050:オーク戦

 巨体から繰り出される一撃は、一撃必殺そのものを表している様な気がした。

 

(あの棍棒、木だと思うんだけど、よく割れないな)


 と、感心してしまう。と、いうくらいには心も身体もほぐれている。舞台はいつもの石畳の大広間。オークの巨体に合わせて拡張した。


 あ、威圧されたときもの妙に不安になったのだが、ソレを構成するのが様々な違和感だ。アイルが強かっただけじゃない。よく考えると理由の一つが、この広間の天井高だと思う。

 この、石畳の階層はこれまで、天井までの高さが三メートル弱だった。所謂普通のビル建物の天井高と同じ位だ。

 が、当然、そのままだとオークは暴れる事が出来ない。ヤツが棍棒を振りかざし、叩きつけるには、天井まで五メートル位必要なのだ。


(どれ位の高さなのか、サッパリ分かんないな)


  天井は黒く、塗りつぶされていた。目で見ても、【気配】でも何も感じない。つまり、天井までどれくらいあるか分からない。

 でも、なぜか明るさはコレまでと変わらない。壁が発光しているんだと思う……けど、詳細は不明だ。これは俺が設定したわけじゃない。そもそも、天井用のブロックは「ない」しね。多分、オークの大きさに合わせて、自動設定されたんだろうか。うん、きっとそう。


 で。狭い通路を抜けたら、いきなり大ホールの天井。


 これは普通に慣れるまで時間がかかるだろ。つまり、俺はオークと戦う前に、地形効果でマイナスを喰らっていたという事になる。


(今後はそういうのも考えないとなのかな?)


 罠とか設置したらヤバそうだなー苦戦しそうだなーでも、ボーナスもらえそうだなー。


 オークの足元に二重にした「ブロック」。さすがに足が止まった。


 最初、いつもの様に繰り出した「ブロック」は何の障害にもならず、打ち砕かれた。まあ、出現させた場所が威圧効果でズレて、脚を踏み出した終わり辺りになってしまったのがいけなかったんだけどね。

 それまで砕ける片鱗も見せなかった信頼の「ブロック」だけに、ショックもでかく。平常心を取り戻すのに余計に時間が掛かってしまった。


 まあ、今後、レベルアップしたり、使い続けていったりすることで、硬くなる……と、信じて、今は二重で対応することにしたのだ。


 まあ、場所が適切なら。動き出しの挙動直後とか、足が踏み出す前に置くのなら今まで通りで砕けたりしない。だが、心の平穏、安心の為に二重。仕方ない。


 あ、当然だが「ブロック」の二重起動は当然、出現までに二倍の時間がかかる。何となく疲労もしている気がする。

 

ヅガッ! ブオッ!


 振り下ろしの一撃が石畳を叩き、その反動のママ、横薙ぎに棍棒を振るう。その挙動中、一切の停止点はない。デカいのに速い。体系は太ったプロレスラー系だ。なのに、スピードはコレまでのどの魔物よりも速い。ソードアントより速いなんて普通なら有り得ないでしょ。


 何となく、格が上がったという言葉が思い浮かぶ。節目だったりするのかな。レベルが十単位で。


 くっ。また、二連撃。棍棒の巻き起こす風圧の幅も広いため、避ける事は出来ても、攻撃に至らない。


ビシッ!


 く。動きを止めようと発動した「ブロック」が砕かれ、その余波が俺の身体を掠める。腹の辺りに重い衝撃が波のように走った。


 ゴロゴロと転がされる。


カハッ


 口の中が鉄の味でいっぱいだ。ちい、掠っただけでどこかやられたのか。まあでもまだ大丈夫。うん、身体は動く。


 もう少し、もう少し、中だ。さっきまでのように遠巻きに逃げ続ける事は出来る。でもそれじゃ倒せない。

 

【盾術】も【受流】も使えないのが痛い。あんな一撃喰らえば、防御ごと吹っ飛ぶ。


「切り裂きの剣」、片手剣の間合い、お互いの攻撃範囲。くそ。勝ち筋が見当たらない。


 やはり、俺が格上と戦う為には「ブロック」で何とかするしかないのだが……。


 ソードアント戦以来、戦闘が俯瞰で見える様になっているが……近接戦闘を挑まなければならない現在の状況ではあまり意味は無い。まあ、距離を取って攻撃を避けてる分には非常に役に立ってるけどね。


 ん? そういえば。【結界】には。「ブロック」ともう一つ、「正式」があったな。あれは……と、ちらっと思い出した所で、「正式」の新しい使い方が伝わってきた。何処からか。

 なんてタイミングだ。まあ、何処からでもいいや。「正式」の新情報は……敢えて言葉にするなら「コーティング」だ。被膜って感じで様々な物に付与出来るらしい。しかも、コレまでの360度ドーム型に比べて、発動までの時間も短いらしい。なんで? 物の形に合わせるのって大変な気がするんだけど。


 とはいえ、現状の行き詰まりを解消するにはやってみるしかないだろ。


 まずは……「ブロック」。で。「コーティング」。


ガッ!


 お。乱暴に起動し、適当に被せただけだったが、オークは「ブロック」を砕くことが出来ず、片足立ちで体勢を崩した。


 倒れそうになって棍棒を持つ右手を床に着けた、その手の上に、「ブロック」「コーティング」。


 着いた手が動かなくて、再度バランスを崩し、オークは背中から倒れた。


 当然、ここぞとばかりに、踏み込んだ俺は、オークの首目掛けて剣を振り下ろす。


ズハッ!


 浅かった。が、オークの首は半分位斬り込みが入った。

 瞬間。そのまま、もう一歩、踏み込んで残りの部分を斬り落とす。


 キチンとした振り下ろし。「切り裂きの剣」の正しい一撃は、例えオークが格上だろうと通用することを証明してくれた。

 

 幾ら再生能力高いとはいっても、限界がある。首を落とされてまで戦えるスキルは持っていなかった様だ。


 巨体が消失したその場にはコレまでより明らかに大きい魔石と……狼よりも大きな「オークの肉」が鎮座していた。


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