037:拉致
岡田君達は解散したようだ。というか、いつの間にか悪意と共に去って行った。今日の所は……うーん。どうだろうか。いまいち状況が掴めないなぁ。まあ、現時点で犯罪を犯しているわけではないし。
水族館を楽しんで、さらに、おしゃれなお店を数店舗を巡って、食事だ。社長のコネで予約したという知る人ぞ知るというイタリアンの一流店。しかも値段もそこまで高く無い。そりゃ予約が半年先まで埋まってるよなぁと納得。
店を出て、大通りまで歩く。しかしこれで良いんだろうか? デートというか、唯々四人でブラブラした感じだ。最後は美味しいご飯食べて終了。女子とデートってこんな感じだっけ?
まだ、夕方……十八時くらいだが、既に日が落ちて街は暗い。
ん? ちぃ!
黒塗りのワゴンが大通りの出口に道を塞ぐ様に止まった。そして、同時に出てくる、顔全体を覆う黒覆面を被った男達。口元を押さえられた三人がもの凄いスピードで車内に押し込まれてしまった。悲鳴ひとつ聞こえてこなかった。
俺は会計を済ませて後から出てきたのだが、少々酒も入って、隙を生んでしまったようだ。さっきのヤツラか……。岡田とその仲間。さっきの手際の良さ、やつら拉致するのに慣れてるな……。
などと考えつつ。さっき覚えた悪意の塊を追いかけて、走り続けていた。レベルアップはこんな所でも影響が出ている。歩道を走るとヤバイスピードが出てしまったので、マラソンするかの風を装って適度に速度調整し、自転車ゾーンを駆け抜けている。というか、俺……結構人間を辞めてるかもしれない。追い抜くドライバーが車の中で一瞬ビックリするのが見える。まあ、このスピードなら顔なんて判別できないだろう。
黒ワゴンは十五分くらいで地下の駐車場に入った。とりあえず、俺も持ち歩いていたマスクで顔を隠した。コートの内ポケットに入っていた革手袋を填める。あまり変な風に目立ちたくないし。
(とりあえず、やつらの手から彼女たちを奪い返すのが先決か)
地下駐車場に降りると、奥に黒ワゴン。ドアが開いて、移動開始といったところか。三人は……眠らされてる? 乱暴されてないだろうな……なんかもの凄く腹が立ってきた。奥に扉が見える。エレベーターホールに繋がってる? のだろう。
問答無用で突っ込んだ。車から降りた男は五人。三人は担がれている。まずは、取り返そう。
「な、お前!」
最後尾にいた黒覆面を無視して、最上さんを担いでいた男を上から殴り、地面に叩きつけた。当然、最上さんは俺が抱えた。そのまま、止まらずに、松山さん、若島さんも取り返す。当然、抱えてた男は膝を砕き、足を薙払い、引き剥がした勢いで壁に叩きつけた。
三人がショックで意識を失ったのを確認した俺は、ワゴンのサイドドアを再度開けて、女子を下ろした。
残りは二人。ドライバーと助手席にいたヤツだ。何が起こったのかを理解したのか、二人は殴りかかってきた。うん。反応早いと思う。悪くない。悪くないけど別に、グレーウルフの襲撃の方が速いからさ。
今はとにかくスピードだ。先に襲い掛かって来たヤツの顎を掌底で抜く。呆気なく、膝から崩れ落ちる。そのまま、後ろ頭を掴んで、顔面を叩きつけた。と、同時に蹴りを放ってきたドライバーの男。足を掴み、そのまま、床に叩きつける。
グシャ……
足が潰れた。そして、脚が歪んだ。ちょっと本気で叩きつけてしまった。足と共に、床に転がった男の顎を蹴り抜く。動かなくなった。死んではいないが……まあ、生きてもいないか。
五人を駐車場の隅にまとめて捨てると、ドライバーの男から奪った鍵で黒ワゴンを出した。しばらく道なりに進んで路肩に車を停め、手を挙げて、タクシーを呼ぶ。表参道と渋谷の端とはいえ、道は大通りだ。すぐにタクシーが停まる。
「あ、アレ? む、村野……さん?」
お。タイミング良く、若島さんの目が覚めた様だ。朦朧としているようだが、目の焦点は合っている様だ。
「すまん、守り切れなくて、怖い目に合わせた。状況を確認してくるので、二人を送って行けるかな? 多分、もう少ししたら目は覚めると思うから」
強力な薬かと思ったら……そうでも無かったようだ。若島さんが目覚めたなら、二人ももうすぐ起きるだろう。
「わか……分かりました。うちなら、人もいるので安全だと思うので、今日は二人を泊めます」
「頼んだ。んじゃ、運転手さん、お願いします」
若島さんも押し込んで、タクシーを発進させた。これでまあ、女子は大丈夫。だろう。
んー。自分がかなり怒っていることが分かる。ご立腹である。
黒いワゴンはそのまま乗り捨てて、走ってさっきのビル、地下駐車場に戻ってきた。男達は先ほどと変わらず、隅に重なっている。よくよく見れば、このビルは廃ビルに近い様だ。元は飲み屋系の商業ビルだったようだが、現在は全て営業していないと紙が貼ってある。
注意してみたが、駐車場に「生きている」監視カメラは見あたらない。不用心だな。よほど自信があるのか。
ヤツラが向かっていたエレベーターに乗り込み、ボタンを押す。反応しない。ああ、そうか。鍵を差し込むとその鍵に合わせた階層へ移動出来るタイプか。
さきほど奪った車の鍵に付いていた、別の鍵をいくつか試してみる。ビンゴ。七階が光り、エレベーターが動き始めた。
「エビス~遅かっ……なんだ、てめぇ!」
エレベーターの扉が開いた先は……まあ、典型的なカラーギャングのアジト……とでも言えばいいのだろうか? 大きめのソファ、バーカウンター。ビリヤード。デザインに統一性はないが、薄暗い。
地下と違い、カメラがいくつも三脚に乗っている。スポットライトもあるな。一目見てどんな用途か判る。ここに何十人、何百人という女性が連れ込まれてヒドイ目にあった……のは確かだろう。
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