004:ロゴブロック

(懐かしいな……)


 ここに来て、というか棚の前に立って思い出したのだが……俺にとってオモチャといえば、このロゴブロックだった。


 なぜ忘れていたのだろうか? そんな……暇がなかった、余裕が無かったからだろうか。


(中学、高校生以降……TVゲームばかりだったしなぁ。でも『マイ〇クラフト』には触らなかったし)


 小学生高学年……確か五年生の時に自分用にTVゲーム機を買ってもらってから、親が家に居ない夜の時間、俺はTVゲームをしていた。


 新作を買ってもらえた……というわけではなく、単純に父と母が昔遊んだゲームソフトが家に大量にあったからだ。


 友だちと話を合わせるために、当然最新のソフトもゲットしていた(それこそ、クリスマスプレゼントやお年玉を使って)が、日常遊ぶのは両親コレクションが多かった。


(ああ、そうか。古いソフトはかなりあったのに、目が悪くなるからって十歳までTVゲームはさせてもらえなかったんだ。思い出した)


 そんな環境だったからか、中高、大学、そして社会人になっても趣味はゲーム一択だった。

 友だちが少なかったのもあって、休日は大抵家でゴロゴロしながらゲームというのが定番だった。


(そっか……ロゴブロック……の定番は変わらないんだなぁ……)


 と、改めて見る懐かしの棚には、昔から定番の様々なブロックが入ってる青いバケツ、もう少し大きい赤いバケツがドンと置いてあった。


 その上に男女共に様々なガジェットを作成できるキット、箱モノが並んでいる。


 相変わらず~男児は恐竜や忍者? とか、兵器系のヤツがメイン。女児は小さめの店舗やリゾート系建造物や美術館等のリアル系がメインの様だ。変わってない。


 それこそ、車一つ取ってみても、男児向けはジープや装甲車みたいな戦闘用、軍用のタイプが多いが、女児のはオープンカーやワンボックスが用意されている。

 それにしても、ワンボックスも今風のヤツだなぁ……。笑。


 何となく夢は無いが、写真を見ていると沢山のペットに囲まれた家族の移動用……か。そりゃこのサイズになるか。


 そう言われてみれば、着せ替え人形の家族もそんな一家だった気がするな。


 女子の理想っていうか、おままごとの実際ってそういう感じなのかな?


(ん?)


 と、童心に帰って見ていると……某有名なキャラクターモノのお姫さまシリーズ? のお城のセットの横に……英語版の箱が置いてあった。


(海外版? 並行輸入版とかかな?)


 その箱だけ、ラッピングの仕様が違う。まあ、よくある真空パック系のピタッとしたヤツだ。

 通常版……日本製、日本版のキットにはラッピングが無い。


(「dungeon」……ダンジョンか。スゲーシンプルな名前……だな。というか、そこそこデカいな、これ。ってえ? なんだ? この箱だけフィギュアが違う?)


 箱には当然、このセットでどんなモノが作れるかが、写真で紹介されている。

 表記が全て英語なので判りにくいが、文字ではもの凄くシンプルなことしか書かれていない。


(なんだ、このクッソリアルな……ゴブリン? フィギュアだよな、うん。TVゲームのダンジョン系のソフト……どのシリーズだか忘れたけど……どれかに出てきたヤツにスゲー似てる)


 正直、この新シリーズらしき箱の写真からの情報を読み取ろうとすればするほど、他のシリーズと比べると、かなり異質だった。


 まずは人形。このロゴブロックには男児向け、女児向けで人形が付いている。黄色いのが男児向け、ちょっとリアルのが女児向けだ。


 だが、この箱には……モンスターのフィギュアが附属しているようだ。しかもかなり細かい作り……小さなフィギュアとでも言えば良いのだろうか?


 写真にあるのは、緑の肌の小さな小鬼はゴブリンだろう。ゲル状のぐんにゃりしたのはスライム。角のあるウサギがホーンラビット、灰色の狼がグレーウルフ、剣を持った骨のスケルトン。これが一番小さい? スモールカテゴラリ。


 で、ミディアムカテゴラリには……オーガ、サイクロプス、ゴーレム。


 そしてラージカテゴラリは……定番中の定番ボス、宝珠を握り締めた赤い竜。レッドドラゴンだ。


(なんだこれ、今はこんなのがあるのか! かっ、カッコイイ……)


 自分の唯一の趣味とも言えるゲーム。中でも俺はダンジョンに潜る系のRPGが大好きだった。


 そしてさらに子どもの頃好きだったオモチャナンバーワン、ロゴブロックのカップリング。こ、こいつは……。


 さっきまでの強烈なノスタルジーは既にどこかに飛んでいってしまっていた。目の前の現実にワクワクしている。


(これ、多分、フィギュアは灰色とか茶色の単色成形なんだろうな。パッケージ写真の様な細かい着色は出来てないハズだ。まあそれでもこの作りは中々に見えるなぁ……)


 正直、フィギュアの完成度やクオリティに関してあまり詳しくは無い。仕事的に、どちらかと言えば、海外産の商品のパッケージ詐欺の方が詳しかったりする。


 なので、どう考えてもこの写真のフィギュアは詐欺だ。


(探せばどこかに「この写真はユーザーが手を加えたものです」的な注意書きが小さな文字で書いてあるハズだ)


 それは仕方ない。よくあることだ。


 とは言うモノの、造形的にこのクオリティのフィギュアが附属しているというのはちょっとスゴイ。

 未着色のモノだとしても、ちゃんと色を塗ればこのクオリティのモンスターのフィギュアが手に入るということである。


 ……それこそ、日本だとガチャガチャで買える人形のシリーズがある。百円〜数百円までクオリティーはイロイロだ。

 それこそ五百円、千円のヤツは着色済みだった気がするが、写真を見る限りそれよりも細かい造り、複雑な着色な気がする。


 つまり、この箱の中のフィギュアは単体でそれくらいの価値があると思う。


 有名な漫画やアニメ、そして大作ゲームのシリーズのフィギュアなんかは、高クオリティで人気が高い。

 どれも着色前の肌色や白系の一色成形の作品で、自分で着色するのだが、それと比較しても圧倒的だ。


 有り得るのは写真に偽りありで、中身が別モノ、とんでもなくチャチイ……という可能性だが……うーん。

 一昔前ならともかく、最近の製品でなぁ~そこまで酷いのは……しかも、これ、英語表記ながら、よく見るとMade in Japanと発見してしまった。


 マジか。


 制作現場は日本にあるのか……。うーん。それが本当なら細かい作りなのも納得ができる……けれど。


 そして、フィギュアに続いて異質なのが……ブロックに附属している特殊ブロックだ。この箱モノシリーズには全てのブロックシリーズに共通している通常のブロック各種の他に、造形物に合わせた特殊ブロックが封入されている。


 それこそ……戦闘車両であればそれに取り付ける砲塔やキャタピラ、ショッピングモールだったら大小様々な看板や照明器具、病院であれば患者さん用のベッドパーツ、手術器具等々。


 特徴的なパーツはほぼ、この特殊パーツで処理されている。それこそ……氷の城の特徴的なクリアな壁や、階段などもそれだ。


 で。この「ダンジョン」、その特殊パーツが非常に多そうだ。


 洞窟系の壁、変な魔方陣の書いてある遺跡系の飾り、松明の蝕台、回復の泉の湧く水源パーツ。王座や組み合わせると魔方陣の描けるパーツ等、とにかく見たことが無いモノが非常に多く入ってる様だ。


 箱の大きさも最大級、パーツ数も多いので……値段が……三万円とちょいお高いが……うーん。まあでも普通か。男児用、女児用のキット、箱モノも大きいヤツは一~三万円くらいする。


 ここに並んでいるのも同じくらいの大きさのヤツは大体そんな値段だ。閉店するのに……こんなに残ってて大丈夫なのかな? なんて心配になってしまう。


「ああ、今日から閉店セールだからね、基本半額でいいよ」


 いきなり、おじちゃんの声が響いた。それほど大きな声じゃ無いが、俺以外客のいない静かな店だ。「はあ」みたいな感じで頭を下げる。


(マジかっ! っていうか、買いだ!)


 俺の様な平サラリーマンにとって3万円は超高額商品である。家賃のかからない一人暮らしとはいえ、ぜいたくな暮らしはしていない。

 多く無いボーナスも、保険金なんかと一緒に、全額を超低リスクの安定分散投資に回している。低所得者的に考えたささやかな老後対策だ。


 普通なら……当然だけど、この場でスマホで調べる。

 閉店に感謝を込めてここで購入するにしても、ネットで買うといくら位なのか? は知っておいた方が、後で「ああ~高い買い物しちゃった~」と悲しくならなくてすむ。


 ロゴブロックはロングラン商品なだけに、値引き率は突出していないハズだ。非常に安定していると聞いたことがある。


 正直、正規品新品であれば、並行輸入でも二割引が限界だったハズだ。それを五割引だなんて。


 何のためらいもなく「ダンジョン」の箱を手に取り、レジへ向かう。


「毎度あり」


 半額の一万五千円を払う。


 入れてくれたのは巨大な袋。赤い地に人形や怪獣、沢山のオモチャが描かれている。


 ああ、これは……。


 俺の中のクリスマスの紙袋だ。記憶に残っていた定番記憶はこの店の袋だったのか。


 両親のことを明確に思い出したり、自分の記憶を形成している定番の元祖を再確認したりで妙に盛り上がってしまった。


 閉店間近のおもちゃ屋でこんな感情になっているオッサンはそうそういないだろう。たぶん。


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