕けて消えて行った。

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