035:オシャレカフェ
正直、【鑑定壱】は期待外れというか、「壱」なのだから、そりゃそうかだった。
人物や魔物の名前が分かる。うん。自分の手を見て【鑑定壱】と思い浮かべる。
名前
天職
階位 4
これだけだ。あの、マルチモニターだかに表示されていた内容と変わらない。しかも人物、及び魔物のみという限定版。物は鑑定できない。
マルチモニターを見なくても、良いというだけ……いや、本当はすごいスキルなんだよな。絶対。だって、初遭遇の魔物の名前が判っちゃうんだから。
でもなー俺、このダンジョンの敵の名前全部知ってるもんなー(当たり前)。
少々のガッカリ感は否めないが、「壱」とあるって事は「弐」があるって事だ。今後に期待ということで。「弐」になったらアレかな、マルチモニターの方も更新されるのかな?
と、いうか、これ、なんで……「壱」……大字? これ、証書なんかで「一」は改竄されたりするって理由で使われた漢字だったよな。日本札の「一万円」は、「壱万円」って書いてあったはずだ。
その後、予定していた一カ月が経過したため、ダンジョンから帰還し、普通にベッドに入った。明日はデートだ。四人で、なのでドキドキ感はそこでもないが、確実に浮ついている。
年齢的には別におかしい年の差じゃないんだけどなーなんか、みんな、すごく年下で眩しい感じがするんだよなー。
単純に俺が老けてるだけか。覇気がないとか、若さがないなんていう要素が、前カノに振られた原因だし。
等というどうにもならないことを考えているうちに眠りに着いた。
日曜日、午前11時の表参道。こんなとこにカッコいいスポーツカーで乗り付けるヤツがもてるんだろうか? いや、古いか。
待ち合わせしたおしゃれなカフェ……俺、浮いてないか? 浮いてるやろ? 基本ファストファッションのセットアップに、薄手のコートは家のクローゼットから適当に持ち出したヤツだ。袖丈とかピッタリなので、たぶん、祖父ちゃんのだな。父さんは身長が170センチくらいだったから。祖父ちゃんは(当時にしては)大男だったって言ってたし。
店の中の席が空いていなかったので(こちらは今は一人だけど、合流すれば四人だ)、店の前のオープンテラススペースに座る。は、恥ずかしいので一番店側奥の隅だ。
季節的には冬……というほどじゃない。今日は天気も良い。寒さは感じないから大丈夫だろう。
「お待たせしてしまいましたか?」
おうふ! いきなりこの街に似合い過ぎてる女性が。と、思ったら。
「最上さ……ん?」
「はい。お待たせしました?」
「い、いえ、待ち合わせの30分前に着いている癖がありま……」
「まあ、私もなんです。万が一お待たせしたらと思うと、気が気でないので」
「……」
「どうかされました?」
「いや、あの、とてもこの街に似合っているなあと思いまして」
「まあ」
実際、最上さんはとんでもなく美しかった。俺の語彙力では説明しきれない。こないだのミニスカルックよりは大人しい感じ……というか、大人びた感じというか、んーロングスカートにシャツ、薄手のコート……言葉にするとシンプルだが、全てのデザインが上品だ。多分シャツもオシャレ名前が付いている形だと思う。知らん。スゴイ似合っている。なんか、オーラとか出てる気がする。待ち合わせする男は俺じゃないよなぁ。
「初めてのデートなので張り切ってしまいました」
張り切るだけでここまでになるなら、世界中の女子が張り切りまくると思うよ。だって、さっきから最上さんを二度見してる人の多いこと、多いこと。
女優とか芸能人、モデルでこんな人いたっけ? だよな。わかる。俺もそう思う。
「あら。そのコート……」
「はい、ああ、恥ずかしながら祖父のコートでして、古……」
「いえ、私のコートと同じブランドですね。確かにそちらはビンテージですが……とても綺麗に着ていらっしゃったみたいで」
え? そうなの? そういわれてみれば……デザインの雰囲気は似ている気もするけど……なんで気付いたんだろ? というか、そういうの判るモノなのかな? 普通の人は。
「ほら」
と、最上さんの手が伸びて、コートの左側合わせ部分をめくった。た、確かに、彼女が見せてくれているロゴと同じロゴが入っている。
というか、距離がちかーい! 近い近い! こんな美女のこの距離はヤバいよ、ヤバイ。
「うわー最上先輩……抜け駆けですかーさすがですねー」
「おうふ、こんな外で……大胆な……」
タイミング良く、二人が到着したようだ……。タイミング良く?
「そ、そんな、抜け駆けなんてはしたない、その、私のコートと村野さんのコートが同じブランドだったから~」
「くっ付く口実にしか聞こえませんね……美南先輩、ゴチになります」
「もー。しょうがないなぁ」
まだ、飲み物を買ってなかった最上さんが、若島さん、松山さんの分も買ってくるようだ。というか、どういうルールなんだろうか。っていうか、ルールとかあるの?
「村野さん、早いんですね」
「まだ、待ち合わせ25分前なのに」
「三人とも早いよ? 俺は……いつも30分前行動だから……」
「ちぇっ。その五分で美南先輩に先を……」
「そんな……先とか後とか……」
「あまいですよーあまあまですよー村野さんみたいな男性は、タイミングが超重要なんですから! 御自分でも早く一線越えた者勝ちな所があるって認めてたじゃないですか」
「そ、そんな、こ、こと……」
「責任感強いですもんねーきっと」
ちい。何も言い返せない。松山さん。ボブカットで女子アナ系の彼女は、身長は160センチちょいで三人の中で一番小柄なのだが、一番侮れない。ちなみに、最上さんが165センチくらい。若島さんが170センチってどころだろうか?
「それにしても美南先輩のコートと同じって……それ、オーダーの専門店のオリジナルコートですよね。銀座の」
「え? そ、そうなの?」
「そうです」
祖父ちゃん……オーダーでこんな薄手のコート作っちゃうくらい金持ちだったのか。そりゃそうか。あの館作るくらいだもんな。
「村野さんは~コーヒーブラックです?」
若島さんが話題を変えた。
「そうですね。甘い飲み物はあまり……」
「メモメモ」
「拘りとかはいかがですか?」
「淹れ立て……ならなんでも美味しい……って程度にしか拘りは」
「味を楽しむならそれくらいがいいかもですね」
「はい、どうぞ」
最上さんが三人分の飲み物をテーブルに置いた。
「ありがとうございます!」
「ごちそうさまです」
「はいはい」
「三人もブラックですか?」
最上さんが無造作に置いたので、同じモノなのかと思ったのだが。
「いいえ? 私はデカフェオレにクリーム増し、シナモンプラスです」
「私はアップルダージリンオレのシナモンプラス」
「カシスアールグレイのフラペチーノになります」
……注文取ってなかったよね?
「ああ、あの、秘書課の講習でこういう注文などのチェックをクセにするように言われてまして~」
「同僚が何を飲みたいかとかは、ちょっと考えれば判る様になっているのです」
「へ、へー」
「えっと、今日の気温から、桐子ちゃんは温。だとするとデカフェのコーヒーオレにクリームとシナモンをプラスしたモノ。詩織ちゃんはアップルダージリンオレのシナモンプラスになります。私、自分のは自分で選べますから、ちょっと冒険でこちらのメニューにしました」
「美味しいです? それ」
「ええ。なかなかいけます」
「火照った身体を沈めるのに冷ですよねぇ~」
「ち、ちがいますもん」
「村野さんはブラックコーヒーで豆の好みなしってことは、注意するべき点はサイズくらいですね~。考えればいいのは、今日の飲食、湿度とか運動度合いくらいでしょうか。楽ちんですね」
そ、そういうレベルで判断するの? なにその超能力的な先読み。
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