第10話:ゴブリンの山砦
その砦は王都ファブルヘイムの北部に位置する荒原の奥にあった。ポツンと荒野に佇む岩山が、拙いながら要塞化しており、物々しい雰囲気になっている。
いつしかそこは、こう呼ばれるようになった――〝ゴブリンの山砦〟と。
「あれの頂上に咲いてる花の採取だっけ? なんか簡単そうで拍子抜けしちゃうわね」
「油断しない方が良いよ。武装したゴブリン達が巣くっている場所って話なんだから」
「ゴブリン……ねえ」
そんな会話をしながら、〝ゴブリンの山砦〟のすぐ麓をクオーツ達が歩いていた。
「そういえば、リンドブルム王国には魔物はいないんだっけ」
「そうよ。だから楽しみだわ、魔物を見るの」
「そんな良いもんじゃないけどね……まあ僕もゴブリンを見るのは初めてだけど。僕の田舎も魔物のいない土地だったから」
「案外、生息域が限られているのねえ」
「お二人とも、あれが入口では?」
ルーナの言葉に、先頭を行くクオーツが頷いた。三人の目の前には骨で出来た粗末な門があり、そこからどうやら内部へ入れるようだ。
「じゃあ、行こうか。僕が先頭を行くから、二人はついてきて」
進もうとするクオーツを尻目に、なぜかカーネリアはその場から動こうとしない。
「……ねえ、この中にそのゴブリン? だっけが巣くっているのよね?」
「そうだよ? どうしたの? もしかして怖くなったとか?」
「なわけないでしょ。いやね、わざわざ敵がいるって分かってて入っていくのも馬鹿らしくない?」
「へ? いやまあそれはそうだけども……でも入らないと試験合格の条件である〝子鬼の鬼灯〟の採取が出来ないよ?」
「まあ、見てなさい。ちまちま倒して上まで昇るなんて性に合わないもの。ルーナ、アレを」
そう言って、カーネリアが不敵に笑ったのだった。
「なんだか……嫌な予感がする」
そのクオーツの予感は――当たることになる。
☆☆☆
一方その頃。
冒険者ギルド本部、事務局内。
「君、登録試験を受けた者がいるって本当かね?」
管理課の課長が、休憩中の受付嬢に、そう問うた。
「あ、はい。何度も止めたんですが……頑なに受けると言いまして……」
「やれやれ……最近はその手の若者は減ったと思ったのだがね……。ま、
その課長の言葉に、受付嬢が首を傾げた。
「へ? 試験内容って変わったんですか?」
「は? 二年前に変わっているぞ? あの砦は元々はゴブリンが巣くっているダンジョンで、新人には危険だが、中堅クラスなら安全に進めるということで試験に採用されたんだ。だけど、近年になってオーガ共が住み始めてな。特に奴等のボスであるオーガキングは、〝剣鬼〟と呼ばれるほどの難敵で、最低でもBクラスの実力がないととてもじゃないが突破できない難所になってしまったんだ。だから試験内容をより安全な龍神洞穴に変えた」
「え?」
「はい?」
しばしの沈黙。
「……あの、カウンター内にある登録試験についての要綱……前のままなんですけど。だから……えっと……前の試験を伝え……ちゃいました」
「なにいいいいいい!? 君、それはマズイよ!? 前はきっちり実力あれば合格できる内容だったけども、今は絶対に無理だよ!? いつ彼等は出発した!?」
「今朝……転移陣を使う申請があったので……今頃到着しているかと」
「まずいまずいまずいまずい。すぐに緊急依頼を!」
「は、はい!」
慌て出す二人に、声が掛かる。
「――僕が行きますよ」
それは、鎧と剣を纏った青年――元【輝けるロータス】のリーダーであるパスーラだった。
「ぱ、パスーラ様!? なぜここに!?」
「ん? いや、ちょっと資料をね、見たいと思って。そしたら今の話が聞こえてきてね。相当緊急を要する事態のようだから、僕が今から向かってもいいよ。――特別にね」
「あ、それは、そのありがたいお話ですが……良いのですか、騎士の仕事もあるのでしょうに」
「構わないよ。市民を護るのが僕の仕事でもあるから。じゃあ、早速行くから、諸々の手続きをよろしくね」
「あ、はい! 私がやっておきます!」
「頼んだよ」
パスーラが地下にある転移陣へと足早に向かっていった。
「彼が行けば問題ないだろう。なんせAランク冒険者でありながら騎士になれた素晴らしい御方なのだから」
「……そうですね」
なんとなく、違和感を覚えながらも受付嬢は、その課長の言葉に頷いた。
確かに素晴らしい人間ではあるかもしれないが……なぜ自身のパーティが不正によって登録抹消されたのに、未だにギルドに影響力を持っているのだろうか。
それが彼女には不思議で仕方がなかった。
だが、自分のミスの尻拭いをしてくれるので、文句は言えない。
「課長、すぐにカウンター内の要綱を新しいのに取り替えてくださいね!」
「分かってるよ……いや、参ったなあ」
こうして、冒険者ギルド本部はにわかに騒がしくなった。
そして、クオーツの因縁の相手とも言えるAランク冒険者にして、王国騎士であるパスーラが、現地へと向かうことになった。
二人の対決が、近付いていた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます