044:森林

「お。おう……」


 声が、出た。俺が作成したとはいえ、転送された場所は森の中だった。違和感。明るい空。穏やかな空気。森林独特の……緑の匂い。なんで、魔物の臭いはそんなにしないのに、こんなに緑の匂いはしてくるんだろうか?


 なんだこれ、どうなってるんだ? と思って、部屋の端に移動する……。ぬぬ。壁があるな……。なんか、森っぽいのに、区切りがある。不思議すぎる。なんだかよくわからん。

 簡単に言えば、これまで石造りの広間……ロゴブロックで作った中サイズの広間は、大体……30畳くらいの広さだろうか? 森になってもその面積は変わらない。森っぽく変わっただけだ。


 それくらいの広さの土地(広間)に、泉があり、木が生えている。その根元には様々な草が。で。本来壁があったとろこまで行くと、それ以上は進めない。見えない壁があるようだ。かなり不思議な感覚というか。


 何よりも、これまでと違い、空があり、光が注いでる事だ。一見すると、天井がないように見える。うーん。この違和感はしばらく拭えないな。どうしてこうなるんだろう?


 まあ、うん、このダンジョンの構造のことはいい。研究するのはいつかってことにしよう。


「あった! これは……リンゴ……か?」


 俺がブロックで作った果樹に近付くと、なっている実をもいだ。匂いは完全にリンゴだ……。装備でこすり……一口囓る。


「うまい……」


 ああ、なんていうか、このダンジョンで戦い初めてから、思わず口から出てしまうくらい感情が溢れ出ることが多い気がする。これまで俺はどんだけ、感情に波が無かったのか……と思う。


 ということを考えてしまうくらい、うまい。なんていうか……ジューシーというか、フルーティーというか、ダメだ。この旨さを表現できる語彙がない。判らない。少なくとも俺がこれまで食べたリンゴとは比べものにならないと思う。食べているうちにリンゴの味に何か他の果物の味が混ざっている気がする。


 赤い実はリンゴ。黄色はマンゴーみたいなヤツ。オレンジ色はミカンというか、グレープフルーツかな。正直、普段食べている果物とはちょっと……いや、かなり構造が違っている気がする。でも、かなり、寄せてくれたのではないかな? という……なんていうか、気遣いを感じるのだ。


 ありがとう。ダンジョンの天の声さん……といった所だろうか?


 よし、これで果物は確保した。偏りはあるかもしれないけれど、ビタミン不足とかで悩む事はないな。


 次は草……なんだが。ここは迷宮なので基本、薬草とか毒消し草とかが生えているんだと思う。ラノベでは大抵そうなってるし。だが、まず、今の俺に必要なのは、ただの食べられる野草、山菜の類だ。だって……白い部屋に戻れば、体力回復、体調改善しちゃうからね……。


 この世界の野草図鑑とかあると良いのになぁ。転生すると、大抵冒険者ギルドにあるヤツ。まあ、シロに聞いたけど、当然そんなのはない。現実世界の野草図鑑(ポケットタイプ)を買ってきて、比較してみたが、植生自体が根本的に違うようだ。だから。勘で採取していくしかないな。


 見た目的にいけそうなのを一株ずつ摘んでゆく。


 ヨモギみたいなのはニガイのも同じ感じだった。葉レタスっぽいのは苦味も抑えられていて、サラダでいけそうだ。株で生えていた植物の中に、独特の匂い、セロリっぽいのを発見した。これもいけそうだ。


 全て、泉で洗うと少量口にしてみた。うん……うまい。クセがあるヤツもあったが、問題無いだろう。もしも毒性があったら、シロに撤収させれば一瞬で治る。ここで確認するのが一番安全だ。


 というか、匂いがする草も沢山あった。スパイス系で使えそうな、香草とかも生えてそうだよなぁ……でもとりあえず、後でいいか。


 詳細が分からないのでキノコは全部スルーした。木々の影にいっぱい生えてたんだけどね。


 ということで大変だと思った食糧問題は、葉野菜、果物が手に入る様になった事で解決してしまった。


 そもそも、炊飯器を持ち込めば、米が食べられる。電気代は……どこから請求されるのだろう? と思っていたら、DPが消費されているらしい。とはいえ、それほど気にするレベルではなく、ごく少量なので納得した。


 米はそれなりに日保ちするので、10キロ単位で購入しても怪しまれたりしない。


 そもそも、独り暮らしなら一カ月の米消費量なんて、3キロ程度だ。つまり、まとめて30キロ買えば、30カ月食べられる。賞味期限、消費期限があるので、リアルならイロイロ面倒だが、よく考えて欲しい。

 米はダンジョン側に持ち込まなければいいのだ。数瞬で中では三カ月が経過し、9キロが消費される。うん。つまり、十日間で見事、90キロが消費される事になる。


 実は、ここで、農家と首都圏生活者の意識の大きな違いが存在する。


 農家にとって、30キロは大した量ではない。300キロも、それほどじゃない。米粒一粒まで大切にするのは当然だが、「みんなそれくらい所持している」と思っている場合が多い。


 なので。


「はい、食べられれば余っている古米で構いません。とにかく安くということなので、送って下さいませんか?」


 という電話を昔仕事した関係者……農家、農協関係筋、いくつかにしただけで、30キロの米配送の袋が、300以上詰み重なることになった。……多すぎる。仕事では無く、彼らの好意にすがった結果がこれだ。ほとんどの方が「送料+α」で良いとの事だった。甘く見ていた。彼らの優しさと、都会の人間では判らないギャップを。


 当然、我が家のガレージの奥の物置を片付けて、そこを「米倉庫」とした。

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