012:リスト参照

 シロに促されて、部屋の中央に位置している椅子に腰掛ける。座り心地いいな! これ。仕事場のオフィスチェアに比べてとんでもない差だ。どこのブランド製なのか分からないが、上等な椅子なのは間違い無い。


「この机が迷宮創造主マスターの机なのよぅ。レベルが上がるとモニターで迷宮の管理とか設定とかイロイロできるのよぅ」

「レベル上がらないとできないの?」

「少し出来るのよぅ」

「少しか。その会議テーブルは?」

「何に使ってもいいのよぅ。椅子もあるのよぅ。出し入れも自由なのよぅ」


 会議テーブルの脇に、机と同じ様な椅子が出現し、また消えた。


「迷宮を組み上げたりするのに使うといいのよぅ。大きい迷宮になると大変なのよぅ」


 ああ、そういうことか……っていうか、今後もブロックで迷宮を創るのは確定なのか! 


「いや、あの、わかんないけど、こんな風にすっごいシステムの一部なのであれば……デジタルの……モニター上で迷宮を組み上げる方が楽なんじゃ無いのかな? ブロックなんて言う物理ソースを使わないで」


 デジタルソースの方がかさばらないしさ……と思うのだけど。


「わからないのよぅ」


 うん、そうだろうね。念のために聞いてみた。でも、大事なことなんだよな。これ。


 多分だけど、シロにこういうのをしつこく聞くのは大事な事なんじゃ無いかと思う。シロの語尾が変で、ちょっとアレに聞こえる物言いなのは、「こいつは何も知らない馬鹿なヤツだ」というレッテルを貼る為の騙しなんじゃ無いかとすら、思っている。マウント取りたいヤツは勘違いしそうだけど。


 シロは部下でも、召使いでも、奴隷でも無い。大事な大事な情報源だ。インターネットや図書館、冒険者の酒場なんかが見あたらない現状、この迷宮なんちゃらの情報を一元して取り扱っているのは彼女なのだ。ネトゲなら、開発と双方向で連絡の取れてない公式ってヤツだ。一方的に伝えられるスピーカーと思ってないがしろにしていたら痛い目を見るのは自分だ。


 さらに、さっきヤツは「迷宮創造主マスターが成長したり、迷宮が成長して、「会話」をすると新しいシステムとか新しい知識とかが解放される」と言っていた。つまり。レベルアップしたり、迷宮を創る「だけ」では、新しいシステムや知識が得られないということなのだ。


 そのうちの一つにシロとの会話も含まれているのならば、しつこかろうと、面倒だろうと、かつて聞いた質問だろうと、時間や状況、状態の変化を感じたら、もう一度聞き直すのは大切なことだろう。


 何となくだが。テレビゲーム、ダンジョン系のRPGで、散々戦ってどんなに頑張ってもダンジョン中では成長せず、地上に帰還し、宿屋に1泊することでレベルアップする名作があった。まあ、お金のもったいない俺はいつも馬小屋を利用していたけど。

 その、宿屋=帰還、そしてさらにヒントを得られるのはシロとの会話だとすれば、迷宮帰りに何度か話し掛けるのをくせにしておかなければ。


「シロさんや。このリスト、表示すげー少ないんだけど」


 モンスターはそれなりだが、ブロックはほんの数種類しか表示されていない。


「レベルが上がらないと公開範囲は広がらないのよぅ」


 表示されている、お買い物リストは最初の数種類のブロック以外、隠されている。様だ。


 まあ、そういうことか。ダンジョンポイントで購入出来るブロック等は、レベルとか(他があるかも知らない)の条件で制限されているようだ。


「まずレベルアップしないとっていうのはそういう事か」

「なのよぅ。レベルが無いと、この部屋の存在固定も出来なかったのよぅ。リストも表示出来なかったのよぅ」


 厳し……くはないのか。そもそも、この総操作室にたどり着くには、かなりのレベルじゃないと無理なんだっけ。


「今ある迷宮を消して白紙に戻すのに、何ポイントかかる?」

「DPが5ポイントかかるのよぅ」

「ブロックなんだから、使用していたパーツは残るよな? 解体って事だよな? 消えて無くなったりしないよな?」

「残るのよぅ。ブロックはストックに戻るのよぅ」


 よし。それならよし。


「モンスターは?」

「モンスターもストックに行くのよぅ。取得していた経験値はリセットされて初期状態に戻るのよぅ」

「それだけか?」

「なのよぅ」


 よし。何の未練もない、さっきのダンジョンを消去しよう。俺に切り刻まれただけなので、三匹のゴブリンに経験値なんて入っていないハズだし。


 っていうか、経験値?


「シロ。経験値ってなんだ?」

「経験値は経験値なのよぅ。戦ったり訓練するとゲットなのよぅ。魔石を取り込んでもゲットなのよぅ。魔石はDPにもなるのよぅ。とても大事なのよぅ」


 魔石……使い道多いというか、超重要だな。某ソウルポイントの様な物か。


 それにしても。


「あ、あとシロ。鏡ある?」

「標準装備なのよぅ」


 畳1畳位の大きな姿見、鏡が現れた。そこに居るのはスウェット上下の、お世辞にも若者とは言えないオッサン。禿げてはいないが薄めの髪。シルバーフレームの眼鏡。近視だ。顔面偏差値は、平均より下。40位か。どこからどう見てもイケメン要素が無い。


 うん……自分だ。いつもの自分だ。特殊な力があるとは思えない。


「世の中には不思議力って在るんだなぁ」

「不思議力じゃないのよぅ。魔力による干渉の結果なのよぅ」

「相互干渉じゃないからなぁ……シロは知らない事が多すぎるし」

「マスターのレベルが低いからなのよぅ。全てはレベルアップが解決するのよぅ」


 さよか。レベルか。

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