039:リラックス

 何かしら連絡が来るだろうと思って、ダンジョンから出て、コーヒーを飲む。案の定、グループメッセに若島さんからの状況確認が入ってきた。


若島:お疲れさまです。三人とも無事です。


若島:先輩たちもタクシーの中で目が覚め、最初は朦朧としていましたが、すぐに復活しました。


若島:現在、私の家に到着し、お風呂に入ったあと、部屋でくつろいでいます。


若島:よろしければ、TV電話をお願いしたいです。


 というか、このままメッセージでいいじゃん……と思ったが、直接話した方が早いかと、アプリを起ち上げた。即繋がった。


「お疲れさまです。怪我とかない? 大丈夫?」


「あ。お疲れさまですー大丈夫ですー」


「大丈夫ですー」


 若島さんと最上さんがくっ付いてこちらを見ていた。なんか恥ずかしい。ああ、TV電話ってこうやってするんだな。これまであまり経験無かったから新鮮だ。


「ほら、詩織先輩もー」


 ちょっと暗い顔をしている松山さんが画面に映った。そりゃ……気になるよな。当然。


「あ、あの、村野さん……」


「村野さんはいまどこに?」


「自宅です。皆さんをタクシーに乗せたあと、しばらく、追っ手が来ないか隠れて見てたんですけど、大丈夫そうだったので、さっさと帰ってきました」


「そ、そうだったんですね?」


「と、というか、村野さん、何があったんですか? あの……危ない目にあったりとか……」


 松山さんはその辺心配だよね。うん。自分のせいで二人を危険な目に合わせているし。


「えーと……実はですね、自分も良く判らないのですよ……。皆さんを追いかけて、とあるビルの地下駐車場に行ったら、なんか、チーム同士の抗争か、何かで揉めてまして。犯人たちが。その隙を付いて、三人を取り返して、タクシーに乗せたので」


「え? そう……なんですか?」


「はい。なので、あまり気にしない方がいいですよ?」


「はい、はい。すいません」


「とりあえず、何かに巻き込まれた気もしますが、被害は無かったようですし、警察沙汰とかにしない方がいいかもですね。面倒なことになりそうです」


「はい……」


「そうですねー」


「村野さんに怪我はないのですか?」


「一切。だって、三人を抱えて逃げただけですから」


「そ、そうですか……」


「もし、何かあったら連絡をくださいー。いつもの通り、メッセージで大丈夫です。今日はありがとうございました。水族館綺麗だったし、御飯美味しかったですね」


「ですねー」


「何ごとも無くてよかったです-」


「あの、また、お誘いしてもよろしいですか?」


「ええ、俺も楽しかったですから。いつもは味わえない体験をさせていただいて」


「はい! なら、またお願いします!」


 ふう……こんな感じで……大丈夫かな? 怪しんでるとは思うけど……うーん。ごまかせたんだろうか? 多分、あの惨状は即日通報されるだろうから、ニュースにはなるだろうなぁ。

 拉致監禁の常習犯グループ逮捕とか。ああ、そうか……あのスタッフルームにあったの、あれが薬か! 小分けされてたヤツ。そこまで考えが及ばなかったわ。まあでも、全員罪を償えって事で。


 今回、「ブロック」は敢えて使わなかった。使わなくてもいけると思ったのもあるが、怒りに任せて力押ししてしまったのも大きい。今回の敵が間抜けだったから良かったが、もう少し冷静にならなければ足元を崩されかねないな。


 って……いや。俺はどこと、何と戦おうとしているのだろう……。少し思考を、そして身体を沈静化しないとまともな思考に辿り着けないかも。


 久々に、自宅の方の風呂にお湯を張り、灯りを消して入る。


 アレ……あいつら死んでてもおかしく無いよな……まあでも……カッとなってやった。反省してない。追撃もしちゃったし。

 出血多量で逝くか……まあいいか。罪悪感というか、人殺しのトラウマというかを普通なら感じてもおかしくない。が。そんな感情は一切わいてこない。おかしいのか? 俺。ヤバいのか? 俺。


 ボーッと。とにかくボーッとして、お湯が冷め始めるくらいまで、ボーッとしていたら。やっと心の均衡がニュートラルに戻ってきた。気がする。ふう……。


 ということで、冷静になりました。多分。


 念のため、長時間思考になっても良いようにダンジョンの部屋で考えることにした。


 問題は……渋谷を疾走していた時の街中の監視カメラと、あのビルに出たり入ったりしてた際の隣近所の監視カメラだ。あの時、最初のうちマスクをしてなかった。あのビルのカメラは潰しても、周辺全部はどうにもできない。なるべく早く動いていたので捉えられてないといいのだけど……。


 指紋は……残っていないはずだ。ビルに仕掛けた時、手袋しっぱなしだったし。

 

 そう。俺は既にイロイロと無茶が出来るのだ。それはよーく理解した。なのでどうせやるなら、バレない様にしないと即逮捕コースだ。そもそも、純粋に力押しってやらない方がいいよなぁ。今回のコトの様になるから。隠蔽系のスキルとか、あちらの世界では不思議力となる魔術辺りを使える様になればなぁ。

 天職なんていう……ジョブシステム? があるんだから、迷宮創造主以外の職もあるんだよな? 絶対。でも、どうすれば転職できるかなんて判らないしなー。


 ああ、そういえば。気配が察知できてるのは……どういうことなんだろうか? 悪意に反応して、なんとなく判るし。でも俺にそんなスキル……ないよな。【結界】とか【鑑定壱】以外、目覚めてない。レベルアップしたあと部屋に戻ると頭に思い浮かぶから、間違い様はないだろうし。







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