016:実験

「で、シロさんや。再確認だけど、俺はダンジョンを創って何をすればいい?」

「自分を育てるのよぅ」


 それは知ってる。


「育てるっていうのはレベルを上げるってことだよな?」

「なのよぅ」


 うーん、判らん。昨日の手紙も表面上はともかく、根本は良く判らんし。昨日、手紙をもらう前。まずはレベルアップしようと思ってたんだよな。そういえば。


「シロ、ダンジョンは昨日のまま?」

「そのままなのよぅ。誰もいじれないのよぅ」


 そうなのか。


「シロ、ダンジョンって俺以外いじれないの?」

「なのよぅ。ダンジョンは迷宮創造主ダンジョンマスターにしか触れないのよぅ。そもそも、このダンジョンは迷宮創造主マスターが創ったから、迷宮創造主マスターしか操作できないのよぅ」


 そうなのか。汎用の職業ってわけじゃないんだな。ん?


「このダンジョンを俺以外の迷宮創造主が使うとか、乗っ取るとかは?」

「出来ないのよぅ。そもそも、この迷宮機能集中総操作室には個体認証された迷宮創造主マスター以外入れないのよぅ。特にここは特殊なので他の誰も入れないのよぅ」


 ビシッと指差されてしまった。


 そ、そうなのか。セキュリティ結構厳しいな……というか。あの「どこ〇もドア」……俺以外入れないということなのか?


「あの扉から俺以外が入ってきたらどうなるの?」

「入れないのよぅ」


 そうか……なら、あんなセキュリティを気にする必要無かったのか。まあ、そういうモノだと知らなかったしな。


 んじゃとりあえず、昨日の続きでもするか……。


「シロ、昨日の続き」

「はい、なのよぅ」


 会議テーブルに俺の創った超絶簡単な迷宮第一フロアと、パッケージの箱、袋に入ったブロックの山が出現した。っていうか、これまたいつの間にか消えてたな。そして、前回と同じ様にいつの間にか出現した。不思議。


「モンスターのフィギュアをおけば、そこに、そのモンスターが出現するんだよな?」

「そうなのよぅ」


 昨日作った三畳くらいの縦長廊下な迷宮。それに剣を持ったゴブリン、ソードゴブリンを置く。


「シロ、一番弱いのがこの剣を持ったゴブリンなんだよな?」

「なのよぅ。レベルは3なのよう。最弱じゃないけど弱いモンスターなのよぅ」

「ん? レベル1と2のモンスターもいるの?」

「いるのよぅ。リストを見るのよぅ」


 昨日見たヤツか。画面のリストを操作する。あ。いた。


レベル01 ラージドッグ  獣族

レベル01 ラージモスキート虫族

レベル01 ハードボア   獣族

レベル01 ラージリーチ  虫族

レベル03 ソードゴブリン 鬼族 70

レベル03 アックスゴブリン鬼族 80


 おうおう。こちらも定番系だな。RPGなんかではお馴染みのモンスターたちだ。


「……なんで最初に戦うのがレベル1の敵じゃなくて、レベル3のゴブリンだったんだ?」

「小さくて動きの速いモンスターは、人型のモンスターよりも苦手にすることが多いのよぅ。レベルが低いのは大抵一撃でやっつけられるからなのよぅ。でも、たまに一撃喰らったりするのよぅ。ゴブリンは普通の剣なら数回攻撃しないと倒せないのよぅ。体力が多いのよぅ。でも、迷宮創造主マスターなら一撃なのよぅ。なので、ゴブリンの方が戦いやすいのよぅ」

「へー」


 まあ、確かに……どんなに斬れ味鋭い剣でも、当たらなければ意味が無い。飛んでる蚊のモンスターに剣を振って当てるって結構大変そうだもんな。


「なにより、ブロックやユニットをいじるのは、迷宮創造主マスターじゃないと出来ないのよぅ。あの敵を選んだのは迷宮創造主マスターなのよぅ」

「そっか。ボーナスでもらえた~えーとなんだっけ、あの剣」

「「切り裂きの剣」なのよぅ」

「そうそう、それ。あの剣を俺が持った場合、俺にとって、一番弱くて楽に倒せるのが、このソードゴブリンだったわけだな?」

「そうなのよぅ。ちゃんと試算したのよぅ」


 まあ、昨日、いきなり迷宮にぶち込まれた怨みは未だ晴れないが、とりあえず、納得はした。


 正直、ラージドッグ……名前通りなら「大きな狂犬」に、いきなり「飛びかかられて」いたら、俺、あっさり殺られてたかもしれないし。


 シロに対する信頼度を少し上げてもいいだろう。


「んじゃ、今の俺にとって最弱のモンスターは、ソードゴブリンってことでいいな?」

「斧を持ってるのも弱いのよぅ」

「お。確かに、ソードゴブリンよりも動きは重い気がするし……こっちの方がいいか」

 

 廊下にアックスゴブリンを配置する。とりあえず1体でいいだろう。


「よし、シロ、転送だ」

「はい、なのよぅ」


 その瞬間、昨日見た迷宮に立つ俺。命令通りにちゃんと装備が切り替わっていた。「切り裂きの剣」は既に右手に握っている。


 目の前、それこそ、もの凄く近くにアックスゴブリンが立っている。初期配置ってヤツだろうか? 俺がブロックで置いた位置だな。やつはまだ活動を開始していない?


「シッ!」


 息を引き絞りながら、飛びかかる。この段階でやっと、ゴブリンが気付いた様だ。丁度俺の胸の手前辺りにヤツの頭が来る。そのまま横に凪ぐ。


 ゴス……と。またも感触を感じ無いまま、ゴブリンの頭がずれ落ちる。昨日ぶりとはいえ、冷静に状況判断して観察できたのは初めてかもしれない。うん、これが人型のモンスターを殺すという事だよな。なんとなく後味は悪い。が、それほど嫌悪感は湧いてこなかった。見た目通り、一撃で仕留められたようだ。ゴブリンの死体が光の粒子となって消えて行く。


 残されていたのは、やはり、魔石。これがDP、ダンジョンポイントになるのだから忘れずに拾う。


「シロ、撤収」

(はいなのよぅ)


 迷宮機能集中総操作室に転送されてきた。まさに一瞬だ。装備もスウェットに着替えている。


「シロ、はいよ。魔石。んじゃ再度転送」

「はい、なのよぅ」


 再度出現したのは先ほどと同じ三畳廊下の端っこ。既に装備は変更されている。迷宮が配置された瞬間? 俺が出現した瞬間? なのか? スタート時にモンスターに隙が出来る様な気がする。


ザシュ……


 さっきと同じ様に剣を横に凪ぐ。ゴブリンはなんの反応も出来ず、光の粒子となった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る