015:時間経過

 母さんの残した日記? を眺めたり、いじったりしてみたが、今回も何も出来ず反応も無く。本というかノートなのは確実なのに、なぜか開けない。というか開かない。そういう行動を行えない。持ち運べるだけだ。当然、手がかりになる様な何かも見つからず。いつの間にか寝てしまった。


「朝か」


 昨日はいろいろあった。特にかつて経験したことがない戦闘体験に疲れていたのか、朝までが一瞬だった。時計はいつもの起床時間、7:00を表示している。


 今日は土曜日だ。ウチの会社は建前上週休二日制なので土日は休みなのだが、何だかんだで残務があり、情け容赦ないテレワーク打ち合い等が入る事も多い。

 が。今日、さらに明日に限っては、何も予定が入っていなかった。いつもなら「ラッキー」と二度寝してダラダラして過ごすのだが、今日は違う。


 買い置きの食パンを焼き、袋詰めのサラダにドレッシングをかけ、コーヒーで朝食を済ませる。時間に余裕があれば、ここにベーコンかソーセージ、卵を加えるのだが今日はいいや。


 何となく急かされている気がする。まあ、そりゃそうだよな。冷静に考えてみれば。


 ロゴブロックとダンジョンRPGという、俺の大好物の融合だ、マリアージュだ。レベルアップの為の戦闘が例え命がけだとしても、仕様が自分次第な上にチート武器のおかげで危険度は非常に低い。

 というか、そもそも、ダンジョン探索は男子なら誰もが憧れるシチュエーションだ。穴があったら入りたいじゃないが、探検、冒険、財宝の詰まった入り口が目の前にあるのだ。


 臭わないのもイイ。ダンジョンと言えば、想像するに、確実に、臭いがきついはずだ。普通に考えれば空気が対流するワケもないし、そこにモンスターが住み着いているのだから糞尿も垂れ流しだ。通常ならトンデモナイ異臭で鼻が曲がることだろう。


 が。あの迷宮はいたって普通だ。というか、逆に清涼、静謐なんて感じるくらい、換気が行き届いている。

 モンスターと戦闘するくらい接近すると臭いを感じるし、内臓を傷付けたり、血が流れ出れば独特の臭いが発生する。だが死骸が迷宮に消え去ると同時に、臭いも消えている気がするのだ。

 正直、俺の設置したモンスターは「生物では無い」のでは? と怪しんでいるくらいだ。


 とはいえ、リアルでは無いかもしれないが、実際に臭い付きだったら攻略意欲が激減してしまうのでこれはこれで良かったと思っている。気楽に挑めるっていう現状に臭い問題も関わっているのは間違い無いからだ。

 

 まあ。


 ワクワクドキドキしないはずがないじゃないか。何かと気になることは多々あれど、年甲斐もなく俺は興奮していた。ああ、あれだ、遠足の前日から眠れず、起床した直後というか。

 でも、気を失うかの様によく寝れたからか、身体も思考もシャッキリしている。気がする。ただただテンションが高いだけかもしれないけど。


「どこ〇もドア」を開けた先はお馴染み白い部屋だった。扉を閉めてしばらく周りを見渡していると、どこからかシロが寄ってくる。


「お帰りなのよぅ」

「あ、シロ確認だ。あの扉の向こう側とこちら側。時間の流れが違うよな?」

「良く判らないのよぅ」

「扉が開いている時は、時間は共用されてる感じだよな?」

「良く判らないのよぅ」


 うん、うむ、ある意味予想通り。なので構わない。昨日の感じだとかなり違う、いや、時間停止状態かもしれない。


 確認するのは簡単だ。さっき、こちら側に入る際に、前に使っていた古いスマホのタイマーを作動させて扉前に放置してきた。

 そして手の中には今使っているスマホ。当然、同時にタイマーを起動済みだ。


 既に3分が経過している。


「シロ、忘れものだ。ちと戻る」

「あいあいなのよぅ」


 扉から出て、目の前にあったスマホのタイマーを確認する。


00:00:07


 おうふ。7秒。こりゃ……時間進んで無いな。向こうにどれだけ滞在しても時間経過無しか。ひょっとして時の流れの呪縛から解き放たれたのか? いや、まあ、不老とか現状保存何ていうスキルは無いのだから、ぶっちゃけ意味ないけど。


 ってちょっと待てよ? こっち側での時間は? それも確かめないとか。

 そっと扉を開けて、隙間から、向こう側にタイマー起動済みのスマホを置く。扉を閉める。


 手元にはもう一つのスマホ。飲みかけで置いてあったコーヒーを飲みほし、カップを水で流す。

 再度3分経過で扉を開けて向こう側に。スマホを回収する。


00:00:05


  わーお。えーと。時間が連続していない? 二つの空間は扉の開閉で繋がるのだが、扉を閉じると寸断される。再度扉が開いたときが時間が流れ出すきっかけになるようだ。これは便利だな! ダンジョン側で熱中して、スゴイ時間が経過したとしても、中に入った直後に出てこられるのだから。

 逆に、リアル世界で仕事が忙しくなって数日ダンジョン側に来れなかったとしても、シロは寂しくないって事だ。まあ、ヤツにその手の感情は備わっていなさそうだけど。


 異世界転移の小説なのでよくある、時差が酷いとかそういうネタが体験出来ないのは寂しいかもだけど、思う存分、趣味の時間が取れるのはうれしいかも。

 単純に時間が無くてスポーツクラブ通いも諦めてたからなぁ。ダンジョンで戦闘して、ダイエットになるかな? 


 この場合の不具合は……俺が人より早く老いていくくらいか。


 それこそ、このまま俺がダンジョン側で数十年過ごしてしまった場合。食事を摂る手段も、寝床も無いのだからあり得ないけど。

 仮に、そうした場合。扉を開けて現実世界に戻った俺は、数十年経過したジジイ顔、いや老いた肉体で出社しなければならない。明後日に。嫌すぎる。が、これにはどうにもこうにも対策方法が無い。


 これ。累積、蓄積していったら最終的には大きな問題になるかもなぁ。で、でも、まあ、数年なら……大丈夫だよな。うん。きっと。


 逆に、世界で俺だけ時間の支配から抜け出したということで、楽しめばいいのか。でもなぁ。ここ、キッチンも、ベッドもないし……持ち込めばいいのかな? というか、持ち込める?


 コンセントは無いから電気は無理でも、寝袋はいけるか。


 そういえば、この部屋。あ。ダンジョンもか。結構良い感じの温度湿度に保たれてるな。臭いが無いのも含めて、居心地がいいのはありがたいけど、ダンジョンって何となくだけど、ジメジメしてるんじゃないんだっけ? 本物知らないけど。こういうモノなのかな。


 

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